護衛ギルド選抜戦6

 バランスを崩したゲインは空中で体を回転させ、何事もなかったかのように地面に着地する。


「まだ初手の状態でタフネスを惜しげもなく相手に手の内を晒す。その大胆さはいい……だが! 時間を稼ぎたい思惑が見え見えだ! 5分もいらない。3分で終わらせてやろう……俺の固有スキル『旭日昇天』でな!!」


 すると次の瞬間。ゲインの体から出た凄まじいほどの赤いオーラが天へと昇っていた。


 突如現れたゲインの体の変化に、ダイロスも警戒したように燃え盛る大剣の先を彼に向ける。


「これが俺の固有スキル『旭日昇天』その名の通り。朝日が勢い良く天に昇るように、己の能力を一気に最大まで大幅に強化するが、頂点に達した後は徐々に能力が低下し、最後は最低値を記録する。この体から滲み出るオーラは血と同じ赤――己の魂を燃やすように辺りに闘気を振り撒き、やがて灰となる。この大剣も俺の強すぎる俺の力を全力で出し切る為のものだ。後はお前が……」


 そこまで口にしたゲインが突如ダイロス目掛けて突進してくる。構えて即座に振り抜いた炎を纏う大剣をダイロスも己の愛剣で受け止めた。


 互いの大剣の発する炎が円柱のように空へと吹き上がる。その光景は、まるでお互いの気迫が炎となりぶつかり合っているようだ――。  


「お前が俺の猛攻に耐えられるか! 俺が燃え尽きるのが先か! それがこの勝負を左右する!!」


 叫んだゲインが更に力を込めると、重鎧を着ていたダイロスの体が意図も容易く吹き飛ばされ、ステージ上に大きな溝を作っていく。勢いが次第に弱まり止まると、ダイロスは何事もなかったかのようにその場でゆっくりと立ち上がる。


 彼のHPゲージも然程大きく減っていない。それが気に食わなかったのか、ゲインが直ぐ様地面を蹴ってダイロスへと襲い掛かり、その攻撃をダイロスはギリギリで体を横にしてかわすと、攻撃を見切られたゲインは目にも留まらぬ早業で炎を噴く大剣で身を守っているダイロスを斬り付けていく。


 彼が革鎧という薄く軽い防具を選んでいるのは、防御よりも攻撃に重きを置く戦闘スタイルだからこそ、ダイロスよりも必然的に攻撃の手数が多くなっているのだ。


 基本は一撃で敵を撃破する戦闘スタイルのダイロスは、攻撃を放つと5分というリキャストタイム分のアドバンテージを相手に与えてしまう。基本スキルは『タフネス』を選択している以上。『スイフト』を選択している者に手数とスピードでは敵わない。その為、重鎧を装備して守りを強固にしなければ、確実に勝負を決めるのは難しい。


 それに不滅の刃を持つ『炎剣デュランダル』は通常の戦闘で敵の防御を抜いて粉砕することができるが、今回の様に同じトレジャーアイテム装備持ちとの戦闘では、そういうわけにもいかないのも事実。


 現に装備が全体的に重いダイロスより、スイフトを発動させながら若干でも軽い防具を身に付けているゲインの方が手数で有利になっているのは間違いないだろう。


 フリーダムでは脳から発せられる電気信号をハードがキャッチしてそのまま、ヴァーチャル世界の体であるアバターへと繋げている。つまり、脳の反応速度が速い者がこの世界では最も強いプレイヤーとなる。


 ゲインの振るう大剣をギリギリのタイミングで見切りながら、微かな動作だけでやり過ごしていくダイロス。


 兜で表情は見えないものの、その動作から彼が然程焦っていないように思えた。


「オラオラオラオラオラオラオラオラー!!」

「――くッ!!」


 大剣の柄で受けると勢いで押し返されるほどの剣戟を止めどなく打ち出される剣戟を同じ大剣で受けつつ、防戦一方の状態が続く。だが、体力を消耗しない最低限の戦闘に切り替え、反撃の時を狙っているような瞳が、兜の隙間から鋭い眼光を飛ばしている。


 ゲインの全身から放出されている赤いオーラが次第に小さくなっていく。そして微かな輝きと共に、今度は黄色いオーラが全身から勢い良く吹き出す。  

 オーラが黄色に変わったと同時にその猛攻は更に激しさを増す。しかし、その威力は先程までのいつ大剣を弾かれるかというほどの凄まじさはない。どうやら、彼の固有スキル『旭日昇天』の継続時間はそれほど長くはない様だ――。


