第五章 ~『生まれ変わった新都市』~
半年が経過し、新都市アリアドネは大勢の人で賑わっていた。石造りの建物と赤茶色の屋根瓦。それに街の至る所に植えられた広葉樹が街の雰囲気を瀟洒にしている。
「旦那様の力は凄いですね。街が大きく様変わりしました」
「本当にね~」
山田はイリスやアリアと共に支店のパン屋の屋上から街の景色を眺めていた。ゴミ山に見えるほど、人混みが街を埋め尽くしている。
「半年前までは老朽化した街だったのが嘘のようですね」
アリアドネのベースとなった街は老朽化が進み、人が寄り付かないために活気もなかった。その街を山田主導の下、新しく作り直したのだ。
「公国は戦争で人を集めていただろ。終戦で浮いた人員をすべて都市開発に回したからな」
公国から奪った資金をそのまま右から左に流用するので財源も確保していたし、さらに仕事を与えられた元公国民たちは新しい支配者である山田を歓迎するようにもなる。一石二鳥の結果が得られる施策だった。
「でもアリアドネがこんなに発展したせいで、城下町は駄目になっているみたいね」
「先日、私も城下町へ行きましたが、以前のような活気が消えていました」
「当然だ。俺がそうなるように仕向けたからな」
活気は人が集まるからこそ生まれる。都市開発の仕事があるのだから人はアリアドネに集中するし、それに何より旅人が城下町へ寄らずに、アリアドネで買い物を済ませるようになったことも大きな要因だった。
「アリアのパン屋が思った以上の効果を発揮しているな」
公国の誰も口にしたことのないような美味しいパンが食べられる。その噂を聞きつけた住民がアリアドネに殺到していた。さらにその人たちがパンを買ったついでに買い物をしていく好循環を果たし、景気が潤っていくのだ。
「それにアリアドネの女神様も一躍買っているそうだぞ」
「山田君……女神様は止めてね」
「す、すまん」
アリアドネのパン屋には黒髪の女神がいる。その美しさを一目見ようと男たちが街へと足を運ぶのだ。パンの美味しさとアリアの容姿、この両方の相乗効果でパンの売り上げ増加は止まることを知らなかった。
「でも山田君、ここまでやって恨みを買わないの?」
公国の城下町は山田のせいで廃れてしまったのだ。戦争で敗北した恨みも合わせると、その憎しみは天井知らずのはずだ。
「大丈夫さ。公爵に打てる手はもう何もない」
山田は自分の勝利を確信して、アリアの心配を否定する。この油断がとある事件を巻き起こすことを、彼はまだ知らなかった。
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