第19話 落とし穴の先
ハイリの歌を聞き、涙を流しきって眠ってしまった谷内くんは、夢の中でも繰り返すように歌を思い出していた。歌の響きが体じゅうに優しく巡る。体力は限界まですり減っているものの、心の芯には少しだけ力が残っている。木々の隙間から差し込む光に目を覚ますと、深い森の奥底からハイリの声が聞こえたような気がした。オハイリナサイ、、、、オカエリナサイ、、、オハイリナサイ、、、、オカエリナサイ、、、オハイリナサイ、、、オカエリナサイ、、、、オハイリナサイ、、、オカエリナサイ、、、その声にいざなわれるように、ひたすら歩いた。意識が朦朧とする中で、休まず、ただ声のする方へ。まるで、何十年にもわたりナオミチャンが神ヵ山と時下をひたすら往復したかのごとく、ただひたすら、、、
どれくらい歩いたかわからない、昼か夜かもわからない、ふらふらふら歩いていると、アコウの木のような木の根っこに転び、そばにあった深い穴に落ちてしまった、、、
ドスン!と落ちた先は、地球。美しい海の見える海岸沿いの舗装された遊歩道の真ん中、こここそが、鬼門の真上。こんなところに大の字になって寝そべっている。
薄めを開けて空を見上げる。空が遥かに高くて、届きそうもないくらいに澄んでいる。そこを一羽の鳥が水面に浮かぶようにゆっくりと飛んでいる。その鳥の動きを目で追っていると、谷内くんの視界に突如、女性の顔。
髪をかきあげながら元気な声で「おはよ!」と、ハイリの声。
目を見開いて確認すると、そこにいたのは原桜子先生。谷内くんの手をグッと掴んで抱き起こした。強くて冷たくて優しい手の感触はなんだか懐かしい。谷内くんは立ち上がり、原先生のみずみずしい目を見つめた。すっと先生の右耳に隠れ、左耳から抜けていくさっきの鳥を目で追うと、谷内くんの耳元で原先生が「ほら、学校行くよ!」と手をぎゅっと握りしめて微笑んだ。その瞬間、体じゅうにエネルギーがみなぎってきて、今からすぐにでも学校に飛んでいけそうな気がした。
もう、大丈夫。
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