第40話 アリスみたいです

「まったく、この程度の実力で俺を殺そうとしたのか?話にならないな」


タイマン勝負を初めてから既に20分以上が経過していた。だが、俺は手を出していない。なぜなら、相手が弱すぎるため、加減した俺の攻撃でも死んでしまうかもしれないからだ。


「クソッ!なんでこいつは俺の攻撃を受けても余裕でいられるんだ!!」


どうやらジャドーは精神的にかなり参っているようだ。なにしろ『自称最強の暗殺者』だからな、そりゃあプライドが高いだろうよ。しかし、こいつらはアイラたちを攻撃する可能性があるから、中途半端にプライドを傷つけて後で復讐とかされたらたまったもんじゃないな。…だが、そろそろこいつの相手に飽きてきたから、とりあえずこいつらには軽く威圧でもして、大人しくしてもらおう。


「!? な、なんなんだよお前は!ホントに人間なのかよ、この化け物か!!」


はぁ、こいつは自分が勝てない相手を化け物扱いするタイプか…学年に1人は居るクズだな。次はこいつを黙らせるか。


「お前はちょっと黙っとけ。『なんちゃってスタンガン』」

「ブベッ…」


俺は雷魔法の新技の魔法でジャドーを黙らせた。この『なんちゃってスタンガン』は、相手を鎮圧させるための非殺傷魔法だ。これがあれば相手に傷をつけることなく気絶させることが出来るのだ。…まぁ、少しやけどを負うけどな。


「…んで、次はだれが相手をしてくれるんだ?」


俺は笑顔で残りの二人の方を向いた。しかし、二人はすでに両手を上げてホールドアップの状態になっていた。


「もう降参だよ…僕らの中で一番強いジャドーがいとも簡単に倒されたんじゃ、僕らが勝てるわけがないよ。」

「俺たちは喧嘩を売る相手を間違えたようだ…。さぁ、殺すなら早く殺せ。情けはいらない。」


んー、そんなこと言われても困るんだよな…別に俺は人を殺すのが好きな分けじゃないからな。


「別にお前らを殺す気はない。ただ、暗殺依頼を出した奴の名前を知りたい。」


俺がそう聞くと、男たちは少し気まずそうに話し始めた。


「…僕たちが依頼されたのは、この街ではアイドル扱いされている『ロリっ娘萌え萌え』っていう女さ。」


またその名前か…、なにかと縁があるな。…とりあえず、聞けることは聞いておかないとな。


「どうしてそいつに暗殺を頼まれたんだ?」

「僕たちが暗殺ギルドで依頼を探していると、その女が僕たちにこう話しかけてきたんだ。『私の依頼を受けない?ちゃんと達成できたら銀貨4枚出すよ』ってね。丁度僕たちは暗殺者の新人で、今月の生活費がギリギリだったから、その依頼を受けることにしたんだ。…これがこの依頼を受けた理由だよ。」


なるほどな、その女が俺たちを殺す依頼を出したってわけか…。許さん!そんな奴は成敗してくれるわ!!


「その女の居場所は分かるか?」

「えーと、今中央の広場でライブをやっているはずだけど…」

「分かった、じゃあお前らはもう帰っていいぞ、じゃあな!」


そう言って俺は宿を飛び出した。後ろで「え?あ、ちょっと待ってよ!」と言っていたような気がしたが、俺はそれよりも暗殺依頼を出した女を突き止めることを優先した。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここがライブ会場か…凄い人気だな。」


俺は『ロリっ娘萌え萌え』のライブ会場に着いたのだが、その人気に圧倒されていた。…とりあえず、近くにいる奴等にあの女の情報を聞き出しておくか。

そう思った俺は、すぐ近くにいた太めの体形の男に声を掛けた。


「なぁ、ちょっと聞きたいことがあるんだが…いいか?」

「せ、拙者でござるか?…お主、ちょっと前に入り口で会った男でござるな。」


…そういえば、こいつはこの街に来て最初に話しかけた気がするな。


「この前は申し訳なかったでござる…つい、『ロリっ娘萌え萌え』タソのライブを優先してしまったのでござるよ。」

「いや、この前は俺が質問をするタイミングが悪かった。俺の方こそすまなかったな。」

「…とりあえず、この話は水に流すとして、お主は拙者に何か聞きたいことがあったのでござろう?」


そうだった、大事なことを忘れるところだった。


「そうだ、俺が聞きたいのは、この会場でライブをする『ロリっ娘萌え萌え』についての事だ。」


俺がそう言った瞬間、この男の目が光ったように見えたのは、きっと俺の勘違いだろう。


「おうふ…いいですとも、『ロリっ娘萌え萌え』タソは、身長136cm、体重31kg、スリーサイズはB73W55H78、髪は金髪ツインテール、本名はアリス、決め台詞は「ロリに目覚めなさい!」で、それがもう…す、素晴らしくかわいいのでありますぅ!!あぁああああ!ロリコンは最高でござるぅ!!あの娘は拙者たちの嫁でござる!であるからして、『ロリっ娘萌え萌え』たそは我々の日々の仕事の疲れを癒すための力を与えてくれるのであります!さらに…」


