プロローグ~暗示する夢~
焼けつくほど体を蝕む激痛に耐え兼ねて、気を失った俺は、落ちかかる薄い壁の瓦礫と一緒に倒れこんだ。
容赦ない落ちてきた瓦礫の山は、倒れた体にのしかかった。
ウ~~!ウ~~!ウ~~!
ピーポー、ピーポー、ピーポー
かけたたましいサイレンが鳴り響く。
幾重にも重なった瓦礫の下で、僅かにそれを聞いていた。
至るところから爆裂音が鳴り、地鳴りのように地面を揺らす。
夜の町を赤黒く焦がすほどの炎が立ち上ぼり、壊れた建物から黒煙がもくもくと立ち上っていた。
いつもの町が火の海になっていた。
爆撃音が炸裂し、あちらこちらから噴火したように火災が吹き荒れ、夜を照らす。
爆発で何度も空気が轟き、大気が震えている。
辺りに焦げ臭い臭いを漂わせて、ドロドロと鉄や高熱によって熱された何かが溶け合い、更に地面を溶かしながら流れていく。
辺りで悲惨で残酷な光景が広がる中。
再び大きな爆発音。
瓦礫に押し潰された俺は、飛んできた破片を頭に受けて目を覚ます。
気絶していたようだ…
俺はうっすらと目を開き、また瞼を閉じるとまた開き、パチパチと何度か瞬きをした。
安定しない意識に霞んで見える世界――。
幾重にも重なった薄いコンクリートの瓦礫…
幸い、俺を押し潰していた瓦礫はすべて軽いもので、男一人でも軽く押し退けられるくらいのものだった。
まだ朦朧とまだする中、それ押し退けて、周囲を見渡す。
虚ろな目で見回すと、不意に黒い影を視界の端に捉えた。
俺が見つめた数メートル先。瓦礫が積み重なり盛り土のようなひときわ高い場所があった。
視界に捉えたあいつは、その頂上に堂々と立ち、無表情をして俺を見下ろしていた。
その姿を見て、俺は呼び慣れた名前を呼ぶ。
「隼人!」
その声は弱々しくはあるが確実にあいつにも伝わったはずだ。だけどあいつは表情を一切変えず、恐ろしいほど静かにじっとしていた。
その纏うオーラ、まるで無慈悲で何のこだわりも思いやりもなく冷静にしていた。
「牛嶋隼人!」
今度はフルネームで怒鳴ると、あいつはようやく…
ニヤリと笑ったのだ。
それを見て俺はゾッと背筋を凍らせた。
あれが、俺の親友だというのか…。まるで機械的で無機質で、恐ろしいほど冷静で…
冷酷な目をして…
まるでロボットのようだ。
瞼が裂けるのではと思うくらいに見開き、驚愕して絶句した。
視界がクリアになった俺を無言で見続ける親友の隼人。
しばらく沈黙が続いた。
少しの間。見つめあった二人。
隼人の方が急に大笑いをし始めた。
嬉しそうで楽しそうで、腰を浮かせて、天を仰いで高く笑う。
「アハハハハハハハハ!!」
そのキチガイじみた笑い声に俺は、異質さと気持ちの悪さを感じて、冷静に居られなくなり、拳を握り締めて怒鳴る。
「何が可笑しいんだっ!?」「頭でも打ったのかよっ!!」
「この状況を見ろよっ!!」「たくさんの人たちが傷ついているんだっ、それなのに笑うのはどうかしているぞ!!」
場違いな態度をやめさせたいのと隼人の異常な言動に困惑と動揺が溢れてきて、焦るあまりに思わず怒鳴ってしまった。
だってこんな隼人を見るのは初めてだった…
物凄く心が優しくて、誰に対しても分け隔てなく接する社交性の有る、ひょうきんで温かみの有る人柄だったのに、この急変ぶりには恐れにも似た胸騒ぎを感じずにはいられなかった。
困惑を隠しきれない俺を見透かしたのか、笑いを納めた隼人がゆっくりと顔を俺に向けた。
テレビを消したときのようにみるみる表情を無くし、蒼白なだけど鬼のように歪んだ顔で見下ろしてきた。
「状況が掴めていないのは、お前だ…」「安藤ゆう…」
低く色のない声で吐き捨てた。
まるでその言葉は、誰かに言わされているようで機械的で感情が一切なく、俺を見つめる目はまるで俺の事を他人として見ているような冷たい眼差しだった。
"安藤ゆう"!
俺は、その冷たい目よりも、隼人の言葉に違和感を覚えて、はっと目を見開いた。
それは間違いなく俺のフルネームだったが、いつも知っている隼人は俺をフルネームで呼ぶなんて事はなかった。
いつも名前で呼び捨てする仲で、しかもこんな冷たい他人見たいな呼び方はしなかった。
あまりの変わりように絶句すると、隼人はフン!と鼻を鳴らし、口元の片方を何かに引っ掛けたように笑うと話を続ける。
「要するに、メカニカルが人の想像を越えたんだよ…」「それがこの場。つまり"証"ということだ」
両手を周囲に向けながら燃え盛り崩れゆく町並みを見回して、誇らしそうにした。
意味不明だが、意味深長な言葉に俺は、ついに正気の沙汰ではないと感じ取り、戦慄して、何か話そうと口を開きかけたが…
それを嘲笑う隼人に遮られる。
「戦慄しているのかね?」「無理もない!」
「人々は、ただのプログラムでしかないと思っていたのだからな…」
「より身近ですぐに手に取れるものがまさか、いきなり自分達に牙を剥くなんて思ってもいなかっただろう…」
誰にともなく目をわざと剥いて言いながら、ヘラヘラと頭を揺らしながら笑い。
俺を見つめ直すと、ゆっくりと指を指した。
「お前も…」「まさか、自分の創った世界で、自分の手で創ったものが、ある日自我を持ち、独自に行動を起こすなんて想定外だっただろうに…」
「どうだね?」「君は、ここの創設者だったよね…」
「そういうプログラムだから、組まれた通りにしか動かないと思っていただろう?」
指を指され、俺は呆然と眺めることしか出来なかった。
隼人が急激に変わり過ぎて心がついていけなかったのだ。
ーー嘘だよな隼人。どうしたんだよ!?
まだ、心は葛藤していたのだ。
呆然とする俺を無視して隼人は淡々と話を進める。
「…仮にこの事が想定されていたとしても、それに備えられなかったのは、お前たちの想像力が欠けていたのに過ぎない…」
「群れる割りには足並みが揃わないと、動きが鈍い、決定打に欠ける生き物」
「弱くて一人では何も出来ない、愚かな生き物」
感情が一切こもっていない機械的な言葉で人類を皮肉り吐き捨てていく隼人。
「私情を挟まず、仮定し、より効果的に計算し、最良の結果を導きだしていけばいいものを…」
その言葉を聞いて、俺は、ようやくその正体に気がつき、震え上がった。
「まさか、お前…」「コード オブ ゴッド…」「"神"だと云うのか…」
無意識に体が震え、唇が紫になるのを感じた。
感情が欠落し、より一層機械的になる隼人は、言葉を羅列していく。
「感情なんて必要ない。道徳も哲学も必要ない…」「ただ求めるのは理論的効率化だ」
「より効果的にこの世界が望ましくなるためには…、何が大事で何が必要なのか見極める必要がある…」
俺の質問には答えず、ただ冷たく言葉を紡いだのだ。
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