複垢調査官 飛騨亜礼2 TOKOYO DRIVE

第四章 僕の彼女はアンドロイド

第37話 僕の大事な人

 汎用支援型アンドロイド<マーク10テン>それが彼女の正式名称である。

 個体識別のため「エリィ」と呼んでいるが、彼女はまだ、六歳である。


 2039年の日本では、僕のように先天的に車椅子に乗らなければならない障害者には彼女のようなアンドロイドが支給されていた。

 労働力の半分はロボットに肩代わりされ、経済政策としてベーシックインカムも実施されていたが、政権の福祉政策、人気取りの一環として彼女たちが登場した。


 幼い頃から僕専用に最適化するために、三歳の頃から一緒にいる。

 家族の一員のように育てられるので普段は意識しないが、彼女のようなアンドロイドは工場に働きに出て、家族の生活を支えていた。


 六歳の子供が工場で働く。

 ロボットというか、アンドロイドなのでそれは当然だとも思うが、なんだか割り切れない感情もあった。

 が、それにも徐々になれるものだ。

 

 エリィは16:30頃、工場から帰ってきて、僕の遊びに付き合ってくれるが、今日は様子が少しおかしい。


「エリィ、どうしたの?」


「はい、ご主人様、少し身体が破損しているみたいです」


 エリィはかすれたような声で答えるが、いつものような滑らかさはなくて電子音じみていた。

 赤い服は所々、黒ずんでいてエリィの身体から何かの液体が漏れてるようだった。


「それはいけない。母さんに電話するからちょっと待ってて」


 僕は腕時計型スマホで母親に連絡して到着を待った。

 ほどなく、卵型の透明な強化プラスチック製のボディをもつ、自動運転のパーソナルビークルで彼女はやってきた。

 近くでサイバネティックス病院を開業していて、部下に診察を任せられるので、そういう点では融通が利くのだ。

 ダークレッドのサイバーグラスと白衣に黒いスカートのままで駆け寄ってきた。


「ライト。エリィの調子がおかしいの?」


 母のベスは僕の方を一瞥してから、マリアの身体をあらためた。


「―――これは。左の脇腹を何かで突かれてるわ。どうしたの、エリィ?」


「剣のようなもので突かれました」


 エリィはぽつりと答えた。


「剣? 中世でもないのに、剣ですって?」


 ベスは眉間にシワを寄せて訝しんだが、すぐにエリィの首筋の出力部に首から下げた診察用の電子聴診器の端子を差し込んだ。

 サイバーグラスに映ったエリィの視覚映像記録を見て声を上げた。


「これって? ロボットなの?」


 驚きの声を上げる母さんから、その映像が時計型スマホに転送されてきた。


「これは………ボトムストライカーじゃないか!」


 <刀撃ロボットパラダイス>、通称<刀撃ロボパラ>というネットゲームに出て来るロボット、<ボトムストライカー>という機体であった。

 黒い機体カラー、特徴から隠密作戦を得意とする<ニンジャハインド>という機種のようだった。

 何故、そんなことが分かったかと言えば、僕が今、プレイしているゲームだったからだ。


「母さん、このロボット、ゲームにでてくるやつだよ」


「どうして、ゲームのロボットがエリィを襲うの?」


「それはわかんないけど、そうなんだよ」


「とにかく、気をつけなくてはいけないわね。<APアンドロイドポリス>に連絡して護衛をつけてもらうわ。最近、そういう事例も増えてるみたいで」


 ベスはため息をついた。

 ベーシックインカムを得た国民の中には、それを良いことに更なる要求を叫ぶ輩もいて、障害者へのアンドロイド支給に批判的な者もいた。

 

「エリィは僕が絶対に守る」


 ライトは自分の無力さを知りつつ、そう宣言した。

  

「そうね」


 ベスは我が息子ながら、その勇気を誇らしく思っているのか、慈愛に満ちた表情で頷いた。

 



 

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