4章「旅立ち」
4章1話 戦後の傭兵たち
「つまり、撤退したというわけか」
夏日さし込む午後の窓辺で、ケネルは怪訝にファレスを見る。
「どういうことだ。兵糧でも尽きたか」
「今さら兵糧でもねえだろう。籠城すれば長引くくらいは、仕掛ける前から分かっている。──どうも、妙な具合になっててよ」
奇妙な報告を受けていた。
クレスト領主の護衛の任で商都へ赴いた分遣隊が、ようやく帰還したのだが、彼らがもたらした報告というのが、首をひねるような内容だったのだ。
ラトキエの拠点・商都に到着した一行は、クレスト領主の要請で、ディールの拠点・国境トラビアへと向かったが、到着間際、国軍の奇襲にあい、当の領主が捕らわれた。
散り散りになった一行は、やむなく道を引き返したが、商都へ向かう道筋で、又も国軍の部隊と遭遇、ところが、部隊は一戦も交えず、あわてて逃亡した、というのだ。
壁の日陰に肩でもたれて、ファレスはいぶかしげに眉をひそめる。
「ラトキエは丸腰同然だ。ディールとしては、西と南の門をふさいで、陥落するのを待つだけでいい。外からの搬入が止まれば、十日ともちはしねえだろ」
ディールは国軍を掌握し、相手の拠点を包囲していた。
撤退するような理由はない。
「おかしな点は、それだけじゃない。撤退したディールを追って、ラトキエの第一軍が商都を出た」
「第一軍?──ラトキエに兵はなかったろう」
だからこそラトキエは、奇襲を受けても応戦できず、むざむざ篭城したのではないか。
ファレスは溜息まじりに首を振った。
「一体どこに隠してたんだか、そんな嵩張る代物を。得体の知れねえ
ケネルは眉をひそめて腕を組む。「──ラトキエは、領主を見捨てたか」
「無理もねえだろ。奴はラトキエの要請を蹴っている。ディールを潰せば、ラトキエの天下だ。その上クレストまで取りこめるなら、むしろ、ラトキエには好都合だ。で?」
「──なんだ」
「とぼけるな。わかってんだろ」
呆れた視線から目をそらし、ケネルは顔をしかめて嘆息した。
「──あのじゃじゃ馬のことか」
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