アリス

@siratori

物語の始まりはいつも陳腐だ。


この物語だってそう。


だって、冒頭で黒ずくめの人間が赤いトマトケチャップがついたナイフを持っている。なんて。


あまりにも陳腐でポップコーンをスクリーンに投げたくなるだろう。


その人間はフードを被ってるから表情は認識できないけれど、フードから垣間見えるにやぁって笑ってるいような三日月みたいな口元。喜んでいるのかな?


ぽた


ぽた


ぽた


ぽた


ぽた


ぽた


ぽた


ナイフから滴り落ちる赤い雫から香るのはトマトの甘酸っぱい香りではなく、一度は絶対に嗅いだことのある鉄錆みたいな香り。


目の前には、土色の人間によく似た精巧な人形が転がっている。


だけど、その人形はよく作られている。


なぜなら、人形の胸は刺されたあとがあるはずなのに、白い棉ではなく赤い血のような液体が滲んでいたのだから。


ああ、これは人形ではないのか。


これは人形によく似た人間らしい。


器しか残っていない中身がない人間。


魂はどこかに転がっているのだろう。


まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。


フードを株った人間は、人形によく似た人間に近づいてその頬に触れた。


柔らかさを感じ男は満足そうに喉を鳴らした。

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