第百十六話:怪物の咆哮

『ニーナ、と言ったね?』


 時間は少しばかり遡る。


 手汗を滲ませて握る銃把の矛先から、唐突に声が掛けられた。

 声の主は、金髪の、欧州の生まれと聞けば大勢が思い浮かぶイメージ像を抽出し体現したかのような男。自分に向けて9ミリ口径の昏い銃口を突き付け、こう着状態を生じさせている。

 死なばもろとも、『撃ち合う』覚悟はとうに出来ていたのだが、ニーナはそれを拓二に遮られていた。


 彼の名前はマクシミリアン。拓二が敵として標的にしている者の一人。

 つまりは、自分が討つべき敵であった。


 そんな彼は、目の前で均衡を繰り広げる拓二とジェウロという男の攻防など、まるで気にもしてないかのような口振りで話しかけてきた。


 意図は不明。余裕を見せたかったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 ジェウロは、思っていた通り相当の手練だ。年若い拓二にやや分があるとは言え、それでも万一やられはしないかと気が気でなかったため、最初は無視を決め込んでいた。


『ニーナ、君の存在は我がネブリナも把握しきれてない。君は一体、何の目的があってここにいるんだい?』

『…………』

。少なくとも火器戦闘の扱いは遥かに長けているはずだ。僕には分かる、頭のてっぺんからつま先まで、兵士としての血潮の滾りが目に見えるようだよ』


 ジェウロに向けて、鋭い蹴打が放たれた。それを身を大きく横に振って、必死に躱す。


 が、マクシミリアンは気さくに話す口を動かすのをやめない。素朴な疑問を母親にぶつける子供のように。

 仮にも部下であるジェウロのことを、あまり目に留めていないようだった。


『そんな優秀な君は、どうしてタクジに従うんだろう? タクジとの間に何があったんだい?』


 読めない男だ。

 ニーナは警戒を絶やさない。


 尋ねるその内容が、果たして彼にとって何の意味があるのか。しかし今の逼迫した状況以上に重要なことであるかのように振る舞うその様は、まるで不気味だった。


 無視するのは容易い。普通は無視するだろう。

 しかしそれこそが逆に、マクシミリアンにとって思う壺であるのかもしれない。


 どちらを取っても、彼の思い通りな気がしてならない。こんな取るに足らないことでも、選ばないことは相手の意図を推し量ろうとする疑心を渦巻かせる。

 気の緩めないこの場において、その中途半端は迷いにすぎない。


『ご主人は……どこまでも、孤独だったから』


 結局ニーナは、端的にそう答えた。勿論、警戒を怠ることなく。

 答えるか答えないかで言えば、いっそ答えてしまった方が、いざ動く時に邪魔にならないと考えてのことだった。


『誰よりも孤独で……誰よりも孤独に親しい、孤独に寄り添う王。味方のいない私を理解して、私に広い世界を見せてくれるご主人は……ご主人こそが今や、私にとって「世界」そのものなんだ』


 が、少しばかり話す口に熱が籠った。

 ニーナにしては珍しいことで、マクシミリアンに当てられたか、拓二のことを語るニーナはむしろ、さらに踏み入って話したそうでもあった。


『そんなご主人に惹かれ、付き従う者なら私の他にもいる。そして、ご主人の役に立つために死ぬことも厭わない者も……ね』


 そしてこの時、無意識にも。

 死ぬことを厭わないと口にした瞬間のニーナの口元には一瞬、自己の回想を映す淡い笑みが浮かんだ。



◆◆◆



 ────自分達を『組織』とするべきか、それとも『運動』とするべきか。

『外の世界』では、そんな議論が大真面目に交わされているのだと、同期の一兵卒から聞いたことがある。


 そんな話を聞いた時は、無意識の内に、落胆のため息を吐いてしまっていた。

 蝶よ花よと煌びやかな外の世界を生きる人間は、頭の中も花畑なのかと。


 自分に言わせればなんともくだらない。そんな取るに足らないことを、外の偉い人間達が輪になって話し合っているのかと思うと。


 ────塀と金網で囲われた狭い『世界』。

 今年で産まれて十四になるが(教わった生まれ年が偽りでなければ。自分でも気付かぬ内に自身の年齢を詐称していたということがままあるのだ)、生まれてこのかた、外を見たことが無い。

