第46話 飛騨亜礼

『作家でたまごごはん』の事務所のある京都の伏見区は、有名な観光地の「伏見稲荷大社」の門前町で、天正時代に伏見城の城下町として、江戸時代には淀川水運の重要な港町である「伏見港」、宿場町の「伏見宿」として栄え、元々は京都とは別の町だった。


 現在では京都市に編入され、京都の区で最大の人口を誇るベットタウンとして、商業拠点、観光地としても有名である。

 

 舞鶴生まれの神楽舞はこの土地が好きで、特に新高瀬川沿いを散歩するのが日課になっていた。

  

「もしもし、飛騨君、今、どこにいるの?」


 川の堤防の土手に腰かけて、舞はスマホで飛騨亜礼に連絡していた。


(あ、舞さんか)


 スマホから懐かしい声が聴こえた。


「何よ、そのガッカリな感じは。失礼しちゃわ」


(そういう意味ではないんだけど、こっちも大変なんだよ。今、カオルちゃんと一緒にN津市の例の「市職員連続自殺事件」の調査に来てるんだけど、昨日、市庁舎に落雷があって、また、50人ほど市職員に死傷者が出てしまって大変なんだよ)

 

「何なのそれ? あ、あの<スルガ王>の眠る『高瀬山古墳』を破壊して国道にしてしまった、例のあれね」


 『高瀬山古墳』破壊事件の呪いと思われる「市職員連続自殺事件」を『常世封じ道術士』、わかりにくいので陰陽師というか高名な霊能力者という触れ込みで風守カオルが市長から依頼受けて招聘された事件である。


(それで、カオルちゃんに<スルガ王>の調伏をしてもらおうとした矢先に更なる被害者がでてしまったわけだ)


「ご愁傷さまです。こちらも大変なのよ」


 神楽舞はここぞとばかりため息をついた。


(メガネ君が何かしでかしたか?)


「何でわかるのよ?」


(虫の知らせだよ)


 というより、おそらく、ある種の予知能力だと思われる。


 飛騨はその名の通り飛騨地方の生まれで、幼いころから両親や村の住人と一緒に池に映った太陽を眺めるという『日抱ひだき御魂鎮みたましずめ』をやっていたという。


 湖面に映る太陽の光をみつめて、しばらくしてから目を閉じると瞼の裏に様々な映像が浮かんだ。

 それは遠い過去のものだったり、未来の映像だったりした。


(とりあえず、やってみたらいいと思うよ。ダメだったら、また辞めればいいし。試行錯誤も大事だよ)


 神楽舞の話を聞き終えた飛騨はそう答えた。


「そうしてみようかな」


 と言って納得してしまった。


 あとでかなり後悔することになるのだが、飛騨亜礼にしても未来が完全に見えるとは限らないのだった。

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