第17話 再起動

 第三研究室に戻ると、碧と蒼穹がすでに起きていた。


「もー。どこ行ってたの三人してー」


「わりぃな美島。ちょっと飯食ってた」


 部屋の中で後堂の〝AZ〟は掃除をしていた。部屋に戻る後堂に「おかえりなさいませご主人さま」とメイド服で言っていたのに正直虎太郎は引いた。〝AZ〟に引いたのではなくそんな格好をさせて言わせている後堂に引いたのだ。後堂の〝AZ〟は虎太郎を認識すると一礼して奥の部屋へ戻っていった。


「さーて、俺はもうちょっと第四世代こいつらについて調べてみる。この馬鹿でかいもんはどうやって形成されてんのか知らないことには戦えないしな」


「た、戦うんですか?」


 蒼穹は自分が寝ている間に話が進んでいたのかと不安になる。その問いに後堂は黙って頷いた。

 ソニアがなにもない空間から出現させた大きな剣については未だなにもわかっていない。ダリアも腕に籠手のようなものを出していたため、敵と戦うには同じく武器が必要となる。


「そのために、ソニアを起動させようと思ってる。GPSの発信データも書き換えたし、今、前の所有者にここの位置がバレることはないはずだが――お前らいいか」


 何故か初期化されており、襲ってくる可能性はおそらくないということを碧と蒼穹に説明する後堂。虎太郎たち三人は心を決め頷いた。


「アクティベーション」


「アクティベーション認証――起動します」


 後堂が起動用音声を唱えると、ソニアは目を開き上体を起こした。


「メインオーナーの登録を始めます。メインオーナー希望者は、はじめに網膜登録、続けてDNAを含んだ物質を口内に投入してください」


「どうする? お前ら」


「姉ちゃんでいいんじゃないか。それでサブを蒼穹にすれば、そうすれば二人を優先して守ってくれるはずだ」


 そう虎太郎が提案する。


「妥当だな。俺もそれがいいと思うぞ」


「……うん」


 網膜登録を済ませ、碧は髪の毛を一本抜いてソニアの口に投入した。


「登録完了――続けてサブオーナーの登録も行えます」


 そして蒼穹も碧同様に登録作業を行った。


「登録完了。以上二名をわたくしソニアの管理者として登録します」


 ソニアはにっこり微笑むと、「よろしくお願い致します」と頭を深く下げた。


「よ、よろしく」


「おおお願いします」


 碧と蒼穹は恥ずかしさと恐怖から声をひっくり返しながら返事をした。昨日自分たちを散々痛めつけた張本人を前にしてなのだから当たり前の反応だろう。


「まあ大丈夫だろ。美人だし」


「い、意味がわからん」


 後堂の軽い一言で、緊張がほぐれた虎太郎たちだった。


「でも逆に記憶がないってことは、前のオーナーのことが聞き出せないってことか」


「襲われるよりいいんじゃねえの、仲間にしたほうが。あちらさんにこっちに来てもらいたい時はソニアのGPSデータを直すだけでいい」


 虎太郎の問いに後堂は答えた。


 するとアルメリアは腕を組み、口をへの字にさせて「むー」とうなった。


「どうした?」


「いや、どうも身構えちゃうんだよね」


「お前よりも強いからな」


「ひっどコタロー。あの時はわたしに武器がなかったからっ。どんな強い格闘家だって素手じゃ刀振り回してる素人には敵わないんだよ」


 あらかじめ格闘プログラムは入っているようだったし、アルメリアにも武器があれば確かにあの勝負はわからなかった。やはり今後のためにもっと第四世代について知る必要があるだろう。


「武器が必要ですか? 武器についてはデータをインストールすればその場で生成できますよ?」


「え!?」


 突然言葉を発したのはソニアだった。皆一斉にソニアの方へ体を向けた。


「正確には設計図ですね。AnNシリーズにはその場でモノを生成する《クレアシオン》という装置が備え付けられていますので、大きさには限界がありますが、例えば乗り物でも家具でも造り出せるんです」


 ニッコリと微笑むソニアに一同は言葉が出なかった。


「《クレアシオン》? なんじゃそりゃ。確かにそういう技術はアメリカのほうで開発の実験をしてるって聞いたことはあるけどよ、その完成品を〝AZ〟に搭載してるって?」


「確かにすごい……つーかお前知らなかったのかよ」


 虎太郎の問いにぎくっとした者が一名。


「し、知らないよ! ほんとほんと! わたし自分のことについてほんと知らないの。正直言うと普通の〝AZ〟にはできるだろう家事なんかも……できないと思う」


「……」


 虎太郎の元に送られてきた六体目の第四世代アンドロイド〝アルメリア〟。一体なんのために生み出されたのだろう。やはり鍵はOSに眠る〝なにか〟なのだろうか。


「美島弟」


「え?」


「お前武器ってデザインできるか?」


「ああ、それなら俺のPCに腐るほど入ってますよ」


「そりゃいい。ちょっと試してみるぞ」


 元は架空の剣や空飛ぶ乗り物をPC上で造っていて、それを人に持たせたいという気持ちから人物の造形に興味を持った。その手のデータは言葉の通り腐るほどあるのだ。


「じゃあ、姉ちゃんとそららんはご飯でも行ってこようかや。ソニアはここでセンセとこたろーの言うこと聞いて待っててくれっしゃ」


「はい、碧さま」


 後堂と虎太郎はPCの前へ。取り残されたアルメリアとソニアはソファーに隣同士で座った。


「……」


「……」


「あの――」


「……」


「わ、わたしがなにか……?」


 がすっ。っとテーブルの中で鈍い音。


「ひっ。うう……」


 隣のソニアのスネに軽く蹴りを入れ、アルメリアは少し恥ずかしそうに言った。


「これでチャラ」


「えぇ? なにがですか?」


「なんでもなーい」


 アルメリアは満足そうに腕を組み、ニコッと笑った。


「よろしく。一緒にみんなを守ろうね」


「は、はいっ」




  

 ピピピピ。


「ん? 電話か珍しい――はい後堂」


 それから後堂は五秒ほど言葉を出さなかった。虎太郎は不思議に思い横から顔を見たが、前髪でよく表情は見えなかった。


「ちょっくら出てくる」


 後堂はそう言って物理準備室を出た。ネクケーの着信表示は何故か非通知で《サウンドオンリーモード》だったが、出てみるとその声には聞き覚えがあったのだ。


「……何故お前が」


『――――――』


「なに?」


『――――――』


「そんなことはどうでもいい。そうだ、お前には聞きたいことが山ほどある」


『――――――』


「なんだと……ふざけるなッ! お前らがしてきたことを俺は許さない。絶対にだ!」


 電話の主の言葉に後堂は怒りをあらわにする。


「今どこにいる? 会って話せるか」


 承諾されたのか、後堂は言われた待ち合わせ場所を復唱すると電話を切った。


「――わりぃなみんな。きっと夕方までには戻ってくる」

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