召喚獣

 本来、召喚された騎士や獣は、人として扱われないのがこの魔法世界の常識なのだという。召喚獣とひとくくりにされた彼らは、人にとっては使い魔でしかない。彼らには普段実体化の権利もなく、幽体として主の周囲を漂っているのだそうだ。

「彼らは元々、私達の戦闘手段に過ぎない。召喚士は召喚と同時に与えられる刻印によって彼らを制御し、勝利する。それが私達の世界の常識だ。まぁもちろん、その常識を嫌う人間も、そこの彼女のようにいるのだがね?」

 そう語るのは、魔法学校校長、フォックス・ロバーツ。

 スラッとした長身の和服姿の女性で、髪の色と同じ白銀の尻尾が九本生えている。部屋を埋め尽くすほど長く太い九本の尻尾は、まるで狐のようだ。玉藻御前を思い出す。

 フォックスに呼ばれたミーリ達は、ケットシーと共に校長室にいた。そこで今、この世界での魔法使いと召喚獣との関係を、教えてもらっているところだ。

 フォックスは柄の長い煙管キセルを吹かし、灰を掌に落とす。その灰を握り締めたかと思えば、煙を上げて燃え尽き、消えてしまった。

「まぁクロニカくんのような人間の気持ちもわからなくはないが……生憎と、私も学校を任されているのでね。一個人の意思ばかり尊重するわけにもいかないのさ。故に召喚獣には基本幽体でいるか、地下の実験場に隔離しているのだけど……さて、どうしたものかね」

 フォックスの金色の眼が、ミーリを舐めるように見つめる。それと同時すべての尻尾がうねり、ミーリの体を撫で回し始めた。

「君達を果たして、召喚獣として見ていいのか。議題はそこだ。異世界からの騎士という面では、私達にとっては召喚獣となんら変わらない。しかし転移魔法でここに来た君達を、と呼んでいいものか。異世界からの漂流者、そういう見方もできなくはない……はてさて、どうしたものかなぁ」

「でも召喚獣として見た方が、そっちの都合がいいんじゃないですか?」

「それはそうなんだがね。だが幽体にもなれない。召喚獣パスも通れない。おまけに七人一組ときた。これは困った。まったく厄介なことをしたね、クロニカ。転移魔法で異世界から人間を呼んだ例なんて、聞いたこともない」

「ご、ごめんなさい、です……校長先生」

 フォックスは再び煙管を吹かす。再び尻尾を揺らめかし、戸棚の中から数枚のカードを引っ張り出した。

「とりあえず、元の世界に戻る方法を模索しよう。よりにもよって暗中模索だが、何、なんとかなるだろう。とりあえず、移動はこの生徒証兼定期券を使うといい。調度、七人分ある」

 フォックスの尾から、ミーリ達に手渡される。するとその指がカードに触れた瞬間、往復する駅の名前とミーリ達の顔とが刻まれた。

「私にできるのはこれまでだ。これ以上は贔屓ひいきというものでね、クロニカにばかり構っているわけにもいかない。異世界の騎士くん、悪いがこれからは君達でなんとかしてくれ」

「ありがとうございます、狐の先生。大丈夫、なんとかしますよ」

「ウム、君達の無事の帰還を祈っている。えっと名前は……」

「ミーリです。ミーリ・ウートガルド」

 元の世界に戻る方法を探してくれるという約束をしてくれた校長の部屋を出て、向かったのは学食。ラグナロクの食堂よりもかなり小ぶりだが、メニューは充実していた。

 しかし助かるのは、異世界の言語がこの魔法世界の言語と同じことである。言葉は通じる。書く文字もミーリの世界で言うところの和国のそれと同じ。だから読めなくはない。

 ただし書くとなると生憎と達者ではない。ミーリは和国の生まれではないのだ。特に漢字は難しい。普段だって文章を書くときは、魔法世界でいうところの英文で書く。

 それでもミーリが漢字やかなを読めるのは、昔父親に読まされていた本が和国のものだったことと、学園で空虚うつろ暁人あきと達和国出身者と友達になったことが大きい。

 書けはしないが一応雰囲気はわかる——のだが、少々この場では苦戦した。この国の文字は、漢字やかなばかりなのだ。おそらく主体がそうなのだろう。特に漢字が多い。難しい漢字はさすがに読むのもままならない。

