最強会議

 時間を少しだけさかのぼり、控室を出たミーリ達。その脚はホテルへは向かわず、用意していたレストランへと向かう。

 そこにいたのは、東西南北それぞれの代表生徒達。

 南からは金陽日きんようひ。北からはスキロス・ヘラクレス・ジュニア。西からはイア・キルミ。そして東は、たった今最強の座になったミーリの四人が集まった。

 ちなみに場所は、退院したばかりのイアがメディアに囲まれないように、路地裏の隠れた名店という奴にした。

 店に行くともう三人とそれぞれのパートナーが待っていて、自分のメニューを注文していた。ミーリも席に着き、ロンゴミアントとウィンの二人を後ろに立たせる。

「遅れてごめんなさい、先輩方。お待たせしました」

「構いませんわ。決勝進出おめでとうございます、ミーリさん」

 退院したばかりのイアが最初に祝ってくれた。顔色も優れていて、好調な様子だ。リエンの魔剣に対しての恐怖心が今どれほどかわからないが、すぐにでも一回戦の彼女の無実を話してくれるだろう。

 そんな彼女のパートナーは、アルベリッヒという名の女子生徒。イアと同じ服に身を包んでおり、ショートケーキを頬張っていた。性格はお調子者らしく、ミーリと視線が合うと手を振ってきた。

