vsクンシー・ドロン Ⅱ
轟く銃声。それと同時、ミーリとクンシーは交錯する。
クンシーの元々肩まであった青いセミロングの髪。彼女から見てその右側が、切り落とされて落ちる。
銃撃によって切れた髪を見た彼女の召喚獣である騎士は、その小さな鈴の声音を鳴らした。
「……何故、今の一撃で決めなかった」
「お、やっと喋った。君全然喋らないからさ、俺の見立てが間違ってるのかなぁとか思ってたけど……やっぱり、魔神だよね」
「つい先ほどまで、そのことを自覚することすらできない状態ではありましたが……しかし、今は自身の名すらハッキリと覚えている。私はヘクトール。この世界では神話に語られる、王の子だ」
「ヘクトール、ね……いや、違うね」
ミーリの発言に、ヘクトールと名乗った鎧の少女は口をへの字に曲げる。ミーリは銃口で頭を掻くという危ないことをしながらも、背後から一撃を狙っているクンシーに注意を向けていた。
故に、クンシーはすぐさま飛んでいけない。刀を握り締めて構えたまま、動けなかった。
「ヘクトールがこの程度のはずないもん。俺もここまで、たくさんの神様と戦ってきたからねぇ……悪いけど、君があんなすごい英雄さんだとは、思えないなぁ。どう?」
ミーリの見解に対し、少女はフムと吐息する。そして参ったと言った様子で、白状し始めた。
「やはり、私では父の名を語るに値しないか……あなたの力を見くびっていた。改めて名乗ろう。私は王の子、英雄ヘクトール。その血を継ぐ者――アステュアナクス」
「……そう来たかぁ……」
『おいミーリ。あいつ何者だ、強ぇのか?』
まるで無名の戦士の名を聞かされたかのような、ウィンの反応。しかしそれは無理もないことである。何故なら彼女は本来、戦士ではないのだから。
その詳細と、さらにここまで見ての憶測を、ヘレンが語る。
『強いはずはないわ。だってまず、彼女は乳飲み子の時点で親の敵討ちを恐れた敵に殺されて、生涯を終えたのだから。強いどころか、戦ったことすらないはずよ。魔神として転生すること自体、まずありえない』
『ハ? だったらなんでいやがる、説明できんのかよ』
『アステュアナクスという名前の人が、もう一人いるわ。あの人類最初で最強の魔神、ヘラクレスの娘。ヘクトールの子は性別すらわからないまま死んだけれど、同じ地方の神話。もし彼女がヘラクレスの娘の概念を取り込んだとしたら、例え無名でも一縷の可能性はあるわ』
『よぉはイレギュラーってことか……』
「女神アテナの盾、か……なるほど私達のことを、よく知っている。まさにその通りだ」
アステュアナクスは、自らの背に数十の武器を取り出す。その姿はまるで和国に名高い修羅道の武神のようで、アステュアナクスはそのうちの長刀を取り出して振り回した。
「そう、私は本来こうして顕現することのなかった存在。神どころか、人間にすらなり切れなかった存在。こうして人の姿を得られたのが、奇跡と呼べる存在だ。そして私は意思を持ったことで、一つの夢を持った」
「ふぅん……聞いてもいいかな」
「私の存在を、より多くの人間に認めさせたい。私がこの世界に、一個の命として根を下ろしたことを証明したい。私は、自分の存在を誇りたいんだ」
その言葉を聞いて、クンシーとケットシーは何かを思ったようだ。自身の存在の認定を求めるアステュアナクスに対して、感情の籠った視線を向ける。
だがその視線に気付いていないアステュアナクスは、ミーリに向けて長刀の切っ先を向ける。
「あなたは、元々私が召喚されるはずだった世界で有数の戦士と見受けられる。あなたと戦うことで、私は自身の価値を証明したい……と、思っていたのだが」
「うん。君、その体じゃ戦えないでしょ」
ミーリはそのものズバリを言う。アステュアナクスは鼻で笑い、長刀を下ろした。たった今切っ先を向けたのは虚勢だったと見破られ、返す言葉もない。
「霊力が不安定で、そもそも現界してるのが奇跡ってくらいだもんね。霊力の使い方がうまいよ、それだけ力を使ってて消えないんだもの」
「あぁ、まさにその通りだ。霊力の使い方がうまいというのは、褒め言葉として素直に受け取らせてもらうが……だが残念ながら、それだけではないんだよ」
