第48話 地下迷宮探索
「ほう、これが地下迷宮というやつか」
そこは人気ネットゲーム<刀剣ロボパラ>の地下迷宮の最深部である。
地下迷宮でbotが賞金稼ぎをしているという噂を確かめるためにメガネはここまで潜ってきていた。
黒の<ニンジャハインド>、迷彩装甲で周囲と同化する隠蔽機能を持つ<ボトムストライカー>に乗っていた。
「信長さま、少し黙ってて下さい」
メガネがいつになく強気な発言をする。
だが、信長の声は聞こえるが姿は見えない。
本能寺で救出され、オタク達と一緒に戦国の乱世を駈け抜けた織田信長であるが、今は<歴史の修正力>とやらで神霊となってしまってメガネに取り憑いていた。
「メガネ、最近、冷たいのう」
信長らしくない弱気な発言である。
「どうしたんですか? 信長さま。らしくないですよ」
「サルもハゲもタヌキもいない。清明殿も忙しいからか、遊んでくれないのじゃ!」
秀吉、光秀改め天海、家康と安倍清明のことである。
「安倍清明さまは<かなめっち>と東北にアララバギ探しに旅立ちましたからね」
その辺りの事情は「安倍清明と安東要の転生譚」「常世封じ道術士 風守カオル」参照。まだ、書いてないけど。
「だからって、なぜ僕に取り憑く?」
「おぬしとは波長が合うのよ」
「僕は合わないと思います」
ただのツンデレである。
「この前の戦いの時に助けてやったろう」
確かに、それはそうなのだが、この人と一緒だとトラブルに巻き込まれるからなあ。
「わしは強い星を持ってるから仕方ないのじゃ」
「何気に心を読まないで下さい!」
「波長が合うから仕方ないのじゃ」
「………」
メガネは絶句するしかなかった。
しかし、この戦国最強の武将も意外と寂しがりやなのかもしれない。
まるで拗ねた猫のようである。
「波長が合わないと、謀反を起こされる事が多いから大変じゃ」
そう、意外と信長は戦国武将としては人を信頼する
しかも、同じ人に何度も裏切られても許して家臣として使い続けた。
戦国の梟雄、松永久秀なども二度も裏切ってるが許したりしている。
天下の茶器を所有してたり、利用価値があったというのもあるが意外と寛大なところもあるのかもしれない。
振り返れば、信長は肉親や家臣に何度も裏切られていて、それを乗り越えて生きてきた。
明智光秀に本能寺の変で裏切られて、「是非もなし」と言ったのも実はいつもパターンだったのだ。
襲撃された時も実は本能寺の地下道からちゃんと脱出してたりする。
だが、その後、服部忍軍に待ち伏せされたりしていた。
そこで安東要や安倍晴明、メガネたちに助けられることになったのだが。
「………自業自得な感じもしますがね」
「メガネ、生意気いうようになったな」
「まあ、英雄というものはそんなものですよ。乱世では活躍するけど、平和になるとお払い箱になった将軍とか、冷遇されて殺されるパターンが多いじゃないですか。漢帝国を創始した劉邦の勝利を決定づけた将軍の韓信とか。黒田官兵衛とかも謀反を起こすのではないかと秀吉に警戒されましたし」
「おぬしもなかなか分かってきたではないか」
「お、あれは―――――」
メガネが小さな声を上げた。
その視線の先に、ダークパープルの龍頭蛇尾の<ボトムウォリアー>がいた。
それはまるで白亜紀の恐竜のように巨大で、メガネの<ニンジャハインド>の十倍ほどの大きさを誇っていた。
それが何かを捕食していた。
「うわっ!」
メガネは思わず、小さな叫び声を上げそうになって口を押えた。
何か
「<ボトムウォリアー>が肉を食うというのも奇怪だが―――」
信長も事態の異常さに何か思案を巡らせているようだった。
そうこうしてるうちに腹を満たして満足したのか、その龍のような姿に蛇のような尾を持つ<ボトムウォリアー>は石造りの鍾乳洞のような迷宮の奥へと進んでいった。
「とりあえず、追跡してみるか」
信長の言葉にメガネも気を取り直して機体をゆっくりと進ませた。
<刀剣ロボパラ>の地下迷宮には通常、ぼんやりとした明かりが灯されている。
何ともご都合主義だが、ゲームの仕様だから仕方ない。
メガネの<ニンジャハインド>は迷彩装甲を展開して周囲と同化して、謎の<ボトムウォリアー>からは姿が見えてないはずである。
複雑に入り組んだ地下迷宮を抜けると、1キロ四方の広場のような場所にでた。
その中央には緑色の淡い光の魔方陣が描かれていて、謎の<ボトムウォリアー>はその場所に向かっているようだった。
「あれはセーブポイントか何かでしょうか?」
地下迷宮の各層に安全地帯兼セーブポイントがあるというのは<刀剣ロボパラ>の仕様だが、こんな場所にあるという話をメガネも聞いたことがなかった。
「違うな。転位魔方陣ではないかな?」
メガネの影響ですっかりオタク知識豊富になった戦国武将というのも困ったものだが、南蛮渡来の鉄砲や西洋の革新的な仕組みを導入した信長であるし、新しい環境に適応する能力はずば抜けていた。
その推測が当たっていたのか、龍頭の<ボトムウォリアー>が魔方陣の中央に辿り着くと魔方陣が発動して黄金の光が機体を包んだ。
突然、巨大<ボトムウォリアー>の姿が魔法のように消え失せた。
まあ、魔法なんだが。
「わしの推測が当たりじゃな」
自慢げに言い放つ信長に、<刀剣ロボパラ>の先輩としてちょっと悔しいメガネであった。
メガネの<ニンジャハインド>も魔方陣に辿りつき、ほどなく黄金の光につつまれて転位していった。
転位先に現れた光景にメガネは自分の目を疑った。
「これって、どこかの惑星ですかね?」
赤い酸化鉄の粒子が舞う大地にねずみ色の空が見える。
岩山が多いが、遠くの丘のようなものに淡い緑も繁っている。
ピラミッドのような石造りの建造物も遠くの方に見えた。
<刀剣ロボパラ>裏面、隠しステージかなにかのように思えた。
「わしの<魔人眼>では、ここは火星のようだが」
信長は秘密結社<
<魔人眼>は全ての本質を見通す力を持つと言われている。
「火星って………」
メガネは本日二度目の絶句をして、しばし、その場所に立ち尽くしていた。
それが油断を生んでしまったのだが、気づいた時には<ニンジャハインド>が巨大な力で薙ぎ倒されていた。
「メガネ!」
信長の声が頭の中に響いた。
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