 ここの代金はすべてミーリ持ちなので、ごちそうさまという意味かもしれない。

「ありがとうございます、イア先輩もよくなったようでよかった」

「おかげさまで。クーヴォさんの件はお任せくださいな。このあと記者会見をする予定ですから」

 さすが芸能人。発表の仕方も慣れている様子だ。緊張はない。

「ウートガルドくん、本当にいいの? ここの代金、君が持って。ここ、高いよ?」

「大丈夫だよ、ヨーちゃん。遠慮せず食べて飲んで」

 陽日のパートナー、七四ななしはうぅと返事する。言葉が理解できてるのかできてないのか、赤ん坊の彼女は勢いよくストローを吸い、陽日のリンゴジュースを飲み干した。

 遠慮をしない、という言葉の意味は、理解できてるのかもしれない。

 その隣で、ヘラクレスは骨付き肉にかぶりついていた。豪快な食べっぷりで、少しレストランの雰囲気とは合わないが、その様は圧巻である。

 ちなみに彼にはパートナーがいないため、後輩の霜月子猫しもつきこねこが付き添いで来た。彼女もまた、ヘラクレスと同じ肉にリスのようにかじりついている。

「それで、話、なんだ、ウートガルド」

「まぁちょっと衝撃的な話なので、順を追って説明できればと思います」

 ミーリはマンゴーパフェを注文する。店員が行くと脚を組み、息を整え始めた。

「まず、俺は今回の大会に参加するつもりはなかったんです。だって面倒だから。それでも出たのは、師匠の言いつけがあったからでした」

「お師匠様の?」

「名前はちょっと言えないので伏せますね。詮索はしないでください、イア先輩」

「わかりましたわ」

「とにかく俺は、師匠の言いつけでケイオスに出場しました。目的は、優勝賞品である神霊武装ティア・フォリマを回収することと、優勝者の権限です」

「権限? 優勝すると何かできるのですか? 先輩」

「まえに学園長、言ってた。優勝者その年、対神軍の曹長クラスの権限、持つこと、できる。それのこと」

 そんな話があったようななかったような。子猫は必死に思い出そうとコメカミを押さえるが、実際そのとき半分寝ていたことを思い出せなかった。

「そう。師匠の目的は俺にその権限を持たせて、あるものを探すことです」

「あるもの?」

「対神学園・アンデルスが極秘に開発していると思われる、対神兵器です。師匠が独自のルートで情報を収集しました。アンデルスの生徒でも知らないと思われる情報です」

「対神兵器……? そんなものがあったなんて……」

「不思議じゃない。闘技場守る警備ロボットも、あれ、アンデルスの対神兵器。他にもたくさん、アンデルス兵器開発してる」

「でもなんでそれを、あなたの師匠は探しているの?」

「それが神どころか人も――世界すらも壊しかねない代物だからだよ」

 全員の顔つきがすぐさま変わる。食事をする手も止めて、全員話に身を乗り出し始めた。

「入ってる情報だけで言えば、それは神だけを殺すなんて優しい兵器じゃない。この世界この星を、創世記時代にまで逆戻りさせる最悪の兵器だ」

「何故、アンデルスそんなもの開発してる」

「開発、というか発動のための鍵を作ってる状態かな。まだ未完成なのか、それとも発動のための何かが足りないのかわからないけど、まだ発動してないのが幸いなんですよ」

 って師匠が言ってた。

「それではウートガルドさんは、優勝して手にした権限で、アンデルスに潜り込むつもりですの?」

「あわよくば、ですが。そこでその兵器を破壊するつもりです」

「……なんで私達に話すの? 私達に、何かしてほしいの?」

 陽日の質問はごもっともで、本来ならばこんな話をする必要はない。それはもちろんで、実際師匠からこの話を誰かにしていいとは言われていなかった。完全にミーリの独断である。

 だが話したのは、彼らにしてほしいことがあったからに違いない。完全なる独断であるが、話しておいて損はないと思ったから話すのであった。

「俺の完全個人見解だけど、多分アンデルスの兵器の発動には時間がかかる。起動してすぐさま世界滅亡とはならないはず。だからお願いです。もし兵器が起動したら、力を貸してほしい。一緒に、兵器を破壊してほしい」

 ミーリは頭を下げる。それほどまでの頼みだった。

 当然だ。世界が滅ぶのだ。人間と神が争う間もなく、双方共に絶滅する可能性がある。ならば敵を増やすよりすることは、味方を増やすことにほかならない。事情を知っていてくれている仲間がいることは、心強かった。

「もちろんですわ。そんな兵器、私認められませんもの」

「アンデルスが何を目的としているのか知らないけれど、壊すことには賛成する」

「力、貸す。当然。世界壊す、いけないこと」

「……ありがとうございます」

 本当ならここにディアナも加えたかったが、今彼女に会うことはできない。もっともそれは彼女が疲弊しているからではなく、そんな体でもまだ戦い足りないと言ってきそうだからである。それがちょっと怖い。

 そのディアナは学園に戻り、滅神者スレイヤーのまえに片膝をついていた。

「……負けたな。無様に負けた」

「申し訳ありません、学園長。私の力が及びませんでした」

「だが、楽しかったのだろう? その顔は」

 自身の震える肩を押さえ、ディアナは口角を歪ませる。

 自身が負け、最強の学園の座をラグナロクに渡してしまったというのにそんなことはどうでもよく、今はただミーリとの戦いの高揚感に身が裂かれてしまいそうな気持ちになっていた。

 あいつと戦いたい。まだ足りない。あいつとの戦いを死ぬまでしたい。そんな気分だ。ミーリの予感は当たっていた。

「まぁいい。おまえには任務を与える。おまえなら、今日受けたダメージなどもう回復しているだろう」

「はい、いつでも行けます……今は体を動かしたくて仕方がない!」

黄金劇場ドムス・アウレアの地下に潜り込め」

「地下? あそこに地下などなかったはずでは?」

「ケイオス二日目の試合が開始されてから、度々闘技場の地下に霊力の反応があった。誰かは知らないが、あの下に何かを隠している。おまえはそこに潜り込む術を探して潜り、その何かを突き止めて来い」

「場合によっては破壊も?」

「無論だ。雪白ゆきしろは明後日の決勝戦に立ち会わなければならない。おまえ一人に任せる」

「は!」

 何かがあるはずだ……あの地下に、厖大ぼうだいな霊力を溜めている何か……一体誰がなんのために置いたのか。それも調べなくてはな。

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