軽いモーションで長刀を投げる。それはミーリの側を通過して、跳びかかって来ていたクンシーの手に握られる。
そして大振りで斬りかかったクンシーの懐に入り込み、銃口を向けたミーリだったが、もう片方の手に握られていた刀に突かれ、回避のために距離を開けることを余儀なくされた。
ウィンもヘレンも言いたげだが、言えない。ミーリの中の感覚では、今の間合いでは最高で相討ち、でなければ銃撃も盾も間に合わず、頭を貫かれているところだった。
さらに言えば、今の間合いでの一撃なら傷の一つはついても仕方なかった。回避し切れたのは、ケットシーが付加してくれた強化魔法のお陰である。
そして同時、銃ではクンシーとの相性が悪いことがわかった。速度のある彼女に、銃弾を当てることは難しい。無論できないとは言わないが。しかしそれではタイムロス、霊力のロスだ。
「私は彼女の魔力によって、ここに顕現した召喚獣。魔神ではあるが、しかしあなた方と違って正当な手続きを受けてこの世界に呼ばれている。故にあるのだよ、召喚士からの魔力の供給が」
「つまり受け取った魔力を使ってるってことね……でもそれじゃ、君のその力は……」
「あぁそうだ。これは魔法だ。だが元々召喚獣である私に、本来そんな力も自由も与えられていない。私にできるのは、武器を想像し創造し、それを戦う者に与えることのみ。私自身が戦おうとすれば、あなたの言う通り霊力基盤が失われ、自壊することだろう」
だが――と再び武器を、今度は斧を投げる。それを受け取ったクンシーは再び大きく振りかぶり、縦真っ二つにせんと振り下ろした。
ミーリは現出した光の膜で受けるが、鈍重な攻撃による衝撃までは殺せず、十数歩分後退させられた。踏ん張った分だけ足が沈み、コンクリートの道路を掘った。
「私の召喚士は、自ら戦える。私の力を存分に発揮し、それを有効活用できる。そして私は、そんな主人に自由を与えられた。つまり、こんなこともできるのさ」
アステュアナクスは指を鳴らす。するとクンシーの体を光の膜が覆い、そして全身に染み込んでいった。それと同時にクンシーの体から、とてつもない力の高まりを感じる。探知してみればそれは、霊力と魔力という本来重なることのない力を重ねた、オリジナルブレンドだった。
本来召喚獣を強化し、戦わせるのがこの儀式における魔法使いの立ち位置。しかしこの二人の場合、それが完全に逆転している。
おそらくそれは、誰もしようとすら思わなかったこと。前例のないことなのだろうことは、側で見ているケットシーの反応からして想像に難くない。
しかしこの二人は噛み合っている。この二人の歯車は、実にうまく回っている。それを助長させたのは、おそらくクンシー。
何を思ったのかは知らないが、召喚獣に自由を与えるというこの世界では前代未聞なことをやってのけ、さらに協力関係にまでこぎ着けた。彼女の所業は、おそらくこの世界では普通ではない。
しかし彼女もまた、自らの願望のためにそうするしかなかったのだ。彼女もまた、アステュアナクスと同じく自身の願望のために戦う人間なのだろうこともまた、想像に難くないことだった。
「ミーリ・ウートガルド」
巨大な刃を持つ斧を引きずりながら、クンシーは少しずつ迫ってくる。その眼光は鋭く滾り、彼女には珍しく凄い興奮状態にあることは明白だった。
「あなたは強い。私達魔法使いにとっての常識なんて、一切通用しないことがわかった。あなたに勝つためには、常軌を逸した策を用意しなければならなかった。
最初はそんなつもりで、彼女を解放したわけじゃなかった。ただあなたを見て、召喚獣に自由があってもいいのではないかと思った自分がいて、拘束を解いた。
だが彼女は、戦ってくれると言った。そのときの嬉しさは、口にするには余りにも多すぎて、私の頭の中に浮かぶ語彙では足りなさすぎる。
そして同時に気付いた。私にも願望があるのだと。私もまた、周囲に自身を認めて欲しいのだと。学校最強だなんだのと、称号はいくつかもらった。しかし私の戦い方は、あまりにも敵を作り過ぎる……それはホークとの戦いで、よくわかった。だから、私は……」
