第38話 パン屋さんと聖霊教会なのじゃ!

 お叱りと自己反省を終えた一行は、小麦という荷物の増えた荷台を引いて一路パン屋へと向かう。ゴロゴロと重そうな音を立てているのを見て、ルルが心配そうに声をかける。


「せんせぇ荷台重くないかや?わしが引こうか?」


「はは、大丈夫ですよ」


「それならいいんじゃけども、辛くなったら言っとくれ、何時でも交代するのじゃ!」


「お気遣いありがとうございます」


 流石に幼児に引かせるわけにはいかぬとギルは笑顔で断る。そんなギルを心配そうに見ながら並走するルルは、そう言えばと思いついた話題を振る。


「ところでなんで教会がパン屋さんのお手伝いをするのじゃ?」


「と言いますと?」


「教会とパン屋さんに繋がりがないと思うんじゃよ」


「おや?それなりに繋がりはあるのですが……では簡単に説明しましょう。ザックリと、理由は三つあります」


 ルルの素朴な疑問に少しだけ考えてからギルが笑顔で答えると、指を一本立てて説明を始める


「まずこの村で問題なく保管できるのが当教会のみという点が一つ」


「そうなのかや?」


「はい、うちの倉庫は隙間風も入らない立派な倉庫なのです」


 村の建物は大工が主導となり冒険者とともに作り上げたものが多く、専門以外の人間の手を借りていることもあり多少の隙間などがある。人が住む分には問題はないが、長期間食糧を保管する場所と考えた場合それほど適しているとは言えなかった。

 その点、教会は専門の大工のみで作られ、虫の入る隙間もない本格的なものとなっていた。


「二つ目に、食べ物の保管には魔法も使いますので、そう言った面でも教会にあったほうが便利なんです」


 二本目の指を立て、保管の魔法があるんですよと説明すると、続いて三本目の指を立てる。


「そして最後に聖女教会の方針ですね。聖霊様の声を聞いた始まりの聖女様、八人いたのですがそのうちの一人が『いつだって美味しいご飯とお酒があれば何とかなる』と食事方面に力を入れていたのです」


「食いしん坊な聖女じゃのう!」


「そうともとれますが、昔は美味しいご飯とお酒はいつでも食べれるものではなかったんです。一般家庭ではお腹いっぱい食べることも難しい時代だったそうで、それをどうにかしたいと頑張ったそうですね」


「なるほど!みんなのために頑張ったのじゃな!」


 ルルの率直な意見を受け、ギルは自分のためだけではなく、みんなのために頑張ったんですよと説明する。するとバアルがなるほどと感心したように口を挟む。


「つまり飢えた民衆の人気取りか、食事は絶対に必要なものだからな、考えたものだ」


「まあ、そう言う側面もあったであろうことは否定できません。ですがそのおかげで私たちは美味しいご飯が食べれるようになったんですよ。昔のパンは保存性を高めるために、とても硬く焼き上げられていたとか」


 バアルの突っ込みを否定せず、おかげで美味しいご飯が食べれるようになったのだからいいじゃないですかとギルは流す。嫌味ではなくただの感想だったようでそこから更に追及することはなかった。

 かわりにルルが元気よく口を開く。


「大丈夫じゃ!わしは硬くてもちゃんと食べれるぞ!」


「それは凄い、何でも固すぎて釘が打てるほどだったそうですよ」


「釘が打てるのかや!」


 硬くても食べると言ったルルだが、流石に大工道具として使えるようなレベルとは思っておらずびっくりした表情で答える。


「ええ、そのまま食べようとしたら歯がかけてしまうかもしれませんね。なのでスープにつけて柔らかくしてちょっとづつ食べたとか」


 ギルは当時の食事はそれはもう大変だったようですと語ると、だからこそと説明を続ける。


「そのような当時の食を憂いた聖女様が色々とほうぼう手を尽くして、今は美味しいご飯が食べれるようになったのです。いつも食べているパンも柔らかいでしょう?」


「うむ!ふわふわでわし好きじゃよ!」


「それは良かった、それもまた聖女様の尽力の証なのです」


 硬く無くておいしい!とはしゃぐルルにギルがまとめの言葉をかける。


「とまあこの三つの理由があってパン屋とも教会は繋がりがあるのです」


「おお!なるほどなのじゃ!」


 なるほどなのじゃとしきりに頷いて感心するルル、それを見て微笑む大人二人。そうして荷車を引く一行はパン屋へと向かうのであった。

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