第141話 帰宅部の実態(その4)

「みなさん、今日は社会勉強というか探偵の仕事も将来の職業として選択肢に加えていただける、ということで。どうぞ、何でも質問してください」

「あの、まず、ジローくんがここでしてる仕事って何ですか?」


 石田さんとジローくんが顔を見合わせる。石田さんのどうぞ、という合図というか許可によってジローくんが話し始める。


「えっと、まあ、雑談というかおしゃべりというか。石田さんに学校の話を色々としてあげてる、って感じかな」

「え?それが仕事?」

「うん」


 学人くんは目を丸くしている。


「ええ、ジローくんの情報は大変貴重です。何しろ生で最近の高校生の事情を聞くことができるんですから」

「僕は今時の高校生じゃないかもしれませんけどね」


 空くんが怪訝そうに訊く。


「でも、それって何の役に立つんですか?」


 石田さんはにこりとして答えてくれる。


「みなさん。探偵というのは究極の情報産業であり、且つ、究極のサービス業でもあると私は自負しています。情報産業、というと皆さん真っ先にgoogleやSNSなんかの大企業を想像されるんじゃないですか?」


 皆、こくっ、と頷く。


「そうですね。もちろん、情報量の多さや多様性、という意味ではそうかもしれません。ですが、本当に切羽詰まった、切実に欲しい情報って、スマホやインターネットから得ることができますか?たとえば・・・」


 石田さんは室内をくるくると見回す。


「・・・たとえば、さっき使ったあのティーポットが壊れたとします。えーと、千鶴さん」


 うわ、みんなの会話だけでもう名前を把握してる。


「千鶴さんはさっき飲んでくださった紅茶、いかがでしたか?」

「はい。えーと・・・何か柔らかい味というか優しい味というか。とてもおいしかったです」

「ありがとうございます。千鶴さんはとても繊細な感性を持っておられる。実はあの紅茶の風味はあのティーポットでしか出せません。私の紅茶遍歴の中で絞り込んでいった結果、このティーポットが残りました。かけがえの無いもの、とも言えるかもしれません。万一壊れたらどうやって同じものを探しますか?えー、空さん!」


 あ、すごい。社員であるジローくんは、”ジローくん”、だけれども、同じ高校生とはいえ、お客である空くんのことは、”空さん”、って呼んでる。多分これが本当のプロフェッショナルなんだろうな。”空さん”、はちょっと思案する。


「うーん。まずはティーポットのメーカーを確認しますよね。それから、もし製品名とかシリアルナンバーみたいなものがあればそれから辿っていくか。その時にはまずはインターネットをとりあえず使いますね」

「確かに。非常に理路整然とした対応です。空さんはとてもクレバーな方だ、そう思います。ですが、このティーポットには・・・」


 石田さんは立ち上がり、ティーポットを取って来る。


「見てください。このティーポットは、純白で、デザインも刻印も、文字も、何も書かれていません。形もごくありふれたもので、インターネットで検索しようにもティーポットの特徴を入力して検索する術もありません。では、学人さん!」


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