幼い頃から修行に励み、ついに四神を召喚できるようになった4人の少年少女。だが、呼び出した四神はなぜか4体中3体が白虎というアンバランスっぷりだった。
「アンバランス」
翔、久美、里央、隼人の四人は、四神の力を借りて魔を退治する、討魔師の家系の人間である。四神とは東西南北の四方をそれぞれ司るとされる伝説の神獣、すなわち青龍、白虎、朱雀、玄武のことで、ファンタジーなどの物語世界では非常にポピュラーな存在だ。
翔たち四人は、今日初めて一堂に会した。
彼らは幼少の頃より修行に励み、その努力実って今や自由自在に四神を呼び出せるようになったため、これからの本格的な討魔業に向けて、とりあえず顔合わせをし、各人の四神を見せ合うこととなったのだ。
横一列に並んだ翔、久美、里央、隼人は、精神を集中してカッと目を見開いた。
「出でよ、朱雀!」
「出でよ、白虎!」
「出でよ、白虎!」
「出でよ、白虎!」
「えっ!」
翔は愕然として他の三人のほうを振り向いた。
見ると、久美、里央、隼人の後ろには、ほんとに一体ずつ白虎が出現しているではないか。
一人朱雀を背にした翔は思わず叫んだ。
「ええええええっ、なんだこの状況!? 朱雀1、白虎3て! 四神がカブるとか……カブるとかありえねーだろ! この手の設定は各人一体ずつ違う四神持ってないと!」
翔は、呆然とマイ白虎に目をやる三人に向かって尋ねた。
「おい、どういうことか説明しろ。なんでおまえら三人そろって白虎なんだよ」
「え。だ、だって……」
久美、里央、隼人はお互い顔を見合わせ、困惑の表情で言った。
「私の苗字 『
「あたしは 『
「僕は 『
それを聞いて、翔はむうと唸った。
「ああーそりゃ確かにややこしい……っていうか、作者アホだろ! こういう場合、キャラの名前にはなぜか属性が敵にもモロバレになるリスクを背負って能力にちなんだ字を入れるのが常套だろうが! 色なら色、方角なら方角、動物の名前なら動物の名前で四人統一させるだろ普通。何考えて四人のうち三人の苗字に白虎を連想させる文字入れてんだ!」
翔はダン! と地面を蹴りつけ、白虎メイト三人に顔を向けた。
「とにかく、このままじゃまずいって。今から急いで三人のうち白虎を誰の持ち獣にするか決めて、残った二人が青龍と玄武持って、ちゃんと四人合わせて四種類の神獣呼び出せるようにしないと――」
「でもさ、翔」
と、里央が言った。
「あたしら、自分の神獣を呼び出せるようになるまで十五年くらいかかったんだぞ。今から他の神獣を召喚するとなると、また同じくらいの年月の修行が必要になるんじゃないか?」
その言葉に、一同ハッとする。
「僕たちは今十八だから、もう一回修行し直したら、新しい神獣を呼び出せるようになる頃には……すでに三十路越え……か」
皆、ごくりと唾を飲む。
「い……いいのかしら、それは……。こういう異能力ファンタジーってたいてい若い人向けのジャンルの話だし……そういうジャンルでは、だいたいメインキャラクターと主層読者の年齢を同じくらいにするものだけど……」
「お肌の曲がり角もとうに通り越した年齢だよな。キャラの目尻にもそろそろしわが寄ってる頃かもしれない……」
翔は腕を組み、その顔に沈鬱な表情を湛える。
そして、短い思案ののち、フッとやけくそ気味に唇の端を上げ、
「よし、もう一度修行するのはあきらめよう! 俺たちはもう、朱雀と白虎のみで行く、のみで!」
「いや、のみって。あと二体……青龍と玄武はどうするんだよ。このまま物語に登場させないつもりか? 四神を使っといて神獣二匹しか出てこないんじゃ、あまりにもバランスが悪いっていうか……設定の根幹からして消化不良感が大きすぎないか?」
隼人の意見に対し、翔はこう言った。
「それは、敵にくれてやる」
「はあっ?」
「だから、青龍と玄武は敵が召喚するようにすればいいんだよ。この手の物語では、ストーリーが進むにつれてだんだん強い敵が出てくるものだからな。一話目の敵には神獣召喚は重荷だろう。だが、五十話くらいの段階になれば敵もかなりレベルアップしてるはずだから、俺たちの実力では十五年かかる修行も、五十話頃に出てくる敵ならもっと早く終わらせることができるはずだ。今からやれば、俺たちがその話数に進むまでに神獣召喚が可能になるかもしれない!」
「し、しかし……それはそれで不自然じゃないか? 僕たち、四神の力を借りて討魔業を行なう家系、って設定だからそういう戦い方をするんであって、僕たちの家系に関係のない敵がなんで四神を召喚……」
「どうとでもなるどうとでもなる。そんなもん、敵があらかじめ俺たちから青龍と玄武の力を奪っておいたとか、そんくらいの辻褄合わせでいいんだよ! そのせいでおまえらは三人とも白虎を使わなきゃならなくなったってことにしてさ」
「うーん……」
久美、里央、隼人はしばし悩んだが、他によい方法もないということで、結局翔の案を受け入れた。
それから、四人はすぐに五十話くらいに登場する敵二人の所に行って、青龍と玄武を召喚して戦ってくれるよう交渉したのだった。
そして月日は流れ――。
朱雀と白虎と白虎と白虎を使って数々の敵を倒してきた翔たち四人は、なんとか無事五十話目にたどり着いた。
そこで四人は二人の敵と対峙した。
彼らが青龍と玄武を使うことを引き受けた敵である。
合計六人の神獣使いはさっそく戦闘開始するべく己の神獣を召喚した。
「出でよ朱雀!」
「出でよ白虎!」
「出でよ白虎!」
「出でよ白虎!」
「出でよ青龍!」
「出でよ青龍!」
「あれえっ!?」
敵二人の背後に出てきた青龍二体を見て、翔は一声上げたのち、もーいやだと言わんばかりにその場に崩れ落ちた。
敵二人も一瞬あぜんとし、それから眉間にしわを寄せて互いを睨み合った。
「おい、なぜ貴様が青龍なのだ。青龍はわしの神獣だぞ」
「何を言う。吾は最初から青龍を使うと決めておったのじゃ。青龍は吾のものじゃ」
「ふざけるな、貴様は玄武を使えばよかろう」
「そちのほうこそふざけるでない。玄武なんてものは亀じゃろうが。亀と龍なら、そりゃ龍を使いたいに決まっておろう。かっこいいからの!」
「その通りだ! 同じ理由でわしも青龍を使いたいのだ! ええい、貴様は今すぐ青龍を捨てい!」
「そちのほうこそ……と言いたいところじゃが、生憎こんなことをしている場合ではない!」
「むう、それもそうだ。畜生がっ、もうこの状態で戦うしかない! ゆけ、青龍!」
「こっちの青龍も、ゆけえっ!」
「うおおおおおっ、こうなりゃヤケだ! やれ朱雀!」
「頼んだわよ、白虎!」
「やっちまえ、白虎!」
「負けるなよ、白虎!」
こうして、朱雀一体、白虎三体、青龍二体で合計六体の四神入り乱れるバトルが始まった。
その頃、一人呼び出されることのなかった玄武は、戦いから遠く離れた場所にて人知れず頬を涙で濡らしていた。
-完-
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