 宿舎と食堂、そして射撃訓練場だけが自分が自由に歩ける場所だった。命令無く少しでもその通り道からはみ出せば、それと見合わない過酷な罰と叱咤が飛んでくる。

 まさに監獄。しかし、監獄だなどという窮屈な意識は無かった。

 水槽に飼われて泳ぐ魚が、海を知ることの無いように。そこにしか居場所は無かったし、自分の世界の狭さを、何かと比較して理解することも無かったのだ。


 娯楽も無い、訓練だけの日々。

 銃を構え、引き金を引き、銃口を下ろす。


 Up,Shot,Down.Up,Shot,Down────

 寝て、起きて、走って、撃って、食べて、そして寝る。毎日毎日、その繰り返し。


 感情を捨てれば、苦に思わなくなった。

 自分が生きていると思わなければ、感情も忘れていられた。

 いつも死んでいるように、生きていた。

 そんな自分達が────自分が何者かなど、決まっている。


 ただの使い捨ての兵隊だ。


 殺し方だけを学び、閉じられた一生を過ごす兵隊に、崇高な目的ある組織の一員としての自負も無ければ、父と崇める運動家の下に集う一|同志(したっぱ)という矜持もあるはずも無い。

 滅多に食べられないアイスクリームを二人で分け合った同期の友人が、初の戦線で爆弾を抱えて飛び込む役を担い、笑って行ってしまったのを見送った。

 戦争孤児という自分の境遇と似た幼馴染が、上官の暴行を受けて死んだということを、翌朝に報告を受けて知った。


 命は、こうも軽い。

 組織か、はたまた運動か。何を目的としてそうするのか、何の為に生きているのか。

 そんな問い掛けは本当に無意味だ。〝なんせ自分達でさえその実、よく分かってないのだから〟。


 ……映像に砂嵐が混ざるブラウン管と、つまみを回しても音が遠いおさがりのラジオだけが、そんな自分と外の世界を繋げる唯一の手段だった。

 そして断片としてある知識や情報から、今なお見ぬ外の世界を夢想し、想像力の赴くままに眠りに就く日課を続けた。


 果たしてその延長だったのか、それともやはり、遂に堪え切れなくなったのか。

 彼女────『番号3005』は、この監獄のような小さな『世界』から脱走を図った。


 脱走は、失敗するはずだった。


 食事の昼休み、僅かに監視の目が緩む時を狙ってのことだったが、それで脱出が叶うなら苦労は無い。

 訓練において成績優秀だった彼女────『番号3005』も、武器も没収されてしまえばただの少女だ。脱出手段の幅は制限され、その可能性は萎む。

 足が銃弾を引き離せるはずもない。逃げ出した者、使えないと見なされた者が処分され死ぬのは一瞬だ。彼女自身、それを幾度となく見てきた。

 そのお鉢がとうとうこちらに回ってきた。たったそれだけのこと。


 そもそも、仮に脱走が出来たとしても、外にアテがあるわけでもない。彼女を手引きし、協力する者などいない。

 地平線まで民家一つ無い荒野が続き、おまけに時期的に雪が薄く広く積もりさえするこの地帯で、平穏無事を得られるとは到底思えなかった。

『番号3005』は自分の行動の無意味さ、計画の荒唐無稽さを正しく理解していた。成功する方が奇跡的とも言えることも分かっていた。


 しかしそれでも、『番号3005』は脱走を断行した。

 己の内の諦観を反芻し、それで苦悩しながら────それでもやり遂げなくてはならない、と。

 名も無き兵の役割に徹し、生きる意味を諦めてきた彼女が、それでも外に『何か』を望み縋った。


『こ、れは……』


 しかし────神を信じさせられなかった彼女の意に反して。

 



