Ⅰ.2004/07/29

「完成だぁ!!」

 私は目の前にある、大きな円柱の機械に抱きついて叫んだ。だって、念願のタイムマシンを造り上げたんだから!

 私の夢は凄くビッグな発明家になる事!そして、ドラ●●●の世界を現実に創り出すの!

「思い起こせば、ここまで来るのにはすごい苦労したんだよね♪よし!早速試してみよー!」

 まず、このキーボードで行きたい年・月・日・時間を正確に打ち込む。場所指定も出来ればいいんだけど……。まあ、それは時間移動だけでも出来てからって事で。

「よし。出来た!2008年12月24日18:00っと」

 どうしてこの日を選んだかというと、4年後の私、つまり高校2年生になった私をちょっぴり覗きに行きたいから。だって、高校生だよ!?高2と言ったら、よく少女漫画の設定として出てくるじゃない!最初は中2と高2で迷ったけど、2年後って近いでしょ。だから、4年後の高2にしたの。で、クリスマスとなれば何か素敵なイベントがあるかもしれない!これ程魅力的な日はないよ♪

「4年後の私、どうなっているのかなぁ……」

 想像するだけでワクワクしちゃう!よし。心の準備は出来た!

「あ!」

 待って。行く前にトイレ済まして来よう。

 タタタッ



「よし!行っくぞぉー!!」

 タタタッ

 ツルッ

 ドターーーーン

「……ぃ……っぅ……」

 そう言えば、よくお母さんに部屋を散らかすなって言われていたなぁ。何か踏んで転んだら危ないもんね。実際に転んだし。今度からは気を付けるようにしまーす……たぶんねw

「てか!!」

 転んだ拍子に思いっきりタイムマシンを叩いちゃったけど……。

「なっ!!?」

 な、何か……やばい……かも?!

 モニターに映っている数字たちがチカチカと不規則に光っている……。

「どうしよう……熱っ!!」

 タイムマシンが滅茶苦茶熱もっているんですけど……。

 ピーーーー

 ウィーーーーン

「げっ!!」

ドーーーーーーーーーーン



「ゲホゲホッ」

 タイムマシンがいきなり光って爆発したぁ!!私の汗と涙の結晶がぁ……。

「ゲホゲホッ」

「!?」

 何?今、なんか咳き込む声が聞こえた気がするんですけど……?こだまにしては低い声だし……。

「なんだよこれ……ゲホゲホッ……またじいちゃんの失敗かよ……」

「!!!!?」

 今度はハッキリ聞こえたよ?!でも……煙が邪魔で見えない……。

「っ!!」

「ゲホゲホッ……え?」

 そこに居たのは茶髪の男。なんで、こんな真夏に長袖のジャージ姿なの。怪しすぎる……。

「あんた誰!!?」

「お前こそ誰……って……あれ?……此処どこだ?」

 何?!この人、他人の家に勝手に入ってきて……。

「あああぁ!!!!!」

「な、何?!!」

 意味分かんない。急に現れたと思ったら、急に大声出して……。ん?『急に現れた』?……まさか!?

