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「……え、壊れてるって!? 一体どういう……こと?」
言ってるコトが良く判らない。
聞き返せば、蔵人さんは自分の耳を指でつついた。
「子どもの頃から散々殴られてたせい、か。
それとも別に原因あるのかは、謎。
ただ、僕はこの特別な補聴器無いと。
音がほとんど聞こえ、ない」
補聴器って……あ、耳のピアス!
昨日、初めて会った時からつけてたやつだ!
あんまり目立たないので、今日はスルーしてたけど、良く見れば確かに。
輝く金属片が耳の穴により近くついてる。
ごく普通の公立高校で、蔵人さんの金髪に、ピアスが許されているワケは……
髪は自毛。ピアスは、聞こえづらい音を『聞く』コトを助ける機械だからだったんだ。
視力が弱い人がメガネをかけて学校へ行っても許されるように、蔵人さんのピアスも許される。
「補聴器、人の会話は問題無く聞こえる、けど。
音程を取れるほど高性能じゃ、ない」
だから、歌えないんだ、と蔵人さんは言った。
「じゃあ、もっと高性能な器械を使えば良いじゃないですか!」
今、どんなヤツを使っているか判らないけれど、もっと良いモノにすれば変わるかもしれない。
そう言ったら、蔵人さんは、困ったように笑った。
「君は精密機械メーカーの『SISIN(シシン)』って知って、る?」
「え~~と。君去津の下町、
あんまり大きいメーカーないけれど。
通信機器の技術部門に関しては、皆が知ってるSANYを抜かして世界一になったことは、誰でも知ってる。
「SISINは漢字に直すと『獅子心』って言う、んだ」
「獅子心って……もしかして『ライアンハート』!!」
「そ。僕の使っている補聴器ってSISINの、最新型。
しかもまだ社外未発売の試作器、だ。
どんなにお金を積ん、でも。
これ以上高性能な器械は、世界中どこにも、ない」
言葉は冷静に並べられていたけれど、声はとても悲しげで。
「壊れた耳で歌うことは、無理。
僕も本当に残念、だよ」
そんな、諦めきれない蔵人さんの心の声は、わたしの胸にも突き刺さっていた。
……………………
………………
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