第185話 夏だよ(その5)
バス乗員の約半分が外国人観光客だ。近年増えている、とは聞いたけれども、ここまで多いとは思わなかった。アジア欧米の方問わず、人種様々のこの人たちは出発地点だった。ホテルを拠点に県内や近県の主に山岳や海などの自然を回るプランを立てているようだ。地元民のわたしたちが便乗させて貰っている形だ。
ところでわたしの隣の座席はちづちゃんだ。前日、
「もよちゃんの隣の席、死守するから」
と行った時は、可愛らしい冗談ぐらいに受けてたけど、今朝の目は本気だった。
奈月さんは牧田さんの隣。通路挟んだ隣のアジア系の女性から牧田さんが英語で語り掛けられ、ソツなく対応した。
「おー、牧田さん、才女だねえ」
「そんな・・・奈月さんこそ、生徒会長なんてすごいじゃないですか」
「いや、わたしはアウトローだから。そうやって居場所を確保しないと居づらくて。ねえ、そう思うでしょ? 大志くん」
突然振られ、空くんと隣同士で話が盛り上がっていた大志くんは、
「え?何がですか?」
と訊き返す。
「わたしが学校に居づらい、って話だよ」
「何言ってんですか、奈月さん。その日の気分で始業のチャイムの音を変えたりして、まるで我が家みたいにしてるじゃないですか」
「え? そんなことできるんですか?」
学人くんがびっくりした声を上げると、奈月さんがにやにやして答える。
「うん。5種類の音色から選べて、投稿したらわたしがポチっ、と押してセットするんだ。だって、わたし会長だもん」
「この間なんか、朝から夕暮れの時みたいなメロディーのやつかけてたじゃないですか」
「哀愁があっていいでしょ」
うーん。横山高校、楽しそうだな。
「うちはそういうのないからなあ」
空くんがしみじみ言うと、大志くんがすかさず返す。
「もよりさんが会長になってたらそういうのやったでしょ?」
「いえいえ。わたしはとても会長の器なんかじゃなかった、ってことで。でも、奈月さん、自由ですねえ」
「わたしから自由を取ったら何も残らないかもしれない」
「うちの会長は真逆だもんね」
「あれ、学人くん、それって片貝会長の悪口?」
「いえいえ・・・そんなつもりは」
「でも、片貝さんとか関係なく、”自由” の反義語ってなんだろうね?」
空くんがうまくはぐらかしてくれた。
「んーと、”不自由”?」
「ちがーう」
ジローくんの答えに奈月さんが、×を出す。
「じゃあ、”束縛”?」
「それもなんかしっくりこないね」
学人くんの答えも奈月さんは却下。
”支配”、”強制”、も今いち。
「じゃあ、自由の同義語から考えていけばいいんじゃない?」
ちづちゃんの提案にみんななずく。
「”自由”、ってつまり奈月さんみたいな状態ってことだよね」
「うん」
「えーと・・・”わがまま”?」
「なんだとー!」
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