「あんた、もしかして!!」

「おい!あのカレンダーあってんだよな?」

「え?カレンダー?何言ってるの。合ってないカレンダーなんか貼っても意味ないでしょ。それより――」

「つー事は、俺……過去に来たんだ!!」

「え!?い、い、今!!今、何て言った!!?」

「過去に――」

「じゃ、じゃあ、あんた、未来人!!?」

「えっと……そう、なるのか……?」

「うそ!?え?あ!!もしかして、未来で私の発明したタイムマシンが販売されているとか?!」

 え?!うそ!!私、夢叶えちゃうんじゃない♪これで、お父さんやお母さんに一々言われなくなるっ♪

「……あ、あのさ。浮かれてるところ悪いんだけど、タイムマシンは俺のじいちゃんが造ったんだよ」

「……え?」



 私、何浮かれているんだろう……。やっぱり発明家なんて無理なのかな……。お父さんやお母さんの言う通り、夢見すぎなのかな……。

「……あ、あのさぁ……何で落ち込んでんのか訊かないけどさ……。俺は浜中勝平。君の名前は?」

「……山本香澄」

「じゃあ、『香澄』でいいな?じいちゃんの実験台にされるのは不本意だったけど、折角香澄と出逢ったんだ。この感動を一緒に味わおうぜ?な?よろしくって事で握手!」

 浜中勝平とかいう人が右手を差し出してきた。でも……ショックが大きくて“友好の証”なんてやる気分じゃない。

 私がまた俯くと、勝平は勢いよく私の手を掴み引っ張った。

「わあ!!」

「お前、歳いくつ?」

「え?12歳だけど……」

「まだまだガキじゃん」

「なっ?!」

「子供のうちから暗いと一生暗い人生歩むぞ?」

 何?コイツ。何か、他人の事『ガキ』とか言って失礼な奴……。

「ここ何県?」

「東京」

「マジ?!目的地は青森だったのに……じいちゃん失敗してんじゃん」

 勝平はコロコロと表情を変えて、ストレートに感情表現が出来る人らしい。私とは真逆。

「俺も東京に住んでんだよ。と言っても、今、2004年だから、まだ青森に住んでるけどな。最近引っ越してきたばかりなんだよ」

「ふーん」

「お前、無関心だな」

「うるさい」

「…………」

 話が途切れた。勝平は気まずくなったのか、辺りを見渡し、口を開いた。

「ここ、なんかガレージみたいだな」

「だってガレージだもん」

 そう。ここはガレージ。部屋の中でさっきみたいな爆発が起きたら、換気するのが大変だから。

 ガラガラ

「すげぇー」

 ガレージのシャッターを開けた勝平は感嘆の声を上げた。そこには木々が生い茂る森が広がっている。

 勝平は振り向き笑顔を見せると、私の腕を掴み駈け出した。



 そして今、森の中にいる。

「ここ東京だろ?東京にもこんな緑があるんだなぁ~」

「東京って言っても、端の方だもん」

「俺、2学期に親父の都合で東京に来たばかりだから、東京がどんな所か分かんなくて……。てっきりビルしかないのかと思ってたw」

「ビルばかりだよ……」

 都会はビルばかり。地面もコンクリートで覆われて自然なものは少ししかない。けど、ここは違う。東京だけど、東京じゃない。本来あるべき姿がココだと思う。私はビルが建ち並び、夜景がキラキラした所よりも、自然な緑とこのデコボコの地面の方が好き。

「……そういや、暑いな」

 ふと、勝平は呟く。

 勝平は長袖のジャージを着ていて、見るからに暑苦しい。唯でさえ暑いのに、尚更暑く感じる。真夏にその格好はないだろう……。

「だって、今7月だよ?普通そんな格好しないから」

 私が言うと、勝平は上着を脱ぐ。インナーも長袖で暑そう……。

「7月……何日?」

 勝平は少し考え、訊ねてきた。

「29日」

「2004年7月29日……場所だけじゃなく、日付も若干ズレてんじゃん……」

 小さくそう呟いた。複雑な顔をしたかと思いきや、満面の笑みを浮かべて、

「29日とか、夏休み真最中か。最高に楽しい時じゃん」

 私は勝平と目を合わせないように視線を逸らした。

「…………」

「あのさぁ。人がせっかく落ち込んでんのを盛り上げようとしてんのに、何だよ、その態度」

「……別に盛り上げなくてもいい」

 自分でも態度が悪いのは分かる。でも、やっぱり……そんな気分になれない。今が辛くても、未来だけは私が思い描いたものになるんだと希望を持っていたのに、それも叶わない事が分かってしまったから。

「はあ……仕方ねぇなあ。今日1日、俺が一緒に遊んでやるよ。パァっと騒げば、少しは気が晴れるだろ?」

「…………」

 何で、今会ったばかりの相手とそんなに仲良くするの?やっぱり、意味分かんない。

「……お前さぁ……。まあ、いいや。とにかく、行きたい所とかないか?」

 行きたい所……。

「遊園地とか、動物園とか……ないの?」

 人が集まる場所は苦手。独りなのが強調されるから……。

「う~ん……じゃあ、ゲームとか?」

「…………」



 勝平の問いかけに私は答えず、気付けば辺りは茜色に染まり始めていた。

 てか!!何で、私はコイツと無意味にココに居なきゃいけないわけ?!

 確かにこの森は好きだし、だから態々あの別荘に作業所を造ったわけだし……。でも、だからってコイツに付き合っている理由はないわけで……。

 さっきから木に登って辺りを眺めている勝平を見上げながら、私はそんな事を考えていた。……なんか、猫みたい。

「……そう言えば、あんたさ、いつまで過去こっちにいるの?」

「え?」

「いつまでいようと、過去こっちに来た時間に戻れば同じだけどさ……」

「…………」

 ……あれ?返事がない。

 勝平は呆然と立ち尽くしたまま動かない。私、変な事でも言ったのかな?

「ああーーーーーー!!!!!!!」

「!!!?な、何よ!!急に大声出して!!」

「過去に来たのはいいんだけどさ……どーやって帰ればいいんだ?」

「はあ?」

「だって!!俺がいた時代には、じいちゃんがいてタイムマシンもあった。でも、あのタイムマシンは俺を過去に飛ばすだけでマシン自体は家にあるわけだから……けど、過去ここにはタイムマシンがない!!そしたら……まさか……4年も自然に過ぎてくのを待つってのか?!」