「……負けるのが怖い人はいつも、挑戦する人を笑う。だけどその人達を唸らせる成果を出すのも決まって、その挑戦者である。誰が言ったか知らないけれど、でもそんな言葉を思い出したよ。君に、この言葉を贈るね」
「なるほど、身に沁みる言葉だ……その言葉通りなら、私は今挑戦者だ。ミーリ・ウートガルド。あなたと戦い、そして勝って、私は私に誇りを抱く!」
構えたクンシーに対して、ミーリは溜め息を吐き尽くす。そしてあろうことか銃とガントレットを投げ捨て、完全に丸腰になってしまった。
それぞれ人の姿に戻った二人が、すぐさまその場から下がる。ウィンはかなり文句を言いたそうだったが、しかしここでもグッと堪えた。ヘレンはずっと気を張っていたせいか、かなり眠そうに目蓋をこすっている。
そしてそんな二人を下げたミーリは、まるで刀剣を握り締めているかのような構えで迎える。無論その手に、武器はない。
しかし構えるミーリに対して、クンシーは一縷の危機感を覚えて肉薄した。大気摩擦を受けて燃え盛る刀身を交差させ、そして斬り込む。
「行くよ……クンちゃん」
「“
得物のないミーリに、クンシーは容赦なく斬りかかる。交錯する剣撃がミーリを斬り裂き、クンシーが制すると思ったのはアステュアナクスと素人目のケットシーのみ。
ミーリが何かを狙って武器を捨て、構えたことを理解していたクンシーだったが、ミーリが果たして何を狙っているかはわかっていなかった。
故に次の瞬間、反応が遅れる。
どこからか飛んできた、銀色の刃を輝かせる黒剣。それはクンシーが繰り出す刀剣の炎よりも凄まじい熱量を走らせて、ミーリの手に握られた。
「“
灼熱の剣閃が、二本の刀を呑み込んで焼き尽くす。しかしそこにクンシーの姿はなく、ミーリの剣撃の重さに逆らうことなく体を飛ばされ、一撃の深いところから逃げていた。
地面と平行に飛ばされながらもなんとか体勢を立て直して足を付き、踏みとどまる。全力を出して止まったがために、全身に大量の汗を掻いていた。
その目の前では、黒剣を握り締めて一撃の余韻の中にいるミーリ。ゆらりと体を持ち上げて、ギリギリ攻撃を回避したクンシーを見て意外そうな表情を見せた。
「あり? 今ので決めたと思ったんだけどな……やっぱりうまいなぁ……」
今、どこから剣が……。
ミーリが魔法戦争に参戦するために行った試験で、自由自在に動く剣があるのは見た。だがその剣を繰り出せる少女はここにはいないはずだと、クンシーは周囲を見回した。
すると一か所、ケットシーの側からミーリから見て後方の空間に亀裂が入っていた。そこからリストが出て来たかと思えば、その下からレーギャルンが入ってくる。さらにリストの手を握り締めて、ネキまでもがやってきた。
リストが別の場所との空間を繋ぎ、ここまで連れて来たわけであるが、リストの能力を知らないクンシーからしてみれば理解不能な光景だった。
「マスター!」
「レーちゃんナイスタイミング。次もお願いね」
「は、はい!」
駆け寄ったレーギャルンはミーリの体を強く抱き締める。そして自らの頭を撫でてくれるミーリの手を見上げると、その指先に口づけして姿を消した。
レーギャルンが背負っていた箱が残り、それに寄りかかる形でミーリはクンシーの出方を見る。その手に握っていた剣はすでに消していたが、どうやら予備動作ゼロで繰り出せることがバレているらしく、クンシーはかかってこなかった。
「うぅん……今ので決めきれないとなる、と……」
まぁ方法はたくさんあるんだけどねぇ……でも今回殺しちゃダメだし、難しいよねぇ……そこのお嫁さんみたいに、魔弾の呪いで動き止めとくとかできないしさ……さて、どうしよっか。
攻撃手段に迷っていると、ケットシーが無言で駆け寄って来た。そしてクンシーに共に対峙する形で、ミーリの前に立つ。そして頭頂部でピクつく猫耳が、何かの合図らしく動き始めた。
「相手がコンビネーションなら、こちらもコンビネーションです。お手伝いします」
「うぅん……いつもなら、いらないよって言うとこなんだけどねぇ……仕方ないかぁ。まぁでも無理はしないでね? 下手なサポートって、正直邪魔なだけだからさぁ」
「はい、努力します」
「……じゃ、行こっか?」
「はい!」
ケットが前に?
