5.イダちゃんとおとなのじじょう

イダちゃんはいつだったか、なんだか元気のない時があった。少し考えごとをしていたようにどこかをぼうっと見ていて、そこへ話しかけると、ちょっとかたをふるわせて、なあに、と言うのだった。

そして実際、どうしたの、と聞けば、ううん、と首をふって、

「何でもない、ちょっとかんがえごとしてて。」

と言っていた。



    










てんこちゃんち、ごりょうしんがりこんした

のよ。けど、あんたにはなんもかんけいない

んだから、いつもどおりにせっしなさい。

りこんしたの、なんて、きいちゃ、だめよ。










「イダちゃんのおとうさんとおかあさん、りこんしたの?」


だれかがそんなことを聞いてた。だからたぶん、りこん、て言葉を聞いたのは、イダちゃんからじゃなかったんだと思う。



「ああ、うん、そう、なんだよね。」

イダちゃんはちょっとだけこちらを見てから、うつむいて、そうつぶやいた。

二つ結びのイダちゃんのかみがふるふるとゆれているように見えた。

しばらくみんなの中に、だれも何も言えないような空気があった。


イダちゃん、泣いちゃったかな。かわいそう、イダちゃん。おとうさんとおかあさんがりこんとか。なんでそういうこと聞くの。でりかしーがなさすぎ。空気読めよ。謝んなよ。かわいそうじゃん、イダちゃん。泣いてる、イダちゃん、かわいそう。早く何とかしてよ。謝ってよ。謝れよ。早く。謝れ。もう、言っちゃおうか。


聞いたあたしが、そんなに、悪い?







「おとうさんとおかあさんが、ばらばらになるのは悲しいけど、まあ、会えなくなるわけじゃ、ないしね。」

イダちゃんが、ば、と顔をあげた。

みんなに、笑いかけた。


………そう、そうだよね。会えないわけじゃないしね。いつでも会えるもんね。イダちゃんは、おとうさんとおかあさん、どっちにいくの。そうなんだ、やっぱそうだよね。それじゃあおじゅけん、どうするの。ふうん、そうなんだ。



チャイムが鳴る。キンコンカンの音じゃないこの学校のチャイムは、エーデルワイスの音が鳴る。



エーデルワイス

エーデルワイス

かわいい花、よ



「かわいい花」までに、みんな着席しないと、いけないよ。











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