第12話 嵐穿のルルなのじゃ!

「たのもう!」


 まだ朝方のそれなりに人がいる冒険者ギルドに、幼児時特有の高く元気な声が響き渡る。

 掲示板の前で依頼を吟味している者、カウンターで受付をしている者、その他大勢のギルドにいる人間の視線が声を出した一人に集中する。

 何故かところどころ土で汚れた修道服に、愛らしくも不敵な笑顔を浮かべた幼女がそこにいた。


「緑の手が一人!嵐穿のルルが依頼を受けに参ったぞ!」


「おい嬢ちゃん焦りすぎだって。ほら、砂払え砂」


 パーティーへ誘われたことに大喜びし、興奮そのままに転んだことも気にせずギルドに突貫したルルであった。しかも御大層な二つ名まで勝手に名乗っていた。この幼女ノリノリである。

 それに続く形でギルドに入ってきた緑の手一行は、ルルについた砂をポンポンと払いながらギルドの様子をうかがう。


 非常に目立っていた、悪い意味で。


「グリンドォォォ!ちょっとツラァかせやぁ!」


 受付のスキンヘッド、トクが先のルルの声が霞むほど大音量で吠える。それを聞き震えあがる緑の手の面々。そんな中楽し気なルルが一人だけ浮いていた。


「うへぇ、おやっさんマジ切れじゃねぇか。ロクもついて来いよ、俺一人じゃ怖え。カズとカラはルルの面倒頼むぜ」


「お前が変なこと言ったせいだろうが」


「道連れか、可哀想に」


「じゃぁルルちゃんちょっとそっちのテーブル行こうね」


「む?なぜじゃ?わしもグリンドと一緒に行くぞ!しめいいらいってやつじゃろ!わしも行きたい!」


「あーうんそうだねーでもほら、僕たちまだ組んで間もないし、役割分担も重要だからね」


「なるほど!さっき話してたやつじゃな!わしはどの役割になるんじゃ!」


「賑やかし要員だな」


「なんでじゃ!」


 わいわいと足取り軽く楽しげにギルド内に併設された酒場に行く三人。


「まぁギルさんからの依頼だって言えば大丈夫だろ」


「パーティーに入れた事については言い訳しようもないだろうが、殴られるのはお前だけにしろよ」


「お前も止めなかったじゃねぇか!俺だけのせいにすんなよ!」


「ぶつぶつくっちゃべってねぇでとっとと来いやぁ!」


「「へ~い」」


 それとは対照的に足取り重くカウンターに行く二人組であった。




「んで?聞き間違いだとは思うが、ガキのシスターがお前らパーティーの名前を言っていたような気がするんだが、どうなんだ?」


 返事次第ではただでは置かないという気迫をにじませながらトクが尋ねる。

 何にも成れなかったものの吐きダメ冒険者ギルド。勘違いした子供が来るのは極まれにある。ただでさえこの村は冒険者の人数が多い。親に憧れる子供はそれなりにいる。


 だが憧れても本当になる子供はいない。親が認めない、それが例え元冒険者であったとしてもだ。いや、元冒険者だからこそ殴ってでも止められる。ついでにいうと周りの大人も皆止める。当たり前だ、命を担保に僅かな賃金しか得られない仕事をどうして子供にやらせようか。


 冒険者になれるのはろくでなしの親不孝者だけなのだ。


 成人した男性であろうと容赦なく死んでいくこの業界。子供がなったところですぐ死ぬのは間違いない。そもそも体もできてない子供に出来ることなど囮になることぐらい。


 子供をパーティーに入れるのは、つまりそういう事だと思われる。だからトクは怒りを隠さず尋ねる。お前らは使い捨ての盾を用意したのかと。


「いや違うんすよおやっさん、誤解っすよ誤解」


 ろくでなしの親不孝者ではあっても、恥知らずの卑怯者ではないと説明するグリンド。


「ギルさんからの依頼で今日一日面倒を見てくれって頼まれたんすよ、な、ロク!」


「何で面倒見るのにパーティーに入れる必要があんだよ!ずっと面倒見てたお前らがそんな事するなんて俺は自分が悔しいぞ!」


「おやっさん、落ち着いてください。ホントにそんなんじゃないんですよ」


「あの嬢ちゃんがどうしても冒険者になりたいっていうんで、今日一日だけ安全なのやらせてやろうって思ったんすよ」


「そうそう、パーティーとは言ってますが護衛を言いかえてるだけなんですよ」


 興奮冷めやらぬトクを何とか落ち着かせようと必死に説得するグリンドとロク。


「本当か!?後でギルの奴に確認するから嘘だったらすぐわかるんだぞ!わかってんだろうな!」


「大丈夫なんでほんと!ガンガン確認取ってもらって問題ねぇんで!」


「だから落ち着いてください!」


「……そこまで言うなら信じるが、怪我一つさせるんじゃねぇぞ!わかったな!」


「それはもちろん!」


「緑の手の名にかけて!」


 ただの子守のはずが面倒臭いことになったグリンド達、緑の手一行であった。

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