第18話 巨大熊に勝ったのじゃ!

「ふぅぅぅ~~~」


 巨大熊の死亡を確認し、構えをとくグリンド達。終始優勢に攻めてはいたがあまりにも体躯が違う相手であり、一歩間違えれば死ぬのは自分たちだったと理解していた。

 しかしそれでも勝ったのは自分たちだと勝ちどきを上げる。


「っしゃああああああああ!どうだこの熊野郎が!」


「ッ~~~!すっごいな!ガーって来て!ババーってやって!ドスンじゃったな!」


「おうよ、すげぇだろ?」


「あとな!あと!名前を呼んで!それにあわせてガーってやるの!あれな!いいな!あれが連携なんじゃな!」


 勝利の余韻にひたるグリンド達に、その小柄な体を大げさに動かし身振り手振りで自分の興奮を伝えるルル。すごいすごいと大はしゃぎでグリンドに抱きつく。


 冒険者などと危険な職は諦めてもらいたいが、称賛されるのは気持ちが良いものだと素直にルルの感想を受けとめ、誇らしげに答えるグリンド。


 ルルは憧れの冒険者たちが力を合わせて巨大な敵を倒す、おとぎ話が現実にあったのだと興奮冷めやらぬ様子で話しかけている。


「わしの守りも必要なかったのう!次は攻めても良さそうじゃな!バーっていくぞ!」


「そういうわけにもいかねえよ!?」


 次は自分もとはやる気持ちをそのまま口に出し、グリンドにたしなめられる。それでもルルの顔に不満は見えない。自分もやるぞと体の内から沸く高揚感でいっぱいになっていた。


 それを微笑ましく眺めながらも、放置できない問題について話しを始める緑の手一行。まだプスプスと焦げている熊に目をやりながら所感を述べる。


「しかし、南側にこんなのがいるとは聞いた覚えがない」


「北のやつか?なんで南側まで……」


「かちあった時に確認したけどよ、最初からいくつか傷跡があったな、縄張り争いに負けたってところか?」


 ルルを抱きかかえながら戦闘中の事を思い出し語るグランド。それを受けてロクが倒れた熊を調べ、自分たちがつけていない傷があることを確認する。


「熊ってそう簡単に逃げ出すもんか?」


「少なくとも俺たちからは逃げなかったな」


「これの戦意を喪失させるようなモンスターが北の森に来たってことか」


 今戦った熊よりも強い何かが森に来ている。想像ではあるが間違いないだろうなと嘆息する面々。村を守るためにもいずれ戦う事になるであろう、と。


「だが今は会いたくはねぇな、鉢合わせになんかなりたかねぇしさっさと帰るぞ。とりあえずこいつは持ち帰れそうにねぇな、血を抜いて埋めとくか。カズ、カラ、頼むわ」


「≪掘削≫あと、一応目印をつけておくぞ≪光球≫」


「これだけ大きいと運ぶの大変そうだねえ≪保存≫」


 カズが魔法を唱え、それなりの時間をかけて巨大熊も入れる穴を掘り、目印のために光量をそれなりに抑えた持続重視の光球を設置する。

 その間カラが熊の死体の血抜きを終え、品質を保存するための魔法がかける。

 なお、抜いた血は地面に撒くようなことはせず皮袋に入れて持ち帰る。野生動物に荒らされないようにするというのもあるが、単純に滋養が高いからという理由もある。


「はやくギルドに報告して人手頼むか、おい嬢ちゃん!今日はごちそうだぞ!」


「わしももらっていいのか!」


「おうよ!仲間だろ!カラを守ってもらってたんだしな!」


「うほー!いいのう!パーティーいいのう!」


 何もしていなかったので何か貰えるとは思っていなかったルルが喜びの声を上げる。しかしカラを守ると宣言し、そのとおり戦闘中ずっとカラを守り続けていたのを皆理解していた。


 ルルがゆるみきった頬を両手でおさえ、とろんとした顔で今夜のご飯に思いを馳せ喜んでいると、不意に木々をかき分けるような音が聞こえてくる。


「ん?おい今何か音しなかったか?」


「あん?なんだって?」


「……してるね、なにか、くる」


「このタイミングで来るって事は……」


「だな、おい嬢ちゃん、またカラを頼む」


「くふふぅ~おにくぅ~~」


 先ほどまでまるで生き物がいなかった南の森。元凶と思われる巨大熊を倒したところで、そうそうすぐに野生動物が戻ってくるわけもなし。

 とくれば今来ているものが何なのか想像がつく。元凶の元凶が来たのだと連戦にそなえ構える緑の手の前に、再度影が飛び出して来た。

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