第212話 極楽浄土への転生・・・その2

お師匠がご本尊から答えをいただいた20分後には、矢沢さんとわたしは電車の中にいた。


「もよりさん、すみません。私の家のことでお付き合いいただいて」

「いえ、そんな。これも何かのご縁ですから。でも、遠いですね、二下山ふたしもさんなんて」

「はい。私も市内生まれですけど、今まで一度も行ったことがありません」

「矢沢さんもですか。わたしもそうなんですよ。トレイルランニング用のコースもあるので一度行ってみたいとは思ってたんですけど」

「もよりさんはマラソンとかされるんですか」

「フルマラソンは走ったことないですけど、トレーニングは欠かさずやってます」


車中ではこんなような雑談をしながら40分ほどで二下山の最寄り駅に着いた。


「タクシー使いましょうか?」

「いえ。多分車だと見過ごしてしまうと思います。日差しはきついですけど、歩きましょう」


気遣いからの矢沢さんの申出は丁重に取り下げ、炎天下、山の麓から歩き始めた。さっきお師匠が伺った答え通りにお地蔵様を探しながら歩く。


「矢沢さん、お墓はお持ちでないですが、あなた方は先祖供養をきちんとやってきておられますよ」


それがさっきご本尊から答えを得た時のお師匠の言葉だった。

そして、墓という形はないが、矢沢家の先祖は標高300メートルという、里山に近い二下山の自然を大きな墓として安住しているという。それからこんなことを言った。


「夢に出てくる浴衣姿の女の子は特定のご先祖ではありません。ご先祖皆さんのいわば『化身』ですね。どちらかというと仏様に近い存在です。山頂に鐘撞堂かねつきどうがありますが、そこまで行く途中の道に小さなお地蔵様がおられるはずです」

「お師匠、どんなお地蔵様?」

「とても変わった容姿のお地蔵様だと浴衣の女の子は言っておられる。見れば分かる、ということだろう。そしてそのお地蔵様にお餅を二段重ねてお供えして欲しいと言っておられる」

「お餅?」

「うん。大福でも草餅でもいい。鈴本亭で買って行きなさい」

「今日じゃないとダメなの?」

「今日、と言っておられる。それと、わたしには2人が行っている間、ご本尊の前でお経を上げ続けるようにきつく申しつけられた」

「え」

「多分、何か特別なことが起こるのだろう。危険なことでないことを願うのだが・・・」

「そっか。分かった。行ってくるよ」

「うん。熱中症にも気をつけて。矢沢さんのこともきちんと気を配って差し上げなさい。矢沢さん、突然のお告げで炎天下大変とは思いますが」

「いえ、わたしこそお嬢さんまで巻き込んでしまって。本当にありがとうございます」


電車に乗る前に咲蓮寺御用達の鈴本亭で買った豆大福と草餅をぷらぷらと揺らしながら山道を登る。


「矢沢さん、大丈夫ですか?」

「ええ。まだこれくらいなら」

「冷たいお茶を水筒にいっぱい淹れてきましたから、こまめに休憩取りながら登りましょう」


幸いなことに舗装された道路が山頂まで続いている。鐘撞堂のある山頂は展望スペースとなっており、売店もあるドライブコースだ。

その舗装道路沿いに小さなお堂ががいくつもある。お堂の中にはお地蔵様やお不動様、観音様がまつられている。

わたしと矢沢さんはそれらの仏様がたにお参りしながら頂上目指して歩いて行った。

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