夢幻の魔女

緋色

序幕

聖と魔の物語

 ――大国アリアレス


「汝、エル・グディウムに四ツ星の位を授ける」


 実質現騎士団の最高責任者であるバーモルド・ハイルドは、声を張り、高らかに宣言した。

 目の前には背筋を伸ばし、授けられた言葉を真摯に受け止めているように見える少年がいる。

 この国の最高位騎士の称号である五ツ星だ。バーモルドがこの称号を手に入れるのにどれほどの年月を費やしたことだろうか。五ツ星を授かったのが六年前であり、白髪交じりの頭からその年月を察することができる。


(彼は本物の天才だ)


 バーモルドも若かりし頃は天才だと、秀才だと、褒めたたえられていた時期もあった。

 実際、五ツ星を授与したのは前例に比べると早い方だ。

 しかしながら、今、目の前にいる少年を見ると、そんなことがとてもちっぽけなことのように感じられる。

 本日、新たに四ツ星の位を授かったのは若干十六歳の少年であり、この記録は歴代最年少となるのだ。

 彼が複雑な事情を持つことも承知しているが、称号は実力がなければ授けられることがない。

 それ故だろうか。目の前に立つ金糸の髪を持った美しい少年の表情に歓喜の類が一切伺えないことが気になる。

 さらには今回授けるものは四ツ星の称号のみではないことも気になり、再度宣言をするために言葉を発する。


「また歴代最速で四ツ星を授かり、聖騎士でもある汝に新たな任を与えよう」


 少年は騎士の中でも聖なる力を有した聖騎士であり、聖騎士はその力が故に国からとても重宝されている。

 実際、聖騎士ともなれば一般の騎士よりも比較的早く高い地位を授けられことが多く、少年もその例に漏れないこともない。

 しかし、果たして今から告げる内容は少年の望むところとなるのだろうか。


「汝を王家直属の騎士隊ロイヤルナイトの隊長格へと任じる――」


 少しの疑問を抱きながら、予め決められていた内容を宣言すると、予想通り瞬時にざわめきが広がる。

 狭き門とされるロイヤルナイトに突然任じられることは異例であり、誰もが驚きを隠せないでいるのだ。

 あり得ない、としりながらも、しかし少年のことを把握している者からすると、それは決してあり得ない話ではなくなってくる。

 一瞬の戸惑いがあったものの、次第に一つ二つと拍手が広がり、最後はその場にいる全てのものが認めたこととなった。

 拍手の音が大きくなるとバーモルドはほっと一息つく。

 ここでどこかしら反論でも起きようものなら、面倒なことになりかねない。

 これにて全て終了――そう考えていたその時。


「大変申し訳ございませんが――そのお話、お断りさせていただきます!」


 それはとても大きな声で、その場ではっきりと明言された。

 しんと、静まりかえる。

 そしてもう一度、少年は告げるのだ。


「俺は――ロイヤルナイトそんなものに興味がない」

 

 それはバーモルドの宣言よりも高らかに、少年は宣言する。

 迷いは一切感じられない。

 少年は既に選んでしまっているのだと、分からずにはいられない。


(ああ、だから彼は天才なんだな)


 突然の宣言により起こる周囲のどよめきをよそに、バーモルドは釈然とした面もちで少年を見ていたのだった。



◇◆◇



 この世界には不思議な力を宿す者がいる。


 “聖”の力を宿す者。

 “魔”の力を宿す者。


 対極する二つの力は常に均衡を保つ。

 常人にはない不思議な力は世界から隔離され、しかし常に世界に干渉する。

 聖と魔の力は世界を安定させるものなのか。

 それとも、波乱を呼ぶものなのか――





――聖の力を持つ少年は、やがて魔の力を持つ一人の魔女と出会う。


――これは、騎士と魔女が紡ぐ物語




―――――――――――――――――――――――――――――――――――

(2016年1月26日公開)

(2023年3月11日改稿)

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