 故にミーリはかろうじて読めるカタカナと平仮名だけで、メニューを決めた。

 ちなみに神霊武装ティア・フォリマであるロンゴミアント達には、その心配はない。彼女達の頭には、すべての言語がインプットされている。故に誰が主人でも、意思疎通が可能なのだ。

 そんな神霊武装、ロンゴミアントを除いた五人は食事を遠慮した。何せ今、ミーリ達はこの世界で通じる金銭を持っていないのだ。故にすべて払うのはクロニカということになる。

 食事の必要が元からない五人は、そういう理由で食事しなかった。

 だが生憎と、ミーリとロンゴミアントはそうはいかなかった。故にお金を借りて、パンを四つほど買って二人でシェアすることにした。

「本当に、皆さんは食べなくていいのですか……?」

 ケットシーは気にかけてくれる。今朝もそうだったが、彼女は神霊武装のことを何も知らない。

 そこで軽く、ミーリは食べながら神霊武装のことを話した。神霊武装の特徴、能力、人間とは異なる点。それをケットシーは忘れてしまうからといって、メモを取りながら聞いていた。

 そのメモは付箋ふせんだらけで、元々の厚さが膨張してさらに厚くなっていた。彼女が普段からどれだけ多くのことを吸収しているかの証拠だ。

 そのメモを見たミーリは、ちょっとだけ彼女のことが好きになった。彼女のような一人の努力家の存在が、頭の中で重なる。

「なるほど……でもあれ、ロンゴミアントさんも神霊武装なんですよね?」

 話と食事を同時に終えて、なんとか理解し切ったケットシーの当然の疑問。ロンゴミアントの存在。

 他の五人と違って食事が必要となっている彼女のことが、気にかかるのは当然。

「ロンは神霊武装だよ。だけど転移魔法、だっけ。それの影響なのかわからないけど、いつもとは色々違ってるみたいなんだ。だから他の五人と同じように、武装できるかも……」

 そう、わからない。

 いやそもそも、この世界では神霊武装の力が使えるかどうかがわからない。何せ色々あって、試せていないのだ。自分達の力は使えるのか、通用するのか、それら一切が不明だ。

 だから武装できないかもしれないというのは、ロンゴミアントに限った話じゃない。レーギャルンもウィンもネキも、ヘレン、リストだってできないかもしれないのだ。それはマズい。

「おい猫、邪魔だどけ」

 話を遮ってきたのは、佐久間さくまと呼ばれていたドレッドヘアー。そして何人かの男子生徒達。佐久間一行というわけか。

「さ、佐久間くん……」

「食い終わったならさっさとどけよカス、目障りなんだよぉ」

「ご、ごめんなさい。すぐにどきますね」

「おぉおぉ、どけどけ」

 ケットシーはお盆を持って立ち上がる。そしてそそくさと、逃げるように席を立っていった。

 ミーリ達もそれを追う。ここで揉め事を起こせば、ケットシーに迷惑がかかるのだ。それは最善ではない。

「ったくあのカス猫、ホント目障りだなぁ」

「なんであんな奴が、俺らと一緒のクラスなんだろうな」

「まったくだ、あんな落ちこぼれ。さっさと辞めちまえばいいんだよ」

 空いたテーブルで、彼らが好き勝手言っているのが聞こえる。正直我慢ならなかった。今すぐにでもその頭を捕まえて、あのテーブルに叩きつけてやりたいほどに。

 ここまで頭に血が昇るのが早いのも珍しい。彼女のメモ帳を見たからだろうか。だがどちらにせよ、彼女のことを悪く言っているのが許せなかった。

 真面目にみんなをまとめようとして反感を買い、陰口を言われるようになってしまったこともあった友達を一人、知っている。そのときもかなり、沸点が低かった気がする。

 メモ帳のことといい、どうしてもケットシーが友達と重なる。そういえば、彼女は無事だろうか。あの転移魔法にかかったのは、自分だけなんだろうか。あそこには彼女も——空虚うつろもいたはずだ。