どういうことだ……接近戦を主体とする彼の前にいたら、ただの障害物だ……ケット自身は、そこまで速くもなければ強くもない。ただ才能があるとすれば……。
「“
不可視不可聴の空弾が、クンシーに飛ぶ。しかしそれを構成する魔力を感じ取ったクンシーは跳び、回避した。
だがその先に、無数の剣の群れが待っていた。すべてがカタカタと音を立てて震えながら、突撃の合図を待っていた。そしてその合図を、ミーリは指揮で出した。
無数の中から数本の剣が、クンシーに向かって突撃する。しかしクンシーにぶつかったのはその燃え盛る刃ではなく、熱を持った柄だった。当たる寸前に方向を変え、クンシーに叩きつける。
コンクリートに叩きつけられたクンシーに、さらに遅れて剣の群れが襲い掛かる。今度はすべて、刃を向けて。
クンシーはそれを避けて反撃の体勢に入ろうとするが、しかし見えない塊に吹き飛ばされる。ケットシーの繰り出した、不可視不可聴の弾だ。クンシーを吹き飛ばし、店のガラスを粉砕して叩き込む。
さらにケットシーは追撃の構え。手を大きく広げると、その掌に魔力を収束。その形が猫の肉球になると、強く弾き出した。
「“
「“
「――?! “
繰り出した肉球型の炸裂弾が脚力強化による高速移動によって躱され、距離を詰められたケットシーが距離を取るために自らの体重をずっと軽くして爆風に吹き飛ばされるように移動する。
横から飛んできた鎌を受け取ったクンシーの渾身の一振りを、ケットシーは体をのけ反って躱す。それを見て、この世界のことを少しだけかじったミーリはリンボー! と騒いだ。
そして同時、クンシーは気付く。
ミーリが途中から、何もしていない。
強いてしていることといえば、アステュアナクスがクンシーに武器を渡すのを難しくしているだけだ。ケットシーにとって不利となりそうな、クンシー得意の剣や薙刀の類が投げられると同時、黒剣で粉砕している。
だがこの二人の戦いには、ほとんど介入していない。ケットシーに戦わせている。
まるで戦略が読めない。戦力的に言えば、ミーリの方が圧倒的にケットシーを上回り、クンシーを負かしてしまうだろう。悔しいが、今のところその図しか思い浮かばない。
だが何故か、ミーリはそれをしない。あくまで主軸はケットシーで、自分を完全に蚊帳の外に置いていた。
ふざけるな、手を抜いているのかと、クンシーはケットシーを振り切ってミーリに肉薄しようとする。だが――
「“
鎌を折られた。というか、追いつかれた。完全に振り切ったはずだった。あり得ない。
「余所見はまだダメだよ! クンちゃん!」
「ケット……!」
「“
「! っ、“
「“――
「“――
最初の蹴りの勢いを利用して繰り出した回し蹴りと、指先に魔力が籠った犬の牙を思わせる掌打がぶつかる。その衝撃は比較的小さく圧縮され、双方の体の内側に響き渡って弾け、消えた。
その凄まじい衝撃に耐え切れず、減速したケットシーは転ぶ。クンシーはケットシーを見限ってミーリに肉薄しようとしたが、しかしそのすぐあとに彼女もまた転んだ。
だがすぐに立ち上がったのもまた、クンシーだった。アステュアナクスからトマホークを受け取り、振り上げる。
「……悪いが私の勝ちだ、ケット」
「……やっぱり、すごいやクンちゃんは……私なんかじゃ、これが限界だもの……クンちゃんは、やっぱり最強だよ。私達の、目標だよ……」
ケットシーは立ち上がろうとするが、しかし体に力が入らず立ち上がれない。
