13

「だから、あんた。人ごみに流されてたのか。

 ……でも、切符って、ナニやってるんだよ。

 事前に、スィカとか電車に乗れるカードを買っておかなかったのか?

 それさえあれば、わざわざ切符買わなくても、自動改札通れるだろ?」


 そか。


 そういうカードを使っているから、みんな自動販売機に並ばずに、改札の方に流れる感じになってるのか。


 ……勉強になるなぁ。


 思わずしみじみ頷いてから、あれ? と首をかしげた。


「……えっと、カード?

 爺に……じゃなかった。宗一郎に電車の乗り方教えてもらった時は、確か。

 電車の路面図をみて、調べた運賃分の切符を自動販売機で買って。

 切符を駅員さんに、ぱちんと挟んでもらってから改札を通れ……って」


「……へ?」


 わたしの言葉に、宗樹は信じられないコトでも聞いたかのように、きょとん、とした顔になった。


 えっ、わたし、何か間違ってた?


 うーん、と。確かこれでいいはず、だけど。


「……で、君去津までの切符欲しかったんだけど、路面図に載ってなくて」


 両手の人差し指をつんつん突き合いながら「ちょっと困ったかなぁ」って言ったら宗樹の顔がぴきっとひきつった。


「改札通るのに、切符を駅員に挟んでもらえ、だって!?

 あんの、くそじじい!

 最後に電車に乗ったの、いつだよ!」


「えっと、あの……宗樹?」


 なんだか、とても怒っているみたい。


 叫んだ宗樹に声をかけたら彼は、わたしを睨んだ。


「君去津の駅名無いのも当たり前!

 私鉄の駅なんだから!

 JRの路面図に、書いてあるわきゃねぇだろ!」


「えっ! そうだったんだ……」


 驚いているわたしに、宗樹は獣みたいに喉をぐるぐる鳴らして唸り。


 今度は、答えを聞くのが心底イヤそうに質問した。


「……で。なんであんたは、裕也に声かけたんだ?

 あいつ、私服だったし、顔、殴られてヤバかったろう?

 怖く無かったのか?

 ……っていうか。

 知らない男と関わり合いになるな、ってのはガキの頃から教えられてなかったか?」


「……うん、でも。神無崎さんずっと座り込んでたみたいだし。

 立ち上がれないほど殴られてたなら、大変だなって」


 「莫っ……迦!

 殴られたってことは、そいつも誰かを殴ったかも知れないってことだろ!

 アイツの態度と目つき。

 殴られたら泣いて寝込むようなヤツに見えたか?

 少しは自分の身の危険を察知しろよ!」


「でも、ほら。

 困ってるんだったら、どんなひとでも、助けてあげないといけないかなぁ、って」


「……勘弁してくれ。胃に穴が開きそうだ」


 首を傾げるわたしに、宗樹はげっそりとした顔をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る