 彼女は無事なんだろうか。もしかしたら彼女もまた、自分達と同じようなことになっているのではないだろうか。

 だがあのすべての事情を把握している様子の校長は、空虚の存在をまるで言わなかった。彼女が知らないと言うだけかもしれないが、それでもこの学校にいる可能性は低い。

 魔法戦争と呼ばれる儀式はこの学校でのみ行われることだというし、この学校にいないとなれば多分大丈夫だ。そう信じよう。

「ミーリ?」

「ごめんごめん、行こっか」

 食堂の外で、ケットシーは待っていた。彼女と合流して、次の授業が行われるという地下の大広間へと降りる。するとそこには、クンシー・ドロンともう一人の女子生徒が戦っていた。

 女子生徒が風を操り、竜巻を創り出して放つ。だがクンシーはどこからともなく三叉槍を取り出すと、後方への跳躍の後に思い切り振りかぶって投げつけた。

 三叉槍が竜巻を割り、斬り裂き、穿つ。そうして女子生徒に肉薄し、床に突き刺さった。三つ又に分かれた刃の間に、彼女の脚が入る。少しでも動けば、斬れる。そんな状態にされてはもう闘争心が持つはずもなく、彼女は降参した。

「さすがクンちゃんです」

「強いねぇ、あのわんこくん」

「当然ですよ。クンちゃんはこの魔法学校始まって以来の天才と呼ばれた魔法使い。今までだって、誰にも負けたことがないんですから」

「へぇ……」

 ケットシーに気付いて振り返ったクンシーは、声を掛けようとしてとっさに伸ばしかけた腕を引っ込める。

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけだが、殺気にも似た闘争心を感じた。下手に腕を伸ばせば、叩き斬られてしまうくらいのリアル。未来を予感させられるような感覚を、感じさせられた。

 だがそれが、まさかケットシーの後ろにいたミーリから出されたとは気付けなかった。未だ負けなしという彼女と戦ってみたいという好奇心が生んだ闘争心を一瞬で封じ込めたミーリに気付けなかった。

 だが隣にいたロンゴミアントは気付いていた。むしろ闘争心を剥き出しにした瞬間に、ミーリを肘で小突いたのだ。ロンゴミアントが止めたのだ。

「クンちゃん? どうしたんですか?」

「え、あ、いや……なんでもないわ。ケット、いつもながら早いわね」

「クンちゃん達こそ、今日は早いですね」

「今日はテストだから、みんなが特訓したいって。ケットもやるの?」

「はい。でも組み手は遠慮しておきます。私じゃあ、誰の相手も務まりませんから……」

「そんな自信なしでどうするの。ケット、もっと自分に自信を持って。あなたなら大丈夫よ。やっと同じクラスになれたんじゃない」

「……はい、頑張ります」

 あの佐久間も言っていたが、どうやらこの魔法学校のクラス分けは実力の順らしい。

 ケットシーと共に教室に来たとき、同じ階に五つのクラスがあって、それぞれA、B、C、D、Eとなっていた。最強のクンシーのクラスはAクラス。そこが最上級なのだろう。だから実力者ばかりが揃っている。

 ということはケットシーも、それなりの実力者ということだろうか。クンシーや佐久間らと違って、強者の雰囲気を感じない。実力は内に秘めるタイプなのだろうか。本人はかなり、自信がないようだが。

「ミーリくん。私達これから、魔法戦争に参加するための実戦試験があるの。その間、暇になると思うけど、どうする?」

「見てるよ。この世界の戦闘がどんなものか、見てみたい。それに君の実力も気になるな。今まで負けたことがないっていう、君のね」

「……そ、そっか。じゃあ負けられないな、うん」

「あのクンシーが……」

「照れてる……」

 それほど珍しいことなのか、頬を赤らめているクンシーの様子を見て女子達があっちでコソコソ、こっちでコソコソ。そこにクンシーが視線を向けると、鳩の群れが飛び立つように散っていった。