 オーラが黄色になったからか、元々この戦法でいく予定だったのか、ゲインはダイロスの大剣の腹を蹴ると一気に距離を取った。一瞬で間合いを取ったかと思うと、今度は上段に大剣を構えてその剣先をダイロスに向けてそのまま突き出して襲い掛かる。


 ダイロスは大剣を横に構えて彼の大剣を迎撃する。互いの刃が火花を散らしながら交差し、鍔まできたところでダイロスの方が勢いで負け、勢いに押されるように体が半回転して止まる。


 彼の横を通過するようにゲインが駆け抜けると身を翻し、すぐに両者ともに大剣を構え直した。

 どうやら、動作のある攻撃だとまだゲインの方が力では上のようだ。彼の急な力押しからの動きのある戦法への変更は、焦りではなく元から組み立てられたものによるものだったらしい……。


「はあああああああああああああッ!!」


 中段に構えた大剣を思い切り振り抜くと、受け止めた大剣ごとダイロスの体を押し切る。


 彼が地面を踏ん張って勢いを殺しきったのも束の間。すぐに上段からゲインの振り上げた大剣が襲い掛かり、咄嗟にダイロスも大剣で防ぐ。

 その直後、攻撃の勢いで受け止めたダイロスの足元の地面に大きなクレータができる。直接ダメージを受けたわけでもないのにも関わらず、ダイロスのHPゲージが大きく減少する。


 まあ、それだけ攻撃力の差があるということなのだろうが、受け止めただけでHPにダメージを受けるのはあまり例がない。

 っと振り下ろした大剣を体に引き戻し、ゲインは地面に着地したと同時に大剣をダイロスの胸元目掛けて突き出す。ダイロスが既の所で体を捻ってかわすと、直ぐ様、刃を返して真横に斬り付ける。


 だが、その攻撃は咄嗟に刃の間に大剣を地面に突き立てて防ぐ。

 振り切られた剣圧に押され、足元に大剣を突き立て地面に線を引きながらダイロスはステージの端まで追いやられた。


「やるな……だが!」

「――これで最後だ!!」

「ああ、これで最後だ……」


 疾走してくるゲインが大剣を真横から振り抜く。口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべたダイロスの体が赤く輝き、同じく大剣を真横から振り抜く。


 両者の大剣がガギンッ!!と鈍い音を立てると、今まで押し切れていたゲインの攻撃が弾かれ大きく体勢を崩す。

 その隙をダイロスは見逃さなかった。彼の大剣を弾いた直後、己の大剣を体に引き寄せ勢い良く彼に目掛けて突き出す。

  

「――終わりだ!!」


 彼の大剣の剣先が自分に向かってくるのを見たゲインは、体制が崩れた状態で無理やり体を捻って握っていた大剣ダイロスに目掛けて突き出す。


「くッ!! うおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 渾身の一撃を放った両者の大剣が隣り合うように並んで止まった。

 互いの大剣から炎が消え、ダイロスの大剣は見事革鎧の間からゲインの鍛えられた腹筋の中央を深く貫いていた。しかし、ゲインの放った一撃はダイロスの漆黒の重鎧を貫いたが先端だけしか彼の体には達していない。


 ダイロスのHPが微かに減少した直後、ゲインのHPが凄まじい勢いで減少し、彼の体から立ち上っていたオーラが白く小さくなって消えたのと同時に、HP残量『1』を残し彼は膝を地面に突く。


「……ぐふぅッ!! そうか……もう。5分経ってたのか……不覚だぜ……リーダー。俺は……あんたの背中に……」


 ダイロスが彼の腹部に突き刺さった大剣を引き抜くと、ゲインの体は地面に力無く倒れた。  


 地面にうつ伏せに倒れる彼を見下ろしたダイロスが小さく呟く。


「――届いていた。お前の剣は確かに俺のここにな……お前は、俺が戦った中で最強の戦士だ……」


 腹部の鎧の欠けた部分を叩き、大剣を背中に背負い直すとその場をゆっくりと離れた。


 モニターに勝者が表示され、会場内に大きな歓声が上がる。ダイロスは自分に向けられる喝采を無視して倒れているリアンを抱き上げ、ステージを降りて控え室へと戻っていった。


【勝者『メルキュール』 次の対戦は『メルキュール』対『成仏善寺』なお、ギルド『メルキュール』は連戦の為、1時間のインターバルを取ります。ご了承下さい。】


 会場内にモニターの文字がリピートされ。次にモニターが【休憩1時間】という文字を大きく表示して、会場内の者達も続々と席を立って会場内の屋台へと向かって歩いていく。

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