第21話 ドラゴンパゥワーなのじゃ!

 棍棒イタチがやられてすぐ薬壺を投げて回復させ、注意を逸らしたところで背後からの一撃を与える。妖怪でありながら仲間を信じ、グリンド達を猿と見下すような発言が目立つにもかかわらず、敵を侮ることの無い連携であった。


「カカカッ!最後のはちと焦ったぞ」


「カッ!猿にしては良くやったと言うたところか」


「カカカッ!だが最後に立っているのは依然変わりなく我らよ」


 グリンドを殴り棄てたことにより勝利を確信するイタチ。

 もはや緑の手で無事なのは、攻撃に参加していないカラだけであった。


「それよりあやつを治してやってくれぬか、もしや我の防御が突き破られるとは……」


「カカカッ!気にするな、小賢しい猿どものする事だ、そういう事もあろうよ……ほれしっかりせよ」


「う、うぐむぅ……」


「ひどい怪我だな、しばらくは動けまいて」


 守れなかった仲間を診てやってくれと、種族が違うにもかかわらず互いを尊重し心配するイタチとゴブリン。薬壺イタチが棍棒イタチから薬を返してもらい鎌イタチを手当てする。

 鎌イタチのダメージはひどく、先ほどの棍棒イタチのようにすぐにでも戦闘に復帰できるとはいかないようだ。


「カッ!我らの勝利だ。猿の分際で手こずらせた栄誉を称え、我らの血肉にしてやろうぞ」


「カカカッ!良い案だ。我らはさらなる高みに行けようぞ」


「カッ!猿の戦士よ、今楽にしてやろう」


 倒した敵を食らう事は勝者の当然の権利であると、倒れ伏したグリンドに止めを与えようとするイタチだったが、


「≪守りの盾≫!!」


ガイン!


 そうはさせじとカラの防御魔法がイタチの一撃を受けとめる。


「カッ!負けたのだから早々に諦めれば良いものを!」


「カカカッ!どれ、いつまでもつか見ててやろうぞ」


 ガシンガシンと障壁を殴り続ける音が森に響く。イタチの攻撃をはじいてはいるが徐々に障壁が薄くなり、ついには消えてしまう。


「……ッ……んっ……ごめん、みんな……」


「んはっ!なんじゃ!ここはどこじゃ!」


 カラは障壁の展開を限界まで行った結果気絶をする。そして入れ替わるようにルルが目を覚ました。


「カッ!小さいのが起きたぞ」


「カカカッ!今更何をする事も出来まいよ」


「なんじゃ!イタチがしゃべっとる!かわゆいのう!……はっ!思い出した!気を付けいおぬしら!この森何かおるぞ!わし殴り飛ばされたからわかる!」


 目を覚ましたルルは起き抜けに場にそぐわぬとんちんかんな話を繰り出す。ルルが気絶するところから戦いが始まったのだから仕方のない事ではあった。


「カッ!こやつ現状の把握もできておらんぞ」


「カカカッ!お前がやったせいであろうに良く言うわ」


「なんじゃ?何を言うておる?」


 イタチ達はそんなルルを見て嘲笑う。それでも理解が出来ないルルに杖ゴブリンが口を開く。


「つまりお前を殴り飛ばした何かは我らという事だ」


「なんじゃと!」


「カッ!ついでに言うと貴様の仲間もすべて片づけたぞ、あとは貴様だけよ」


「なんとまあ!可愛い顔してやるのうおぬしら!」


 衝撃の事実を続けざまに言われ驚愕するルル。こんな二足歩行のイタチがそれほど強いとはと驚き、素直に称賛してしまう。


「カカカッ!だが貴様は他の猿どもと比べて弱そうだ、食ろうても足しになりそうもない。今逃げるなら見逃してやるぞ?」


「おぬしらまでそういうこと言うか!わしすっごく強いんじゃよ!ばっちゃも誉めてたんじゃからな!」


「ほう?では我らに抗うと?」


「当たり前じゃ!それに、わしにはカラを守るという役割があるでな!パーティーとしてやることやらねばいかんのじゃよ!」


 イタチが情けをかけるが、ルルはそれを良しとせず拒む。自分は緑の手の一員であり、役割がある。ここで引くわけにはいかぬと無い胸を張り力強く宣言する。


「カッ!なら死ぬが良い!」


「封印されし力!パワー!オブ!ザ!ドラゴン!!」


 逃げる気が無いのを理解して早々殴りかかるイタチにを見据えたまま、ルルは両手を大きく広げ左右から円を描くようにクロスさせ、振り払う。


「カッ!何をたわけたことを……ッ!」


「ドラゴンスクリュー!」


「ガッガッギャアアアアアアアア」


 この状況で何をしているのかと笑いながら己が両手の棍棒でフルスイングをするイタチだったが、ルルはそれに尻尾・・を使い勢い良く回転しながら飛び掛かり大きな両手・・・・・で棍棒を掴むと、その回転力により棍棒イタチの腕を破壊しながら巻き込み地面に叩きつける。


「……貴様、その姿は一体」


「ふふん!緑の手が一人、嵐穿のルルとはわしの事じゃよ!」


 宣言したルルの姿が一変していた。

 ベールの下にあるはずの耳の位置からは大小二本の角が小さい方を上にして後頭部に向かって生えている。

 両のまなこは金の瞳はそのままだが、中央部の瞳孔が爬虫類を思わせる黒い縦長なものに変わり、本来白目の部分も闇夜を降ろしたような黒一色に塗りつぶされている。

 もみじのような手と形容して差支えの無かった両手は、二の腕辺りから先に行くにしたがい緑色の鱗に覆われ肥大化し、鋭い爪の生えたものとなっている。

 足も同様に膝の上あたりから鱗が生え、先端に行くにつれ大きくなる足の先には手と同様に、触れるものをすべて切り裂くような爪が生えている。

 小さくなだらかな背中にある肩甲骨のあたりからは力強い翼が修道服を突き破り生え、尾てい骨からは人間には絶対に無い太く長い強靭な尻尾が生えていた。


「カカカッ!聞いたこともないわ!」

 

 一変したルルに棍棒イタチを倒されても余裕を崩さず薬壺イタチが殴りかかるが、それをものともせず正面から受けとめそのまま薬壺イタチの頭を抱え込み、尻尾を振り勢い良く地面へと叩きつける。


「デンジャラス!ドライバー!オブ!テンリュー!」


「ガアアアアッ!」


ドゴォォ───!!


「あとは小人さんだけじゃな!くるがよいぞ!」


 薬壺イタチの頭を地面に突き刺し、ルルは不敵な笑顔をゴブリンに向けて呼びかける。いきなり仲間が立て続けにやられ固まっていたゴブリンであったが、気を持ちなおすと魔力を全力で練り始める。


「ぬ、ぬぅぅぅ!食らうがいい!大魔法≪大地の一撃≫!」


「ならばこちらも取っておきじゃよ!ドラゴン!ブレス!」


カッ───!!


「ぬわああああああああああああああ」


 ゴブリンの唱えた魔法により土が盛り上がり天を衝く程の巨大な岩石の手が現れルルを押しつぶそうと迫ったが、大きく開いたルルの口から出た光線がゴブリンもろともに吹き飛ばす。


「勝利のポーズ!!」


 あとには爆発を背後にドヤ顔で何かを薙ぎ払うような決めポーズを取るルルだけが残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る