第32話 光の太刀

「あのー、メガネ隊長、どこに降ろせばいいのですか?」


 両断された立花城の先端が落下して行くのを見送りながら、ハネケはそんなことを言った。

 メガネは純白のハネケの機体、ねじまき姫のスペアの<ボトムドール>の足に捕まりながら彼女を見上げた。

 これが普通の女の子なら、パンチラにはベストポジションだが本当に残念だ。

 あ、何故かパンチラにこだわるドローンオタクは、今、どうしてるのか?

 アキバに帰って平和に暮らしてるのだろうか?

 少し懐かしくなったメガネであった。


「ああ、そうだな。立花城の本丸にでも降ろしてくれ。なかなかしぶといようだし」


 二の丸から両断された立花城であったが、本丸は健在で未だに浮遊していた。

 

 落下した先端の7キロあまりに、味方である≪メガロポリスの虎≫同盟の鬼虎先遣隊と≪YUKI no JYOU≫同盟の<龍騎兵>隊の戦場とか、《飛鳥》、《飛礼》同盟のメンバーがいたので、損害はかなり酷いことになってるかもしれない。


 でも、計算では敵の守備部隊のほとんどを本拠地から遠ざけたので、ねじまき姫の聖弓という切り札で本丸破壊は可能である。

 さらに、スカイパレスの守備部隊の≪メガロポリスの虎≫同盟300機、≪悪役令嬢≫同盟150機は健在である。メガネたち連合軍の有利は動かない。

 

「メガネ隊長、安心して下さい。≪メガロポリスの虎≫同盟の本拠地<白虎砦びゃっことりで>が鬼虎先遣隊と《飛鳥》、《飛礼》同盟のメンバーを回収してくれたようです」


 メガネは下界を見下ろして、菱形の白亜の空中砦が浮遊してるのを見つけた。

 

「<白虎砦びゃっことりで>、≪メガロポリスの虎≫同盟も本拠地飛行機能コマンドに資源投入してたんだな」


「そのようです。でも、≪YUKI no JYOU≫同盟の<龍騎兵>隊こちらも飛行できるみたいでこちらに向かって来てますが、どうしますか? とりあえず、私も<攻城刀技>使っちゃったんで、当分、エネルギー切れです。立花城方面に逃げますね。」

 

「お、おう、それしか選択ないね」 


 メガネは不本意ながら、うなずくしかなかった。

 <龍騎兵>隊が翼をはためかせて、急上昇してきていた。


 メガネとハネケは立花城本丸の前の庭に着地した。

 マリアと対峙している飛鳥の背後から呼びかけた。


「飛鳥隊長、本丸の様子は?」


「もぬけの空だった」


「空城の計? それはどういうことですか?」


 メガネは訊いたが、それに対してはマリアが答えてくれた。


「メガネ君、あなたもなかなかしぶといわね。あの方はここにはいないわ。あなたの本拠地<スカイパレス>の心配をした方がいいわよ」


 不敵に笑うマリアの声を聴いた直後に、メガネに緊急通信が入った。


(メガネ隊長、至急、帰還して下さい。<スカイパレス>上空に≪八頭龍≫が現れました! 只今、ねじまき姫さんと夜桜さん、≪メガロポリスの虎≫同盟の鬼虎隊300機が応戦中ですが、苦戦中です)


 <スカイパレス>守備隊の≪悪役令嬢≫同盟の隊長、神楽舞の声だった。


(≪八頭龍≫! ≪YUKI no JYOU≫同盟の盟主、竜ヶ峰雪乃丞りゅうがみねゆきのじょうの機体か。ねじまき姫の聖弓はどうした?)


(それが、ねじまき姫さんが致命傷を与える度に≪八頭龍≫の頭が再生してしまって。このままではジリ貧です)


 神楽舞の声が悲痛な叫びに変わっていた。


(分かった。何とかしてそちらに戻る)


 メガネは浮遊する真紅のマリア機の前に集結しつつある、死神のような暗黒の翼をはためかした<龍騎兵>隊を睨んだ。まだ、70機はいる。  

 状況は最悪である。


「ハネケさんだけでも、先に帰ってくれ」


「でも、この戦力差では………」


「大丈夫だよ。ハネケさん、ここは俺たちに任せてくれ」


 その時、飛鳥が力強くいった。


「たったふたりでどうやって?」


「俺にはこれがあるから。メガネ君も強くなったし」


 飛鳥は十二聖刀のひとつ<光風剣>を抜いた。


「―――それは。了解、ふたりとも御武運を!」


 ハネケは急速上昇すると、振り返りもせずに高速で立花城の戦場を離脱していった。


「さて、遺言でも伝えたのかな?」


 真紅のマリア機が静かに手を振り下ろした。

 70機の<龍騎兵>隊が一斉に降下してきて、飛鳥とメガネに襲いかかる。


 が、次の瞬間、飛鳥の<光風剣>が煌めき、最初に突っ込んでいった30機あまりの<龍騎兵>が空中で両断されて落下して行った。


 飛鳥は、通常、一分ほどの発動時間しかない<殲滅刀技>を光速の居合抜きで分割することで、数十刀もの攻撃を可能にしていた。

 プレイヤーの非凡さが<光風剣>を最強の聖刀に押し上げていた。


「飛鳥さん―――、というより飛礼さんですよね?」


「うん、色々あって帰るのが遅れたけど、とりあえず、ただいま」


 かつて、メガネと一緒に飛礼≪同盟≫を作り上げた男、飛騨亜礼の帰還であった。

 

 

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