作戦決行3

 エリエがその方向を見ると、そこには置いてきたはずのミレイニがケルベロスに乗って疾走する姿が飛び込んで来た。


「あのおバカ……待ってなさいって言ったのに!」


 不満を前面に押し出して歯を噛み締めながらも、エリエは向かってくる剣と盾を装備したスケルトンファイターや棍棒を持ったホブゴブリンを破竹の勢いで次々に撃破してミレイニの元に辿り着く。


 ミレイニはケルベロスの背に乗り。その後ろには炎帝レオネル、そしてもう一体は始めて見るモンスターだが、その姿はライオンの様にもジャガーの様にも見えるのだが、その二種類よりも体が明らかに大きく背中も毛深い。口には大きく鋭利な二本の牙が突き出ている。それはまるで、現実では大昔に絶滅したサーベルタイガーの様な――。


 血相を変えて向かってくるエリエの姿を見つけ、ミレイニが嬉しそうに手を振る。


「エリエー。助けに来てあげたし~」

「…………ブチッ!」


 エリエの方から血管の切れる音が聞こえて来たと思うと、そこにはすでにエリエの姿はなかった。その直後、ミレイニの視界の前にエリエが現れる。


 顔を引き攣らせると、次の瞬間には満面の笑みで微笑んでミレイニの頬を摘む。


「……どうして、待ってるはずのあんたここに居るのかしら?」

「いはい! いはい! ほっへうえらないえほひいひ~」


 笑いながら怒っているエリエはミレイニの頬を引っ張り続けると、ミレイニは両手をバタバタと振っている。


 そんな中、エリエは重要なことを思い出す。

    

「そう言えば星はどうしたのよ! もしかして一緒に来てはぐれたとかじゃないでしょうね!」

「はあす、はあすはら、はあしてほしいひ~」


 頬を引っ張っているミレイニがエリエの両腕を懸命に叩く。


 眉を吊り上げたままミレイニの頬から手を放すと、ミレイニは引っ張られた頬を撫でながら話し始めた。


「……星ならきっと街の門の所だし。エリザベスに乗って来たから追い付けないと思って追いかけるのを止めたと思うし」


 その直後、ピクッとエリエの眉が微かに動く。


「……追いかけるのを止めたと思う? 実際はどうなのよ!」 

「あっ! は、はな……鼻を引っ張らないでほしいし~」


 両手で頬を押さえてガードしていたミレイニの鼻を引っ張っていると、地面にいたジャガーの様な獣系モンスターが吼える。


 エリエを真っ直ぐに睨みつける威嚇の視線に、珍しくエリエの背筋に悪寒が走った。


「ちょっと、あのモンスターはなんなのよ。説明しなさいよ」

「ん? ああ、あれは古代獣王サーベルタイガーのシャルルだし」

「サーベルタイガーなのは見れば何となく分かるわよ! てか、すごくこっちを睨んでうなってるんだけど……」


 今にも噛み付きそうな勢いでグルルルルッと低いうなり声で威嚇するサーベルタイガーに、さすがのエリエも顔を引き攣らせてたじろぐ。まあ、理由はエリエがミレイニに危害を加えていると考えたシャルルの、主人を守ろうとする防衛行動なのだろうが……。


 っと、のんきにそんな話をしている2人の所に大量の黒い剣と盾を装備したリザードアーマー達が続々と集まってくる。どうやら、小虎が強過ぎる為に逃げて来たものが弱そうな方へと流れてきた――と言ったところだろう。


 真剣な面持ちに切り替わったエリエが、ケルベロスの背中から地面に飛び降りレイピアを構える。 

 緊迫した雰囲気が流れていると、その空気を吹き飛ばす様にミレイニの幼さの残る声が辺りに響く。


「今だし! アレキサンダー、エリザベス焼き尽くしてやるし!」


 ――ガオオオオオオオオオオオッ!!