 一体何の気まぐれか、『番号3005』は、今まで生きてきた『世界』から解放されたのだ。



「この子です、ご主人様! 間違いありません!」

「ああ、ご苦労。……もういいから、お前は引っ込んでろ、まだ死にたくなかったらな」

「は、はいっ! 五月蠅くしてごめんなさいご主人様!」


 ────この、目の前の少年の手によって。


『あ、貴方は……一体……』

『────世界は、お前が思うように小さくはない』


 雪面に蛇のようにのたうつ火の手。

 轟々と燃えて昇る噴煙が、この時期訪れる寒波をもうもうと焦がす。襲撃の激しさを物語る数々の悲鳴と嗚咽が、後ろ遠くから聞こえた。


 へたり込む『番号3005』と視線を合わせるようにしゃがみ込み、彼は顔を覗き込んだ。

 アジア系の顔つきであることは知識から判断出来たが、明らかに自分達とは気色が違う。

 異邦人である。しかしそれ以外のことは何も分からなかった。というよりも、異国の者を生まれて初めて見た。

『知らない』ということを、颯爽と現れたこの少年は『番号3005』の眼前に突き付けていた。


『さぞ孤独だっただろう、寂しかっただろう。……そしてこれから、この世界の大きさに恐怖を感じることだろう』

『……恐怖? ハハッ、兵隊に恐怖なんてあるもんか!! 私は恐れない! これから自由になる私に……強い私が、今度はそんな感情なんかに縛られるもんか!!』

『強さと孤独は相反しない。孤独は恐れを生み……そして恐れは理解を生む』


 それは存外、穏やかな声だった。

 耳触りの良く、いつの間にかずっと聞いていたいという気分にさせられていることに気付く。不思議と、そして空恐ろしいことに、彼の存在そのものが危険だと微塵も思えなかったのだ。


 誰かと話していて気が休まるということ。それもまた『番号3005』が知らなかったことだった。


『……お前のその孤独と寂しさを埋めることは、俺にも、誰にも叶わない。だが、理解を示し合うことは出来る……お前はもう一人じゃない。これからは、俺達と一緒だ』


 今まで知らなかった手の大きさが、人肌の温かさが、額に押し付けられた。

 くしゃくしゃと、前髪ごと雑に撫でられる。


『俺と来い。ちっぽけな仔犬に、世界の広さを教えてやろう』


 それが、今まで変わらなかった彼女の運命の分岐。


 この日を境に彼女は、『番号3005』という名前を捨てた。

 そして新たに『ニーナ』という名前を与えられ、受け入れたのは、それから少しした後のことだった。



◆◆◆



 釣り野伏せというのは、実は祈の提案したアイデアであった。

 このアイデアの成功には、『完全に負けたと思わせる敗走』をし、更に『追撃させるほど相手の判断力を落とす』ことにその肝がある。

 問題の囮部隊である「釣り」が、マクシミリアン自身であるという危ない橋をわざわざ渡ったのも、この作戦の成功確率を引き上げさせるための奇策であった。

 つまりはジェウロの事が無くても、マクシミリアンは初めから敗走の用意を整えており、むざむざと逃げ延びる算段だったのだ。ジェウロの反旗は流石に想定外だったが、結果として、より疑われにくい逃走理由が生まれた。


