第78話・告白×美月
最終審査最初の挑戦を勤めた杏子の告白が終わり、花嫁選抜コンテストはいよいよ次の挑戦者の出番を迎えようとしていた。
「次は私が行きますね」
またお互いに顔を見合わせる事になるかと思ったけど、意外にそんな事も無く次の挑戦者が決まった。
告白審査の二番手に名乗りを上げたのは、マーメイドラインドレスに身を包んだ美月さんだ。
モデルの様にスレンダーで豊満なバストを持つ美月さんにマーメイドドレスは非常に良く似合っていて、まるで
「では最終審査二人目、如月さんどうぞ!」
渡の言葉を聞いた美月さんはマイク前までやって来ると、その前ですうっと息を吸い込む動作をしてからゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「私の好きな人とは、小学校二年生の時に出会いました。ほんの二週間程の間でしたが、その彼とは一緒に楽しく遊びました。彼は何もなかった私に沢山の楽しい事を教えてくれました。それが今の私の夢に繋がり、こうして私がここに居る理由にもなっています」
美月さんの意中の相手が、幼い頃に出会った人物だというのは本人から聞いている。しかしそれが小学校二年生の時とは知らなかった。
「私は彼と楽しい二週間を過ごした後、その彼と長い間会う事はありませんでした。でも去年、私は偶然にも彼と再び出会う事ができました。でも彼は私の事を覚えていなかったですけどね……」
そう言って寂しそうな表情を浮かべる美月さん。
どこの誰かは知らないけど、こんな美人にここまで想われているのに勿体ない。俺と立場を代わってほしいくらいだ。
それにしても、こんな美人に長年想われているのに、相手はまったくそれに気付いていないとか、世の中ってのはそう都合良く出来ていないという事の表れだろう。
「彼には今の生活と築いてきた環境があります。だから私は、彼に昔の事を無理に思い出してもらおうとは思っていません」
これも前に美月さんから聞いた内容だが、彼女の思慮深さには相変わらず恐れ入る。
だけど俺は、美月さん自身の気持ちも大事にしてほしいと少なからず思っていた。だって長い間想っていた人に再会できたんだから、少しくらい我がままになっても良いと思うんだ。
「でも、やっぱり寂しいと思う自分が居るのも確かなんです。だから私は……」
まるで心の内にある想いを膨らませているかの様に瞳を閉じ、穏やかな微笑みを浮かべる美月さん。
「……だから私は、もう少しだけ我がままになってみようと思います。私との思い出に気付いてもらえるように。そして初恋の彼に全てを思い出してもらえたら、その時はきっと、私のこの想いを伝えます」
そう言ってから深く頭を下げる美月さん。するとホール内に居る人達から、惜しみない拍手が送られた。
素晴らしい告白だったと思う。美月さんの想い人に対する真剣で誠実な想いがひしひしと伝わって来た。誰かを想う心というのが、こんなにも胸を打つものなのかと感動すら覚えたくらいだ。
下げた頭をゆっくりと上げた美月さんの表情はとってもすっきりした感じに見え、清々しささえ感じる。
そんな美月さんが俺の方を見て柔和に微笑んだ。俺はそんな美月さんを見て、その勇気ある告白への賛辞の意味を込めて誰よりも大きな拍手を送った。
それにしても、やはり美月さんにここまで想われている相手が羨ましい。俺にも小さな時に出会った可愛い女子が、美月さんみたいに俺を想ってくれてたりしないかなあ――などと、そんな妄想じみたアホな事を考えてしまう。
でもそういえば、確か小学校二年生の時に田舎のじいちゃんの家に二週間くらい泊まった事があったけど、その時に近所に住んでるって女子と一緒に遊んだような記憶がある。
しかしかなり昔の事なので、その記憶はまるで霞がかかったようになっていて、はっきりと思い出す事ができない。まあ何にしても、美月さんの事とはまったく関係無いだろうけど。
こうして美月さんの素晴らしい告白タイムは終わり、三人目の告白タイムへと移って行くのだった。
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