 主人の掛け声に素直に答えアレキサンダーが炎を吹き出し、それに続くようにエリザベスの3つの頭から同時に炎が吐き出される。


 炎はあっという間に辺りにいたモンスターを包み込み撃破していく。だがその直後、上機嫌に胸を張って「ざまあみろだし!」と言ったミレイニの耳に、エリエの怒鳴り声が飛び込んで来た。  

 

「ちょっと! 火を出すなら出すって最初に言いなさいよ! 髪の毛が少し焼けちゃったでしょ!」

「あはははっ! なんだしその頭。バカみたいだし!」


 頭の上部が炎で焼かれチリチリになっているエリエの頭を指差して、ミレイニがお腹を抱えて笑い出す。


 エリエは今にも襲い掛かりたい衝動を抑え、前を向き直すと敵を見据える。

 強力なエリザベス達の攻撃でも全く数が減らないモンスターの集団に、どう対処すべきなのかエリエも攻めあぐねていた。


 

 デイビッドとカレンが相手にしているミノタウロスは、斧と槍を合体させた様な武器ハルバードを手にしていて、その攻撃範囲の広さになかなか思うように攻撃できなかった。


 自分の頭上でハルバードをブンブンと振り回すミノタウロス。その巨体が対峙する2人を見下ろし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべている。


 そこへ刀を構えたデイビッドが斬り掛かる。


「はあああああああッ!!」


 向かってくるデイビッドに対して、ミノタウロスのハルバードが振り抜かれた。


 ――ブロオオオオオオオオオッ!!


 空気を切り裂き向かってくるハルバードの刃を、咄嗟に刀身でガードしたデイビッドが軽々と飛ばされてしまう。直ぐ様、ハルバードを振り抜いてできた隙を突いて、カレンがミノタウロス目掛けて走り出す。


 だが、ミノタウロスはそれを読んでいたかのように右足を大きく突き上げ、地面を大きく踏みつける。

 巨大な足で踏み付けられた地面が割れたかと思うほどに土埃が上がり、巻き上げられた土砂と風圧でカレンの体を押し戻す。


 ミノタウロスが天を仰いで咆哮を上げると、今度はデイビッドが斬り掛かった。


「喰らえ! アマテラス!!」


 デイビッドの持つ刀の刀身から赤黒い炎が地面を走り、ミノタウロスへと一直線に向かっていく。しかし、その攻撃が当たる前にミノタウロスが地面を踏み荒らし、巻き起こった土煙で掻き消されてしまう。


 炎霊刀 正宗の武器スキル『アマテラス』は敵の攻撃をも飲み込んで威力を上げていく能力を持つのだが、技ではないものは飲み込めずダメージ総数値以上の土砂で掻き消されてしまったのだ。


「――くっ! アマテラスでもダメなのか」


 地面を踏む荒らしているミノタウロスを見上げ、悔しそうにデイビッドは唇を噛んでいる。


 その刹那。巻き上げられていた砂煙の中からカレンが跳び出す。

 一瞬の間にミノタウロスの眼前に現れ、カレンが拳を握り締めると左頬目掛け勢い良く振り抜く。


「吹っ飛べえええええええッ!!」


 攻撃を受けたミノタウロスの巨体が揺らめき体勢を崩すのを見て、カレンが得意げな表情で控えめにガッツポーズを決める。


 っとその直後、ミノタウロスの赤い瞳が見開き、その巨体が想像もできないほど機敏に動くと、空中にいるカレン目掛けて得物を振り抜いた。


「……なっ!?」


 自分の5倍ほどもあるミノタウロスの予想外な機敏な動きに、対応できずまともに攻撃を受けてしまう。

 辛うじてガードはしたものの、ハルバードの柄の部分に吹き飛ばされ、勢い良く地面に体を強く叩き付けられてしまった。 


 体勢を立て直したミノタウロスが咆哮を上げ、追い打ちを掛けるように得物を頭上に掲げる。


「まずい……」


 デイビッドは直ぐ様、地面に倒れているカレンの元に駆け出す。


 ハルバードの刃がカレンに届く既の所で、デイビッドがカレンを抱きかかえて地面を転がる。

 ミノタウロスの攻撃が地面に辺り砂埃が巻き上げられ、それに乗じてデイビッドが木の陰に一時的に身を隠した。

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