時間をかければ立ち上がれないことなどないはずのダメージ量だったが、戦闘慣れしていないケットシーにとっては辛かった。
「クンちゃん。クンちゃんのこと、妬んでる人とかたくさんいるよ? 私が知ってるだけでも、すごい。でも、それよりもずっと、クンちゃんに憧れてる人の方がすごいんだよ? クンちゃん……クンちゃんは、もうみんなから認められてるよ」
「……そう」
そのとき少しだけ、ほんの少しだけ女の子の口調を使ったのは、クンシーにとってなんだったのか、ケットシーにはわからなかった。
女の子なのに男に近い言葉遣いをしていたことに気付き、それが恥ずかしくなってきていた思春期の悩みなど知るはずもなく、いつもの少しだけ無理をしているクンシーだと思ったくらいだった。
だがこのとき、ケットシーは斧を振りかぶられながら思った。
クンシーがそんな小さな無理をするのも、今が最後な気がする。もうクンシーは、自分らしさを取り戻してくれた気がする。
そのきっかけが、親友である自分の一言などとは知ることはなく、ケットシーは直感的にそう思った。そして、自分を倒す斧の一撃が振られる瞬間に、口角を持ち上げた。
「だけどゴメン、今日は私達が勝つね!」
その言葉に、クンシーは思わず斧を止めてしまった。そして横を振り向いてしまった。するとそこに、ミーリが肉薄して来ていた。
斧の持ち方を変え、スイングするように斜め上に斬り払う。しかしミーリはその低い下を通り、そしてそのまま通過した。
攻撃して来なかったことに、クンシーは違和感を感じる。だがその意味を、すぐさま知った。
ケットシーが、掌に肉球型の魔力の塊をためて振りかぶっている。斧を振り回した勢いがまだ殺せず、回避行動に移れない。
そのクンシーの汗ばんだ頬に、ケットシーは名もないただの魔力の塊をぶつけるだけの平手打ちを叩き込み、クンシーを殴り飛ばした。
クンシーはそのまま力尽き、全身で息をしながらケットシーを見上げる。
「……作戦通り、だったかな。最後、完全に彼が来ると思ってしまった。最初から彼ばかりを見ていたから、彼に固執していたから、視界が狭まった……知っていたのにな……ケット、おまえは、強いって」
「……私の、負けだよ」
クンシーが敗北を認めたことで、アステュアナクスはここまでかと投擲しようと持っていた剣を棄てて両手を上げる。
それを見たミーリはレーギャルンの武装を解き、彼女にケットシーのところに行かせた。ダメージになれていないせいで、脚がガクガクだ。
「リスッチ、二人を連れて来てくれてありがとう。おかげで勝てた」
「ムゥ……私は、奴を倒すには近距離もできるこやつ等が必要だと思って連れて来たのだが……まさか猫の魔女に決めさせるための囮になるとはな。打ち合わせしてたか? そんなこと」
ミーリは首を横に振る。レーギャルンの大丈夫ですか攻撃に耐えているケットシーを見ながら、その理由を続けた。
「あの子、やる気満々だったからさ。ちょっと譲っちゃっただけだよ。ホントは俺も、クンちゃんとやりたかったのにさぁ……ま、友情には代えられないよねぇ」
「……この、カッコつけめ。だが――カッコよいぞ、先駆者」
「ありがと……さて」
ミーリの見上げる先。そこには風に揺れる一つの霧の塊がいるように見えた。
だが実際はその塊をまとった誰かが、ミーリのことを見下ろしていた。その瘴気をまとった弓と刀剣は、禍々しいほどに黒かった。
「次は君だね、瘴気くん」
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