第23話 メガロポリスの虎

 ネット小説出版社<メガロポリス>はウェブノベル大賞というコンテストを毎月開いている。


 ラグビー部出身でがっちりした体型の社長の鬼虎徹きとらとおるによれば、まだ、会社を上場してない時、毎月なので賞金8万(末広がりで縁起がいいという理由で)ぐらいしか捻出できなかったのだが、上場しても特に賞金を上げるつもりはないという。


 「それは初心を忘れないためだ!」と日本大経済新聞誌上の『社長の原点』という記事で力説している。

 応募してる方としてはそんな初心はさっさと忘れて、80万ぐらいに上げて欲しいものだが、その前に社員の給料も倍ぐらいにしてほしいものだ。


 「0」は堂々巡りで縁起が悪い?

 なら、88万円でも構わない。


 いや、私はただのラノベ書きのオタクであって、<メガロポリス>の社員では決してないことも明記しておく。


 それはともかく、「ウェブノベル大賞ではバックにあるイラストのような作品を応募して欲しいという暗黙の了解がある」という都市伝説があるが、編集部に訊いたらどうも事実らしい。

 なので、応募する人はちょっとそのあたりを気を付けて頑張って欲しいと思う。

 何度も言うが、私はただのラノベオタクであって、<メガロポリス>の社員ではないと断言しておく。




 それはともかく、最近、<メガロポリス>社内ではあるネットゲー、地方発のネット企業IMT.COMとMARUKAWAグループが共同開発した<刀剣ロボットバトルパラダイス>が流行っている。


 IMT.COMは数年前から<ネット小説投稿パラダイス>、通称<ネットパラ>をオープンして、同じネット小説投稿サイトである<作家でたまごごはん>で規約違反で削除になったいわゆる『転生作家』を人気作家に育てあげるという手法で急成長していた。


 何故か花魁おいらんのコスプレで煙管キセルくゆらせている社長の竜ヶ峰雪之丞りゅうがみねゆきのじょうは、<刀剣ロボットバトルパラダイス>内で、金に物を言わせて重課金をする大人げないプレイヤー同盟である同盟員200名の≪YUKI no JYOU》同盟を結成して、<刀剣ロボパラ>ブームを巻き起こしていた。


 おそらく、ネットゲー<刀剣ロボパラ>でゲームにお金をつぎ込んでも実はそれはかっこいいことなんだ!という価値観がはじめて生まれたのではないかと思う。

 現実世界でただの派遣社員だとしても、ゲームの世界では200名以上の同盟員を抱える盟主として君臨できるし、レア聖刀をもつ強大な攻撃力を誇るプレイヤーとして尊敬される存在になれる。

 そういう意味では≪YUKI no JYOU≫同盟、つまり、社長の竜ヶ峰雪之丞りゅうがみねゆきのじょうのネットゲーユーザーを巻き込む手腕は見事だと言える。


 それを見た<メガロポリス>の社長、鬼虎徹がネットゲーに嵌っていくのには時間はかからなかった。

 社内で≪YUKI no JYOU≫同盟に対抗して同盟員500名の《メガロポリスの虎》同盟を結成し、一説によると、上場で得た資金を湯水のようにつぎ込んでいるという黒い噂も流れていた。

 何故、彼がそんなことをするのかというと、ただの『負けず嫌い』らしいというのは公然の秘密である。


 それで社員の給料もウェブノベル大賞の賞金も上がらないのかと納得している訳だが、私はあくまでただのラノベ、ネットゲーオタクであって、<メガロポリス>の社員の可能性は全くないということは当然である。

 であるから《メガロポリスの虎》同盟にも所属しているし、盟主から臨時ボーナス、いや、違った、出所不明の豊富な分配金を頂いて、重課金をしていることは他の社員には秘密である。


 そして、最近、ネット小説投稿サイト<作家でたまごごはん>にも、ある有力同盟が存在するという噂を入手した。

 メガネ君率いる《飛礼同盟》である。

 かつてのリーダー『飛礼』がラスボス『スケルトン中華ロボ』の大規模討伐戦以来、姿を消したらしいが、同盟員100人の少数精鋭ながら一騎当千のメンバーで構成されているらしい。


 私はその情報を得て、《飛礼同盟》に《メガロポリスの虎》のスパイとして潜入中であるが、同盟の雰囲気もよく、なんだかこの同盟に骨を埋めてもいいかなと思っている。


 スパイが心変わりしてしまってはいけないが、まあ、スパイであることを気づかれないというのが最重要課題であるし、裏切ることはいつでもできるので、まあ、いいかなと思っている。


 この物語はそんなネットゲー三国志のお話でもある。

 

 

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