夢アリスと白アリス~迫り来る黒の女王~

姫宮未調

夢アリス、華麗に幕を開ける


皆様、ご機嫌麗しゅう。

わたくし、『夢アリス』を給わりまして、皆様を華麗に演出致します。


『夢アリス』は謂わば、監修のようなもの。

今までにあなた方、『夢見人』様方を一番輝かせてきた『夢住人』に与えられる称号。


皆様は『夢』をご覧になられますか?

大概の方が見ても覚えていらっしゃらないでしょう。

しかしそれでも、心に残るワンシーンがございませんでしたか?

そう、それを演出し続けた『夢住人』がわたくし、『夢アリス』なのです。


あなた方は夢を見、あなたの夢の主人公を演ずる『夢見人』。

わたくしたち『夢住人』は、そんなあなたの夢を彩る配役なのです。

わたくしたちには名前はありません。

あなたの『夢舞台』でのみ、役名を与えられ、演ずることを許されるのです。


……この夢世界には『夢守人』もおります。あなたの夢舞台を警護するものたち。

しかしながら彼らは『咎人』、罪人なのです。

『夢住人』としての役割を放棄した重罪人。だから、彼らには主役であるあなたと関わりある役には二度とつけません。

あなたの『隣』に立てる大役を与えられたのに、なんという大罪を侵したことでしょう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇


……いえ、これは建前。

周期的に選ばれる、もっとも『夢見人』様を輝かせてきた『夢住人』の役割。

本当はわたくし……『夢アリス』になんてなりたくなかった。

でも……『あの人』を好きになったと知られたらわたくしも『夢守人』になり、二度と『あの人』の『隣』に立てなくなる。

それだけは嫌だったの……。報われないとわかってはいても、わたくしを見ていないとわかってはいても……。


だから……夢の中の『彼の想い人』を演じ続けるために、自由の利く『夢アリス』を受け入れた。

辛くても、苦しくても、彼の『隣』を演じ続けられるなら……。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



わたくしは偶然、彼の『想い人』に想いを寄せ、『夢守人』になった『夢住人』を知った。

最初はただの配役として『隣』役、『恋人』役を演じていた彼。


『夢住人』、『夢守人』どちらも『人間』に限りなく近い、『アンドロイド型ナノマシン』。夢の住人。

『隣』役はもっとも人間に近い演技を求められる。だから……『夢見人』様に本気で『恋』をしてしまう可能性が高い。それは『夢見人』様が『隣』役を無意識に選ぶことに準ずる。……『夢見人』様が、『もっとも想い描く理想の異性』。それが『隣』役、『恋人』役だから。


引き摺られてしまうのよ。……仕方ないことよ。わたくしが彼を想ってしまったのだから。


……好機、だと思ったわ。

彼を救い、彼女と縁が出来れば、わたくしにも可能性が出てくる。悪足掻きだっていい。

彼女がどんな人か知れば、もっと『あの人』に近づけるはず……。だって、彼女の中に『彼』がいたのを知ってしまったんだもの。




━━わたくしは掛けてみることにしたの。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る