「まぁ見てて。楽に勝ってみせるから」

 その後数分後にはクラス全員が集まり、担任のスネークもやってきた。試験開始のようだ。

 試験中は試験を行う二人以外は全員隅に下がり、彼らとその他全員とを隔てるガラスの壁が現れる。ロケット砲でも通さない、超強化アクリル、だそうだ。

 最初に戦うのはクンシー・ドロン。彼女と男子生徒の一戦はあっという間に決着した。クンシーの三叉槍が、男子生徒をいとも簡単に貫く。だがその傷はなく、三叉槍は霊体となってダメージだけを通していた。

 その後もおもしろい戦闘がいくつか見られた。ミーリの世界ではあまりない、魔法と言う力での戦い。武器を駆使して戦うのではなく、基本遠距離戦。より速く魔法を展開できた方の勝ちという、シンプルゲームだった。

 クンシーが強いのは、魔法の展開に時間を要さないからだろう。他のみんなと違って、詠唱する時間がない。詠唱が必要なのは魔法も霊術も同じようだが、霊術使いも基本武装での戦いを優先する。それを思えば当然だった。

「では最後。佐久間京進きょうしん、ケットシー・クロニカ。前へ」

「ハ、やっとかよ」

「頑張れ、ケット」

「は、はい……」

 ガチガチに緊張しているケットシーが、右脚と右手が一緒に出ている状態で前に出る。

 相手は彼女を敵視する、佐久間。身長差があり過ぎて、子供と大人に見える。その威圧に完全に押し負け、ケットシーは弱気になっていた。

「ケット! 頑張って!」

「頑張れ、ケットぉ!」

 女子生徒全員が応援している。彼女はクラスでも、それなりの人気のようだ。まぁ愛嬌はあるし、嫌な人間でもないので、嫌われる要素が少ないのだろうが。

「よぉカス猫ぉ。準備はいいかぁ? 徹底的に叩き潰して、てめぇが場違いだってこと教えてやるよ。カスは所詮カスだってな」

「わ、私だって……」

 試験開始のブザーがなる。それと同時ケットシーは後退しながら、魔法のために詠唱を始めた。

 詠唱を始めたのは、ケットシーの方が速い。ならば先制を取るのはケットシーの方。しかしそれは、相手である佐久間が同じく詠唱していればの話。

 佐久間はその巨体に似つかわしくない速度で肉薄し、ケットシーの懐に蹴りを叩き込んだ。腹をストレートに抉られて、ケットシーの呼吸が止まる。さらにケットシーの顔面に正拳を叩き込み、ガラスの壁へと吹き飛ばした。

 壁に叩きつけられ、ケットシーはうつ伏せに倒れる。なんとか呼吸を取り戻し、思い切り咳き込んだ。立ち上がろうとするが、腕に力が入らないのか立てない。

「おぉおぉ、カス猫。もう終わりか?」

「……ま、だ……まだ……ぁぁ……」

「そうかよ。なら、徹底的に叩き潰してやる……王の戴冠、君主の夜。暁は虚空に満ち月は上る。祖は単一の力にして淡泊なる力……我が腕に宿りて、カラスの冠を叩き割れ……!」

 佐久間の両腕にまとわれる、赤の念動力の塊。明らかに、攻撃力を強化する効果があるのは初見でもわかる。

 その拳でもって佐久間は肉薄し、再び詠唱をしようとしているケットシーに鉄拳を叩き込む。天井へと吹き飛ばされたケットシーは胃液を嘔吐しながら、舞い上がる。意識はもうない。