 ハイリスク・ハイリターン。一歩誤れば全てをフイにする賭けを────いや実際全てが最悪の形で終わりかけた賭けに、彼は乗ったのだ。

 そして、この賭けを実行するための第一前提として求められるのは実行部隊の錬度。

 以前のイギリス事件を通し、部隊の練度・戦闘力共に培われていた今のネブリナファミリー本部隊であれば、その水準に充分達していると判断してのことだった。


 現状の作戦経過は『悪くはない』、だが────マクシミリアンの表情は芳しくなかった。


『……やっぱり何か、おかしい』


 マクシミリアンの言葉の意味は、とある一つの不可解な点に向けられていた。


?』


 彼は現在ビルから離れた別の場所で、ビル全体と地下駐車場の光景を仕掛けてあるカメラ越しに俯瞰していた。

 そして様子の一部始終を見ていたが……この罠に掛かったのは拓二一人だけであった。今回の不穏因子、ニーナがいない。


 ニーナの存在は、ネブリナの力でも今日に至るまで知ることは叶わなかった。ジェウロの持つ軍人特有の空気感に似たものを、あの齢にして彼女は持っていた。

 あれ程までの隠し玉を、拓二は今日のために用意してきた。間違いなく、拓二の切り札は彼女そのものだ。

 その彼女の姿が確認出来ないとあれば……それは相当な脅威だ。会話をする中で、マクシミリアンはそう感じ取っていた。


『あの状況で、わざわざ二手に分かれる意味は……このことを見越して……いや違う。それよりも何か……もっと何かを、見落としているような……』


 相手が拓二だからこそ見逃せない、作為的な『何か』。

 ネブリナの誰もが、ここまでの作戦の成功を疑っていない。しかしマクシミリアンの勘だけは、その『何か』の存在に対して敏感に反応し、警鐘を鳴らしていた。


『……っ!?』


 そして────その勘は考え過ぎでなく、正確であったことを自ら証明することになる。


『ち……違う! こいつはタクジじゃない!! これは────』


 突然はっと声を上げ、中継画面を凝視する。

 マクシミリアンはここまで追いすがって来た尾行者そのものを改めてよく見た。すると、今まで見てきたものが何だったのかとばかりに彼の目には違うものが映っていた。

 わずかに映る手の甲の焼け具合や、よく見ると男にしては華奢な体躯。そしてやや身に余るぶかぶかの服。


 なまじフルフェイスのメットを被っているせいで、服装が彼のものであるせいで、ここまで分からなかった。

 その程度、いくらでも誤魔化しようがあるというのに。


 不可解な事に変わりはない。何の目的あってかはマクシミリアンでも分からない。

 しかし、今しがたマクシミリアンが気付いた違和感の正体は、紛れもない事実であった。


『────! 鹿……!!』


 格好を入れ替え────ニーナは、拓二を模した男装に扮していたのだ。



◆◆◆



『くっ……!』


 その頃、拓二……の格好に扮装したニーナは、追い詰められていた。


 逃げ場の無い地下駐車場。圧倒的多勢。そして桁違いの武装。

 どれを取っても、勝てる要素などまるで無い。精々が牽制しつつ始末されるまでの時間を稼ぐことぐらいしか出来ない。


 盲撃ちで一発撃ち込めば、数十発の弾丸が射線入り乱れて返ってくる。陰として身を潜ませているコンクリートの柱が脆く砕けていった。

 その破壊力たるや、抵抗などもはや無意味であることを残酷に突きつけていた。


『はあ、はあ……』


 自分は、ここで死ぬのだろう。

 頭、喉、胴、四肢────じきこの全身という全身に、幾百ものハチの巣の吹き抜けが出来上がるのだ。

 ニーナはこんな状況でも冷静に、己の身に迫る死を見つめ直した。あるいは、こんな状況だからこそ、だろうか。


 そして、死ぬことに関しては一向に構わないという答えに行き着く。

 恩義や忠誠は勿論のこと、そもそもそれ以前に今ここに自分が存在していることが拓二のおかげである。

 元々生きる価値も無かった自分に、生きる価値を教えてくれた。世界を広めてくれた。『本来存在しなかったもの』を存在させてくれた、主人の好き勝手に使い捨ててくれるのであれば、それでいい。

