爆弾事件の終結 後編

 救急車と入れ替わるように、爆発物処理班が到着し、爆弾解除のプロが現場に臨場する。

 爆発物処理班の中井は、まず現場に残された怪しげな正方形の箱を開ける。そうして彼は頬を緩め、目の前にあるデジタルのタイマーを見つめた。

「時限式の爆弾です。タイムリミットは午前零時。残り約七時間三十分で爆発します。これより解体します」

 爆発物処理班の中井は、まずタイマーの蓋を開け、幾つもの繋がれたコードを見た。

 次に遠隔操作の黒色のコードを切り、深くなった呼吸を整える。それから次々に手際よくコードを切断していき、爆弾のタイマーは制限時間を六時間三十分残して、停止した。

 深呼吸した中井は、携帯電話を取り出し、刑事部長に報告する。

「千間刑事部長。爆弾は無事に解体しました。危ない所でしたよ。あれが爆発したら、渋谷区は壊滅していたでしょう」

 時を同じくして、大野警部補は、仲間の刑事によって、非常口が開けられた痕跡があることを聞かされた。それを裏付けるように、何度もビル内部を探しても、朝日奈恵子の姿はなかった。

 米川ビルに仕掛けられた爆弾が解除されてから、三時間の時が流れる。それでも刑事達は念のために、爆弾の捜索を続けていた。


 丁度その頃、捜査本部に葛城警部が千間刑事部長と顔を合わせる。

「千間刑事部長。米原ビルで倒れていた清水良平さんの緊急手術が終了しました。腹部に残る銃弾を取り除き、命に別状はありません。ただ今も意識は戻っていません」

「そうか。それで朝日奈恵子の行方は?」

「未だ掴めません」

 ハッキリとした答えを聞き、千間刑事部長は腕を組む。

「葛城。爆弾事件は終わったと思うか?」

「分かりませんね。油断は禁物です」

 同じくして、北条が捜査本部に駆け付ける。

「千間刑事部長。米原ビルから発見された七百万円の紙幣番号と、七年前の誘拐事件の身代金の紙幣番号が完全に一致しました」

「これで七年前の誘拐事件の身代金は全て回収したようだな。指紋は取れそうか?」

「無理ですよ。身代金からは、誰の指紋も検出されませんでしたから。もちろんアタッシュケースからも。それと、どうでもいいことかもしれませんが、七百万円が入っていたアタッシュケースは、七年前の物と同じです。その証拠に、ケースから清水良平の指紋が検出されました」

 つまり、七年前の誘拐事件の身代金が警察に押収されても、誘拐事件の犯人が誰なのかが分からない。その事実に、千間刑事部長は肩を落とす。

 新たな爆弾は見つかることなく、制限時間の午前零時を迎える。それでも、都内で爆発は起こらなかった。

 そのことを踏まえ、千間刑事部長と喜田参事官は、警視庁内の記者会見場に向かう。


 早朝であるにも関わらず、記者会見場には多くのマスコミ関係者が集まっていた。

「昨日発生した連続爆破事件についてですが、午後四時警察官が爆弾を発見し、解体しました。尚、ご存じのように新たな爆弾は発見されず、制限時間の午前零時を過ぎても、都内で爆弾事件は発生しませんでした」

 千間刑事部長がマイクを握り、マスコミ関係者に状況を説明すると、新聞記者が右手を挙げた。

「犯人は捕まりましたか?」

「いいえ。爆弾犯は未だ逃亡中です。ですが、爆弾犯が爆弾と共に隠した七百万円は、警察が回収しました」

 刑事部長に代わり喜田参事官が答えた後で、別のアナウンサーから質問が飛び出す。

「犯人の目的は?」

「爆弾テロではないかという意見がネットで拡散されていますが……」

「今後も同様の爆弾事件が発生する可能性はありますか?」

 次から次へと飛び出す質問に対し、千間刑事部長は、マスコミ関係者を睨み付けた。

「爆弾テロか愉快犯の犯行か。それは今後の捜査で明らかになる。今後同様のテロ事件が発生するかもしれないが、その時は警察組織の力を結集して、全力で国民を守るだけだ!」

 愛澤春樹は、自宅のリビングで、モーニングコーヒーを飲みながら、警視庁の記者会見を見ていた。そして彼は、コーヒーカップを唇に近づけつつ、机の上に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばす。

 そして、彼は頬を緩め、テレビのスイッチを切った。

  

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