 だが佐久間は容赦なく、彼女の落下地点で待ち構えていた。最後に一撃叩き込む気だ。最悪死んでしまう。

 これを察したスネークはすぐさまガラスを消そうとする。が、ガラスのスイッチが佐久間を支持する生徒達によって囲まれ、押しに行けない。

 クンシー達もなんとかしたいが、この強化ガラスの壁を破壊する術がなく、ひたすら叫ぶ。もう終わりだと誰もが思ったそのとき、佐久間の体が大きく吹き飛び、落ちてきたケットシーの体が受け止められた。

 ガラスの壁に頭をぶつけた佐久間が、自分を吹き飛ばしたそいつを睨む。

「てめぇっ!」

「もう終わりでいいでしょ。ケットちゃんも気ぃ失ってるし、君の勝ちでいいじゃん」

 髪が伸び、両目に時計を宿した姿。とっさに神格化によって強化したミーリが、ケットシーを助けていた。ロンゴミアント達も、とっさ過ぎて気付けなかった。

「な……どうやってあそこに——?!」

 ミーリがいたところのガラスを見て、クンシーは絶句した。一か所だけ、ガラスに大穴が空いている。

 厚さ五〇センチの特殊強化アクリルガラスを粉砕し、ミーリは乱入したのだ。そんな所業ができるのは、学校でも数人の先生しかいない。故に信じられなかった。自分達とそう変わらないミーリが、それをやってのけたことが。

「それとも今ここでやる? 俺と君で」

「ハ! 上等! てめぇも気に入らねぇんだよ! 召喚獣のクセによぉ!」

 両腕だけでなく、両脚にまで念動力の塊をまとう。そしてまだケットシーを抱き上げているミーリに肉薄し、思い切り拳を振るった。

 もろに入った!

 頬に思い切り拳が減り込む。両手が塞がっている状態では、さすがのミーリも受け止められない。それを狙った佐久間の速攻は、完璧に決まった。

 が——

「今のが本気? なぁんだ、この程度なのか」

「あ?」

「残念だよ、えっと……名前なんだっけ」

「! てめぇ——?!」

 とっさに後退し、その勢いで思い切り頭突きする。その威力で高い鼻が折れた佐久間は倒れ、折れた鼻を押さえながら悶絶した。

 その隙に一蹴りで地面を滑空し、自ら開けた大穴から外に出る。そしてケットシーを壁に寄りかけると、再び一蹴りで佐久間の元へと戻っていった。

 鼻の痛みに耐えながら、かろうじて佐久間は立ち上がる。肉薄してくるミーリに拳を振り上げて叩きつけるが、強化した拳が片手に軽く止められる。そしてミーリの左手に現れた短槍の石突で胸を突かれ、吹き飛ばされた。

 再びガラスに叩きつけられる。その後佐久間は一瞬堪えたが、突かれた胸を押さえながら倒れて動かなくなった。

 そこにミーリがやってきて、もう一度石突で佐久間の胸を思い切り突く。すると佐久間が体を震わせ、息を深く吸って呼吸し始めた。

 それを見届けて、ミーリはまた一瞬で戻ってくる。そしてケットシーのことを抱き上げて、運び始めた。

「み、ミーリくん……」

「あの人にも、後で保健室に行くよう言っておいて。一瞬だけど心臓止めたから、しばらく具合悪いままかも」

「心臓を……止めた?」

「大丈夫。一瞬だから死にはしないよ。さ、行くよみんな」

 クンシーは動けなかった。今のミーリが、ものすごく怖かった。いとも簡単に、一撃で人間の心臓を止めてしまえる実力者。その存在がものすごく、自分とはかけ離れている気がして。

 ケットシーは悪くない。これはただの事故で呼ばれた、単なる偶発。

 だがそれでも、それでもなお。これほどまでの実力者を呼び寄せたケットシーのことを、クンシーは彼女の人生で初めて嫉妬した。彼女がそれだけの召喚獣を呼んだことが、妬ましくて仕方がなかった。

 だがそんなのは筋違いで、ミーリ達は召喚獣ではない。そんなことはわかっている。わかりきっているのだが、妬まずにはいられなかった。

 


 

 


 

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