 そういうことから、それこそ彼のために死ぬことも厭わないのは、ごく自然ののことと言えた。


 ただ────


『……もう一度、ご主人とお話がしたかったな……』


 世間知らずな自分に、色んなことを教えてくれた。

 自分に多種多様の娯楽を与えてくれたりもしたが、それよりも何よりも、彼の話を、彼の声を聞くのがこの世で一番好きなことだった。

 ────どんな他愛のないことでもいい。あの仄かに冥く、安らかで心地良い声を、もう一度だけでも……。


 メットを脱ぎ捨て、ニーナはその顔を晒した。長かった髪は耳横に揃えるようにバッサリと断ち切られており、なるほど確かに、こうして見ると顔立ちの中性的な少年のようである。

 そして死ぬ間際、彼女が手を掛けた銃口の向く先が、押し寄せる敵部隊にではなく、自分の喉奥に差し込められようとした────


 刹那。



 甲高い轟音とともに、地上へのスロープを固く塞いでいた鎧戸が吹き飛んで来た。



『……はっ……?』


 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。

 口を開けていた矢先のことで、呆気に取られ、間抜けな顔で固まってしまったが、そのままうっかり引き金を引いてしまわなかっただけ上等だろう。

 だが今は、そんなことよりも────


『し、侵入者! 侵入者発見!!』

『っ、おい! 何だ、何者だ貴様は!!』

『落ち着け、ターゲットの応援の可能性がある! 要警戒!! まだ撃つなよ、狙撃用意だ!』


 ニーナは勿論のこと、ネブリナの想定外の事態であることは、俄かに止まる弾幕の音が証明していた。


 混乱の中、突如現れる一つの人影。細身の身体を黒い装束で包み、そのせいか駐車場の蛍光灯の光によってより深く濃く陰を落としている。

 部隊の数人の怒声に対し、沈黙を貫くその影は人間味が無く、そこにいるだけで不穏な雰囲気を醸し出していた。


 この場には、危機に敏い者しかいない。

 だからこそ彼らが分かることには、その長身の女────そう、その影はどうやら女であるらしかった────の纏う濃密な『異質』が、膨れ上がっているという事実。


 まず目に付いたのは、毛先まで鈍い紅色に染め抜かれたその長髪。

 そしてその手に持っているモノは、バレーボール程の大きさで、粘っこい液体が滴らせていた。

 ピチャリ、ピチャリと水音が地を叩いている。


 嗚呼────と。その時、理解が及ぶ。『彼女』から感じ取れる異様さの正体はまさに、そこにあったのだ。


 膨れ上がる異質の答えは────


 ────



「Grrrrrrrrr────GRRRRRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARRRRRR!!!!」



 ────『怪物』が、地の底から湧き上がるような咆哮をあげた。



◆◆◆



「……そろそろマクシミリアンが勘付いた頃、か……」


 しっとりと流れる黒い髪。

 病的に白い肌と、くびれが出来るほど肉付きに無駄のない細身の身体。


『彼女』は、警察誘導の『交通整理』で密度に偏りのある群衆の人目を買っていた。

 道行く者のすれ違う際の目を奪い、遠巻きの女子高生だかはどうせ聞こえやしまいと『彼女』に指を差していた。


 しかし、それの誰もが。

 入手した女物の服と即席のウィッグ、そしてかつて女装する際教わった化粧の技術によって、『彼女』が────拓二が変装した姿であると、ハッキリ気付いた者はいないようだった。

 一見して女に────それも相当な容姿の美少女へと変身を遂げた拓二を、指名手配しているであろう警察さえも、そばを通り過ぎても気にもしない。


「慌てふためくあいつの姿ってのも、少し見てみたかったがな……」


 そんな街中の雰囲気に対して歯牙にも掛けず、彼は歩を進めていく。


「……悪いなマクシミリアン、俺の狙いはお前と柳月祈────。お前の相手は、今は他に任せるとするさ」


 ほくそ笑む彼の声は、誰に聞かれることもなく溶け行った。


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