第二章 雛流しの呪法
第10話 幕間 桜の花の満開の下で
「こういう桜の樹の下に
神楽舞はビール片手にお花見弁当を突つつきながら妙なことを言いだした。
そこは春の京都の桜の名所『円山公園』である。
桜の花びらが風に舞って、頬を撫ぜるのが妙に心地いい。
隣には飛騨亜礼、安堂光雄、神沢優という公安警察というか、秘密結社≪
向かい側にはいつもの黒のジャージ姿の風守カオル、紺色のGパンに紅いスタジアムジャンパー姿の元アイドル歌手の秋月玲奈という綺麗処もいたりして、舞は少々引け目を感じていた。
特に十四歳の風守カオルと二十八歳の神楽舞の年齢はダブルスコアになっていて、ちょうど二十歳になる秋月玲奈と比べても、若さで負けてる感がその理由だった。まあ、本人が気にしてるだけなのだが。
「そうね。案外、あるかもね」
意味深な発言をした神沢優はいつものダークレッドのサイバーグラスをかけていた。
彼女だけは軍服姿で黒いコートを着ていた。
表情は分からないが、口元は笑っていない。
「いや、そこ、埋まってますよ」
風守カオルが何か見えてる風なことをいう。
「ええ! ほんとうなの? それはないよね?」
言い出しっぺの舞が、一番、怖がっている。
「うん、埋まってるよ。でも、人形の屍体だけどね」
風守カオルの膝の上にいる黒髪の童子がそんなことを言った。
とても可愛らしいのだが、人形のような薄気味悪さがあった。
「舞さんには見えるんですね。
風守カオルが不思議そうに尋ねた。
「うん、飛騨君も見えるでしょう?」
「まあ、見えるけど」
飛騨は相づちをうつ。紺色のビジネススーツ姿である。
このメンバーの中では平凡さが際立つ男である。
「私、見えないなあ。安堂さんも見えないでしょう?」
何気ない仕草に華がある秋月玲奈が言う。
やっぱり、美少女だ。
え? なんで見えないの?
「俺も見えないよ。たぶん、東京在住は見えないんだよ。京都じゃないと」
安堂光雄は妙な説を唱えた。
短く切った黒髪に吸い込まれるような黒い目が印象的である。チャコールグレイの背広にベージュのコートを羽織っていた。
え? あなたも見えないの?
「私、見えるわよ。このサイバーグラスかけるとね」
神沢優が爆弾発言をする。
「そうなんですか! 私に貸してくれますか?」
秋月玲奈がなんか、はしゃいでる。かわいい。
神沢優からダークブルーの予備のサイバーグラスを借りてかけたりしている。
どうもかけると見えるらしい。
「ふたりも見えるんだ。可視モードにしてないのに。実は見える方が異常なの。飛騨さんは飛騨一族の幻視能力だとして、舞さんは何故、見えるのか謎すぎる」
風守カオルはあきれた顔をしている。
「神楽というのは『
神沢優はまことしやかに断言するのだが全く説得力がない。
私の家は神楽流小太刀と柔術の武道系の家なんだけど。
「カオルちゃん、そういえば、この前の『雛流しの呪法』事件ってどうだったの? すごく気になるんだけど」
舞は前々から気になっていた話題に触れてみた。
「あの事件かあ。夜寝られなくなってもいいなら話すけど」
風守カオルは舞を脅かすようなことをいう。
「いいなあ、こわいの楽しい!」
今日の秋月玲奈はハイテンションである。
いつものクールビューティー路線は捨てちゃったらしい。
「私も聴きたい」
舞はそう言ったことを後悔することになるのだが、頬を撫ぜる桜の花びらの香りでいい気持になっていた。
「では、流し雛のお話からはじめようかな」
風守カオルは語りはじめた。
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