第144話 冬に走る(その1)
「おー」
土曜の朝、起きたらやたら暖かかった。
日差しも冬のそれではない。わたしたちの地方には珍しく、まだ冬の最後のこの時期に、雲が切れていた。
「もより、雪が溶けてるぞ」
お師匠の言葉にシャッ、とカーテンを開けると昨日まで10cmほど積もっていた雪がほぼ溶けてアスファルトがきれいに顔を出している。
「走れるんじゃないか?」
お師匠がわたしの気持ちを察して先回りして口に出してくれた。
「うん」
一言答えてから遠慮がちに追加してみる。
「走ってきても、いい・・・?」
お師匠が、いいぞ、と頷くとわたしは早速ストレッチを始める。
ここ数年間、必ずやってきた儀式にもにた作業。はやる心を抑え、走るためにまずストレッチを10分ほど。これだけだとパフォーマンスが落ちるので、ストレッチの後には体幹をぴしっ、とさせる内容の筋力トレーニングをやはり10分ほど。
「え・・・と、今日は月参りは?」
おそるおそるお師匠に訊くと、
「今日はない。明日頼む」
と、簡潔に答えてくれる。
「じゃあ、行ってくるね」
脱衣場に行って服を脱ぎ、ランニング用のTシャツ、タイツとパンツを履く。さすがにこれでは寒いので、ウインドブレーカーを上に着て、玄関でローテーションのシューズを履く。人差し指と親指でつまんできっちりと紐を締め、心地よいフィット感で馴染ませる。
「久しぶりだね」
わたしはシューズやアスファルトやランニングに関わるものすべてに懐かしさを込めて語り掛ける。
「よっし。行こう!」
すっ、すっ、と体に染み込んだリズムでお尻の付け根あたりの筋肉を上手に使い、スムースにピッチ走法の水平移動を始めた。
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