なんか、話が逸れてきたからこっそり退散しておこう。楽しそうで何よりだ…

そんな感じに時間を潰していると、ライブが始まる時間になった。


「お、もうライブが始まるのか…どれどれ、俺たちの暗殺依頼を出した奴の顔を拝みに行くか。」


そう言って俺は後ろを振り返り、俺の背後で女の子が構えていたダガーを破壊した。


「!?」

「まったく、いきなり人にこんなもんを向けるなんて教育がなってないんじゃないか?」

「なんで不意打ちが通じないのよ!暗殺者集団に依頼を出しても殺せてないし!!アンタはホントに何なのよ!!」


え?なんで俺はこんなに理不尽な扱いをされなきゃいけないんだ?それに、こいつはさっきの男が言っていた特徴通りの女の子じゃないか…。もしかして、この子が『ロリっ娘萌え萌え』…いや、アリスなのか?


「お前がアリスなのか?」


俺は思わずそう問いかけた。すると


「そうよ、私がアンタを殺そうとしたアリスよ。…で、どうするの?私を殺すの?それとも、そこらへんにいる男達みたいに幼い体の私に欲情して、私を強姦でもするの?…まぁ、どちらにしても私の力じゃ抵抗のしようがないものね。」


はぁ、いったいこいつは何を言っているんだ?


「あのなぁ、なんで俺がお前を殺すとか、欲情して強姦するとかいう感じになってんだ?別に俺はそんなことをするためにここに来たわけじゃないんだが…」

「じゃあ何しに来たのよ」

「俺はただ、お前がなんで俺たちの暗殺依頼を出したのかを聞きに来ただけなんだよ。だから、別にお前をどうこうしようってわけじゃない。…アイラたちに手を出さなければな。」


俺がそう言うと、アリスは少し楽しそうに笑った。


「アンタって変な人ね、自分を暗殺する依頼を出した相手を目の前にこんなに冷静でいられるなんて、大した精神力じゃない。…その精神力に応じて教えてあげるわ。」


アリスはそこまで言うと、いったん深呼吸をしてから再び話し始めた。


「私は元々アンタと同じ地球に居たのよ。だけど、地球で死んだあと気がついたらこの世界に居たの。要するに転生ってわけ…アンタは転生じゃなくて転移者みたいだけどね…。とにかく私は転生した後すぐにこの秋葉原に連れてこられたの。そして、そこでとある男に言われたの。『転生者はお前のロリボディの虜にするか、ばれないように殺しておけ』って。だから私はその男の言うとおりにしたわ。そうしないと、私はこの世界で生きていけないから…。なぜなら私はあの男に奴隷け…グゥゥ!!」


話している最中にいきなりアリスが苦しみ始めた。こいつが元々地球にいたとか、いろいろと驚く点はあったが、今はそれどころじゃない!…こいつが最後に言おうとしたことは、自分が奴隷契約されているってことだろう。つまり、今苦しんでいるのは、アリスの主人が何かしらの操作をしたってことだ。


俺がそんなことを考えながらオロオロしていると、アリスの首に黒いチョーカーのような物が見えた。


「アリス、もしかしてこれが隷属の証なのか?」


俺がそう尋ねると、アリスは苦しそうな表情をしながら頷いた。…まったく、女の子を痛めつけるなんて許せん。…だが、とりあえずはこのチョーカーをぶっ壊さないとな。


「…よっ、これで隷属の証は外れたから、恐らくもう大丈夫だろう。」


俺がチョーカーを引きちぎると、途端にアリスの表情が和らいだ。


「…あ、ありがとう。もう少しで死んじゃうところだったわ。それよりも、なんでアンタは隷属の証を破壊することが出来たの?普通の人間には無理なはずなんだけど…」

「あぁ、実は俺には破壊神の加護がついているんだ。…まぁ、ついているって言っても、つい最近までは環境限定だったんだけどな。兎も角、この加護のおかげで隷属の証や、呪い等の状態異常も破壊できるようになったんだ。」

「すごーい!!アンタの加護ってそんなこともできるのね!!


俺が加護について説明すると、アリスは目を輝かせながら飛びついてきた。まるで、餌をあげた後の犬みたいだな。だが、可愛いので許す!!


「まったく、お前は妹みたいだな。」

「…お前じゃなくて、アリスって呼んで!お前って呼び方はあの男と同じ呼び方だから嫌なの!」

「分かった。アリスも俺の事をツバサって呼んでくれ。俺もアンタって呼ばれると、前の世界での嫌な記憶を思い出すから。」

「じゃあ、これからはツバサって呼ぶわね。」

「あぁ、そうしてくれ。とりあえず、『あの男』とかいう奴の居場所に案内してくれるか?ちょっとOHANASIしなくちゃいけないようだからな。」


俺が満面の笑みでそう言うと、


「分かったわ。じゃあ私が案内するからツバサは私を肩車してね!」


まったく、世話のやける女だ…。まぁ、可愛いからいいけど…。


こうして俺たちは『あの男』の居場所を目指して移動を開始した。

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