END WORLD SURVIVOR
@kinokogali
終わりの始まり
(あーー、めんどくせェ)
西暦2050年12月のとある月曜日、
俺達学生にとっては、一週間の中で最悪のモチベーションで学校に行かなければならない日。
風が強く、防寒対策として着用しているマフラーやセーターは、追い風に翻り、露出した肌に真冬の風が容赦なく突き刺さる。
ブレザーやカッターシャツは無いに等しいものだ。
日本の冬はこんなにも寒かったのか、今更だが思う。
目を細くし、眉間に皺(しわ)を寄せながら寒さに講義する。
まるで、友達のすべりすぎるギャグを半永久的に聞かされている気分だ。
そんな中、黒い髪を風に揺られながら零乃才羽(ぜろのさいは)は今日も上がらないテンションで学校に行く。
細い体で息を切らしながら、
旧型のモーター付き自転車をこぎ、面倒くさい坂を登って某コンビニに着くと、
いつも決まって待っている奴がいる。
「ウィー……」
「お、サイハ! 今日は早いな!」
「……!?」
このいつも明るすぎて、こっちが干からびるくらいの声の持ち主と性格は、峰山秀(みねやましゅう)。
バカで結構無茶をするが、ちゃんと信念を持った奴だ。
そんな性格だからか、クラスメイトからも信頼されている。
そんなバカで結構無茶をする峰山くんは、今日も無茶をしていた。
上半身は通気性の良い半袖で、下半身は太股位の長さの半ズボン。
俗に言う体操服で真冬の中、登校していた。
こっちは見ているだけで鳥肌が立ちそうなのと、気持ち的に、
……何か可哀想だ。
高校生活3年。この3年目も、毎日全く変わりばえのない通学路を自転車で通っている。
「昨日のゾンビ。
あそこで回るのやめなかったら、絶対ラウンド100いってたんじゃないか?」
(いや、まずはゲームの話より服を着ろよ!!
その服装は流石にないぞ!?)
「いや、どっちにしろ終わってただろ、誰もパワー上げてなかったじゃねェか……。
それよりも、お前そんな格好で寒くねぇの?」
ど直球でバカだろは流石に酷いと思い、
当たり障りの無いように聞いてみた。
「うん、寒くない、むしろ暑いくらいだ」
「あぁ……、そう……」
(だめだ、こりゃ)
こういったどうでもいいような会話が、
サイハたちの日常だ。
つまらない会話をして、のんびり帰る。
こういう人生に2人とも満足していたのかもしれない。
先生共は、やれ就職だ。
やれ勉強だと、毎日毎日懲りずに俺達に向かって言ってくる。
誰になんと言われようが、動き出すのは自分なんだ。
誰からも指図を受けない。
動く時は自分の意思で動く。
この言葉をモットーに毎日のんびり生活していた。
そういう日常。これがサイハたちの日常。
これからもずっと続いて欲しかった日常。
だがその日常は、なんの前触れもなく、非日常へと変化していく。
「あーあ、ゾンビがはびこる世界だったら、俺達結構生き延びるんだろうな……」
そうシュウが言った瞬間ーー。
『ドッゴオオオオオオオォオオォォォオオオンンンンンンッ!!』
まるで天が割れた様な凄まじい轟音が響く。
雷が落ちた。
快晴なのにだ。
しかも学校付近に。
そんなことは意に介さないのか、二人ともか弱い少女みたく昇天寸前まで驚いていた。
「あ、焦ったァあああ!! 晴れてんのにいきなり過ぎだろ……
ビビったァ……ま、ビビってはないけどな……」
「い、一体どっちなんだよサイハ……手が震えてるけど?
俺は勿論、ビビら……」
「お前もな、"体"が震えてるぞ、服着ろ」
「……」
この時はこんな戯れ言を言っていたサイハたちを、未来のサイハたちがみたらなんというだろう。
戯れ言を言っている内に、学校に着いた。
とくに何も変わったことはなく……。
いや、変わった事と言えば、シュウの服装だろうか。
寒々しい格好から、ちゃんとブレザー姿になっている。
先程シュウは、正門に立っている教師に呼び止められ、
服装の事、その他諸々、説教をされていた。
まあ、それもいつもの事なんだが……。
そんなこんなで、いつも五月蝿い先生共の挨拶と、三年間で作り上げてきた友達の数々。
校長が花壇の花に水を撒いた跡。普段通りの学校だ。
廊下を歩いていると、他生徒からさっきの雷の話がちらほら聞こえてくる。
「おい……学校にさっき落ちたよな?」
「眩しかったぁ~何でよりによって避雷針さけて校舎内に……」
ちらほらちらほらとまぁ噂が広がっている。やはりここら辺に落ちていたのだ。
サイハたちは気にもせず教室がある三階へと登って行く。
階段を登っている途中シュウが嘆く。
「ああぁ、勉強しないと……このままじゃ進路がぁ……サイハ、勉強手伝ってよ!!