 私は呆れて溜息を漏らした。

「あんた馬鹿?マシンごと過去こっちに来るならまだしも、マシンが過去こっちに来ないなら、過去こっちに来る前に戻る手段は準備しておくものでしょ」

 そうだよ。そんな事くらい普通は考えるよ。私だって考えて、タイムトラベルは過去じゃなくて未来にしたんだから。

 未来なら、私が未来そっちに行く事を知っている。だから、帰りの準備をしてくれているはずだし。もし、過去に行くなら携帯用のタイムマシンを開発しなきゃ。

「マジでどーしよう!俺、高校生だけど、実は20歳とかマジであり得ないから!!痛々しいから!!……はあ、夜間部に編入かぁ?」

 勝平は頭を抱えて悩み叫んでいた。そんな彼を哀れに思ったのか、私は無意識に話しかけていた。

「あのさ……」

「ん?」

「私がタイムマシン造ってあげようか?」

「え?」

「私もね、タイムマシン造ってるの……壊れちゃったけど、設計図は残っているから直せると思うの」

「……お前に……出来んの?」

「何よ、その顔。信じられないわけ?じゃあ来なさいよ!!設計図、見せてあげるから!!」



 と、言うわけで、今、勝平と共に家に帰って来たんだけど……。見事にタイムマシンは壊れていて、修理するより造り直した方が早いかも。

「あった!これ」

 私は床に落ちていた設計図を勝平に渡した。

「どう?これで信じたでしょ」

「…………」

 何よ。まだ信じられないわけ?

「んー。ぶっちゃけ、俺にはよく分かんないんだよね……」

 は?

「タイムマシン造ってたのはじいちゃんで、俺は雑用係だったし。あ。でも、じいちゃんの設計図になんとなく似てると思う……自信はないけど」

 勝平は設計図に向けていた視線を私に移して続けた。

「まあ、頼むよ。年下に頼むってのはあんまり気が進まないけど、今頼れんのはお前だけだし」



 そんなわけで私が勝平の為にタイムマシンを造り直す事に……。

 設計図はあるから、その事自体に問題はないのだけど……。

「そう言えば、親は?」

「仕事」

「もう20時になるけど、いつもこんなに帰り遅いの?」

「……親はココには来ないよ。忙しくてココに来る余裕なんかないから」

「自分の娘ほったらかして、会社に泊まってんのか?」

「違う……」

 私は言うか迷ったけど、勝平の不思議そうにする顔を見て、少しぐらい話してみようと思った。

「親は実家。ココ、言っておくけど別荘だからね。夏休みだし、ここが好きだから、私が勝手に来ているだけ」

「……え!!?ココ別荘!!?マジで!!?」

 勝平の反応は予想外だった。普通の男子って、こんな反応するんだぁ……。

「マジかよ……。だって普通にデカイじゃん!俺ん家よりデカイと思うんだけど……。まさか、お前ん家って……大富豪!!?」

 ……よくわかんない……。ただ、普通よりは裕福なんだと思う。

「別に大富豪でもないよ。うちよりもおっきい会社の子もいるし」

「『おっきい会社の子』?」

「まあ、そんな事どうでもいいでしょ。それより、あんた。今日どこに泊まるの?」

「どこって、ココに」

 ……は?

「ちょ、ちょっと待って!何でうちに泊まるわけ?!無理だから!!」

「はあ?いーじゃん!丁度、親もいない事だし。親がいたらなんて説明すりゃいーか悩んだけどさ。こんな都合のいい家なんてココ以外にないだろっ♪」

 いやいやいや。無理無理!絶対無理!ココは私だけの空間なんだから!唯でさえ泊めるなんて嫌なのに、今日会ったばかりの、しかも男を泊めるなんて……ホントに無理だから!!

「外で寝て!!ココに泊まるのは、絶っっっっ対に、無理!!てか、嫌!!!」

 私が思いきり拒絶すると、勝平は私に近付き上から見下ろして言った。

「もしかして、お前さ……俺に襲われるとか思ってんの?」

「はあ?!」

「あはは。心配すんなって。いくら俺が男でも小学生に手は出さないって。対象外だってw」

「なっ」

 ……なんか馬鹿にされてる気分……。

「あ!もしかして、中学生だったりする?12才って中学生だっけ?」

「……小6で悪かったわね。……中学生だったら、手、出す気?」

「まあ、人によるけど……出せなくもないw」

 サイテー。何よコイツ。

 私が睨み付けていると、笑いを止めて訂正した。

「冗談だって。いくらなんでも中学生じゃ……なあ?」

 何が『なあ?』よ!私に同意を求めないでよ!

 私が更に睨み付けると、

「そんなに怒んなよ。ホントに手は出さないって。……てか、出そうなんて思えないし」

 なんか最後の方、ボソッとある意味酷い事言わなかった?いや。絶対に言った!

「とにかく、外に寝て!!」



 その後も勝平と寝る所について揉めに揉め、私は渋々ガレージに寝る事を許してあげた。

「いい?絶ぇっ対に、家の中には入らないでよ!!入ったら不法侵入で訴えるから!!」

 そう言い残し、私は家の中に入った。

 ガチャガチャガチャ

「鍵って……そんなに信用ねぇのかよ……。ってか、鍵付けすぎじゃねぇ?」

 ドアには5つ鍵が付いていて、更に内側には南京錠が2つ付いている。『付いている』って言うか、付けたんだけど。



 そんなこんなで、私と勝平の奇妙な生活が始まった。

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