第59話 魔女復活の予感
突然、
「あれ、萌さんがいる」
最初に一行に気づいたのはメガネ君である。
たぶん、メガネたちが道端で話に夢中で気づいてなかっただけである。
八ッ橋屋の試食に夢中になっている舞に至っては気づいてさえいないようだった。
一行は清水寺に向かう坂をゆっくりと歩いていた。
単なる観光案内のように見えた。
お姫様姿の神無月萌のそばに、女子大生アルバイトのアリサがいたが、<ヨムカク>のスタッフだろうという薄い印象である。
当然、神楽舞の期待していたダンスバトルなど起こるはずもなく、TシャツにGパン姿の超大手出版社の<KAWAKAMI>社長の角山卓三社長も期待(妄想?)に反して竹馬のようなシークレットブーツは履いてない。
当たり前である。
だが、
何かのけいれんらしかったが、女子大生アルバイトのアリサがとっさに身体を支えて大事にはなっていない。
「あれは
ばばあ、いや、AI読者のエリィちゃんというか、
「あの娘から何か巨大なエネルギーを感じるが」
神霊の力をもつ信長は何かを感じ取ってるようだ。
「萌えさん、大丈夫かな」
メガネは単純に心配だったが、舞に至っては未だに八ッ橋の試食に夢中になっている。
「ちょっと妙ですね」
飛騨亜礼は未来を予知する能力で何かを幻視してるようである。
ゆらゆらとした動きで舞いはじめた。
「では、わしもひと差し舞うか」
金ぴかのド派手な戦国武将姿の信長がこれに呼応して道の真ん中に進み出た。
(信長様、息災でしたか?)
神無月萌の瞳が碧く
深窓の令嬢のようなドレスの胸に銀色の
(やはり、ベアトリス殿か)
メガネ君や飛騨亜礼も何となく聴きとれるほど、その声はよく響いた。
ただし、頭の中に直接、
(その娘、
(AI読者のエリィちゃん、いや、
ベアトリスに憑依された神無月萌がにっこりと微笑んだ。
(ベアトリス殿、そなたも懲りずに転生されるようですな)
信長は「
有名な敦盛の一節の信長バージョンとして「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」というものがある。
信長の人生五十年の辞世の舞のような印象があるが、「下天」とは仏教の六欲天の最下層の世界で、一昼夜が人間界の五十年に当たり住人の寿命は五百歳ぐらいであると言われている。
「人間界の五十年は天界の下天の一日にすぎないくらい儚いものだ」という意味になる。
(信長様、私がしばし眠ってる間に、平和を満喫なさいませ)
天界のベアトリスにとっては人間界の数年など瞬きする時間にすぎない。
信長はベアトリスの言葉をそう解釈した。
(ベアトリス殿、人の営みはささやかだが、そなたを倒したのも、その儚い人の力だったことをお忘れか?)
(……そうですね)
神無月萌が力を失ったん人形のように、道に膝をついてしゃがみ込んだ。
アリサが駆け寄って萌の身体を抱いた。
(天界に去ったか)
ベアトリスの瞳に似た碧い空が広がっていた。
†
「何でダンスバトル教えてくれなかったのよ!」
神楽舞は自分が八ッ橋の試食に夢中になっていたことを棚に上げて、そんな不満を口にした。
そこは八坂神社の境内だった。
朱色の本殿が美しい。
「舞さん、世の中には知らない方がいいこともあります」
メガネ君はいつになく深刻な顔をしている。
「メガネ君は何か気なることがあるのかい?」
飛騨亜礼は何となく真相を知ってるようだが、ただ話を聞くだけである。
「魔女ベアトリス、奴を倒すのにどれだけの犠牲を払ったかと考えると、先が思いやられます」
メガネ君は本当にへこんでいるようだ。
「俺はよく知らないが、信長様が言ってたように、その巨大な敵を倒したのもお前たちひとりひとりの力だったはずだよ」
「そうですね」
少しメガネ君に元気が戻ったようだ。
「舞殿、少し踊らぬか?」
ふと見ると、信長とAI読者のエリィちゃんが八坂神社の本殿の前にある舞殿〔重要文化財〕で勝手に踊っていた。
「いいんですか?」
神楽舞も嬉しそうに舞殿に登って一緒に踊りだす。
(いいわけないだろ!)
メガネ君は小声でつぶやくのだった。
(あとがき)
何となくな感じで第六章も終了です。
短編連作なので無理に終わらせなくてもいいかなと思った。
第七章に続きます。
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