IQ(アイキュー)180だろ?
少しでもいいから、俺に貸してくれ!」
シュウがすり寄ってくる。気持ち悪い。
しかもIQ180というのをモロで言われるのはウザイ。
「忙しい奴だな。お前そう言って、今まで何回家でゲームしてんだよ。
今日もどうせゲームするって」
「そんな事言われたって、しょうがないじゃないか!
家に帰っても父さんと修行か、ゲームしか無いんだから」
まるで何処かのエ○リみたいだが、気にしない。
気が向いたら、
ピ○子を連れて来ようと思う。
サイハたちが話しながら三階まで登ると、
シュウは自分の教室の前に人だかりができていることに気づく。
シュウはすっと、目を見据える。
(……ん? なんだ……?
ここからじゃよく見えないな……)
教室の方へ向かっていくと、人だかりの原因がいた。
「あぁあああ!! お腹痛いぃぃい!!」
「おいおい、外山ぁ、たこ焼き食いすぎたんやね?
はっはっはっは!!」
何やら腹を壊したのか。外山が腹が痛くて叫んでいるみたいだ。
トヤマはシュウと同じクラスメイトだ。
少しからかい概のある奴。いわゆるいじられ役というものだった。
いつものように同じクラスの誰かからいじられているのだ。
だが、トヤマの様子がおかしい。
腹の痛みには限度がある。
あいつの叫びは明らかに腹が痛くて叫ぶ域を超えていた。
流石におかしいと思い、人だかりを掻い潜りトヤマに駆け寄る。
「おい、トヤマ大丈夫か?」
「あぁ、ヤバい、吐きそうやわ」
いつもはトヤマ相手にこんな善人染みたことはしないが、今は別だ。
それほどに、この光景は、明らかに何かがおかしかったーー。
外山の首が下にガクンと落ちた。サイハの頭に一抹の不安が過ぎる。
「!? なぁ、トヤマ?
オイ、トヤマ!!」
返事が返ってこない、ただのしかばねのようだ。
じゃない、本当に何も言ってこない。本当にしかばねになってしまったのか?
気になってトヤマの顔を覗き込む。
すると、目に映ったのは、
とんでもなく歪んだトヤマの顔だった。
『ぐぢゅり』
トヤマの口の中から奇妙な音が漏れる。
サイハの予感は的中していた。
ムクリと、外山は何事も無かったかのように、いきなり立ち上がる。
「と、外山? もう、大丈……
「グォォォォオinveゔぇあqmydyあ"あ"あ"いえすイエスYesいぇす位絵姿いええええええああああス!!!」
人間の言葉ではない。
母音もクソもないような、有象無象の雄叫びと共に、
トヤマはサイハに向かい、腕を思い切り振り下ろしてくる。
「サイハ!!」
シュウが間一髪の所で飛び込んでくる。
シュウから突き飛ばされ、ギリギリの所で腕をかわす。
先程サイハがいた所に、コンマ一秒遅れてブンッと、
人の腕では鳴らない威勢の良い音が、教室内に響く。
『バカアアァアンン!!』
廊下を覆っているタイルが勢いよく砕け散った。
それを見ていた周りの生徒達の血の気が引く。
シュウは外山に戦慄しながらも、サイハの無事を確認する。
「……っ!! 大丈夫かサイハ!?」
「くっそッすまねぇシュウ!」
「……いいんだ、それより……トヤマは……」
「あぁ、全くわかんねェ。なにがどうなって……!」
ノロノロ……と形容出来そうなゆっくりとした動作でトヤマは。
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!」
トヤマの人間離れの咆哮は、付近の生徒達の鼓膜をビリビリと震わせ、たちまち学校を覆い尽くす。
同時刻。
学校の至るところで叫び声が聞こえてくる。
恐怖へのカウントダウンが終わる。そしてーー
ーーこれから始まる『オワリ』の幕が上がった。
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