第40話 パン作りは体作りなのじゃ!

 パン職人の女性が指をうねばきゅーんと動かしていたのをやめて、元気よく返事をするルルににっこりと話しかける。


「いい返事ね!お嬢ちゃん名前はなんて言うのかな?私の名前はナンって言うの!」


「わしはの名はルルじゃ!」


「ルルちゃんか!俺はブロート、よろしく!それじゃあルルちゃんもパン作りやってみるかい?」


 唐突なパン作りのお誘いだが、これもギルがルルに色々体験をさせてあげたいと、あらかじめお願しておいたものだ。


「いいのかや!?」


 ルルは突然のお誘いにびっくりして確認をするが、その表情は戸惑いよりも感激の色が強い。好奇心が旺盛なのでやらせてくれるのであればどんどん挑戦したがるのがルルの特徴である。


「もちろん!パン屋の門戸はすべての人に開かれているからね!」


「やるやる!やるのじゃ!」


「よし!じゃあさしあたってまずは軽く運動してみようか!」


「まて、今の流れでなぜ筋トレを勧める」


 横で見ていたバアルが、パン作りのお誘いから筋トレのお誘いに変化したことを指摘する。

 だがその指摘に対しルルが得意満面な顔で返事をする。


「んふー!わしはわかるぞ!ひょうりいったいだからじゃ!」


「そう!パン作りは体作り!」


「パン作りだけでも、体作りだけでもダメなんだよ!」


 ルルの言葉にその通りだと、自分のお腹のあたりに左手を置き右手で掴み、上半身は正面を、下半身は横を向けるサイドチェストのポーズで肯定するナンとブロート。


「お兄さんもやっていくかい?」


「……いや、私は遠慮しておこう」


「そうかい?もったいないね。ここのマシンはパン職人じゃなくても使えるから興味がわいたらいつでも歓迎するよ!」


 ついでとばかりにバアルも誘われるがけんもほろろに断られる。誘ったほうもこういうのは無理やりやらせるものでもないしねとあっさりと引き下がる。


「神父様はどうする?」


「いいですね、私もちょっとやらせて頂きます。ああ、ルルさん、その服装で運動というのも問題でしょうからこちらに着替えをどうぞ、あちらの部屋で着替えられますよ」


 ギルは返事をするとあらかじめ用意しておいた衣装をルルに渡し着替えを促す。着替えを受け取ったルルはルンルン気分といった様子でツインテールを揺らして着替えに向かう。


「いってくるのじゃ!」


「では私が手伝おう」


「いえ必要ないですから」


「なんだと!?」


 ギルは当然のようにルルについていくバアルを捕まえ、もう着替えくらい一人で出来ますので自主性を促すためにも云々かんぬんと親として必要なことをこんこんと説くのであった。



 ややあって着替えをしたルルが帰ってくる。


「どうじゃ!?」


 おニューの服が嬉しいルルは両手を広げてどうじゃとアピールをしてくる。


 ミニの修道服姿から、上は首まわりと袖の部分にえんじ色の縁取りがされた、少し厚手の無地の白い半袖。

 下はお尻をしっかりと覆い隠すが、肉付きの良いむっちりとした太股を惜しげもなく晒すえんじ色の厚手のパンツ。いわゆるブルマを履いていた。

 聖霊教に伝わる由緒正しき女性用の体操服である。


「ちゃんと着れてますね」


「偉いぞルル!」

 

 嬉しそうなルルを見てほっこりする保護者二人組。バアルはちゃんと着替えたことを誉めそやし、ギルは内心これで着替えを手伝う必要はないと理解してくれればよいのですがと期待する。


「じゃあルルちゃんそこに座ってみて」

 

 そんな保護者二人をおいて、ブロート達は椅子の前に二つのレバーが付いたような形のマシン、チェストプレスにルルを誘導する。


「これじゃな!」


「そうそう、高さは……これでよし、おもりは一番軽くしようか」


「わしは一番重くてもよいぞ!」


 椅子に座ったルルが遠慮はいらないのじゃよと快活な笑顔で錘の増加を催促するが、パン屋の二人は笑顔で首を振る。


「ハッハッハッ、子供の時に筋肉をつけすぎてもあまり良くはないんだよ!だから今回は軽く流すだけにしようね!」


「それにいきなり重いのをやったら逆に体を壊しちゃうからね!無理しないように徐々に重くするのが王道なのさ!」


「おうどう!いいのう!軽いのからやっていくのじゃ!」


 本当に大丈夫なんじゃけどと言いながらも、王道という言葉に惹かれたルルは快諾する。物わかりの良いルルにパン屋の二人も機嫌が良くなっていく。


「じゃあやってみようか!このレバーを掴んで押して引くんだよ」


「よゆーなのじゃ!」


 かるいかるいと半袖から伸びる幼女らしくぷにっとした腕を素早く動かし、レバーをガシャンガシャンと動かすルルだったが、それにブロート達がごめんねと訂正する。


「あー、ごめんねルルちゃん、それじゃ駄目なんだ。ゆっくりやるのが大事なんだ」


「そうそう、あと押すときよりも引くときの方が大事だから、そっちも意識していこうか!」


「ほうほう!こうじゃな!」


「そうそう、良い感じ!」


 ルルは訂正されても嫌な顔一つせず、むしろそれが楽しいといった表情で正しいフォームで運動を再開する。そんなルルを見てブロート達も笑顔で補助をし、その後もいくつかのマシンを試すのであった。

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