第一章 ~『ステイタスと鑑定スキル』~


「山田君のおかげでパンが売れたわ。ありがとう」

「……パン、売れたな」

「どうしたの、元気ないわね?」

「……本当にここが異世界なんだと実感してな」

「もしかしてコンソールを見て驚いたの?」


 山田はフランクが何もない空間から硬貨を取り出し料金を支払う様を見ていた。いや、正確には空中に半透明の文字盤が現れ、そこにフランクが何かを打ち込むと、硬貨が姿を現したのだ。


「山田君の世界にはコンソールがなかったの?」

「あってたまるか」

「なら説明してあげるわね。この世界では必須の知識だもの」

「助かる」

「気にしないで。私も山田君には色々教えて貰ったから」


 アリアが何もない空間に手を伸ばすと、フランクと同じようにコンソールを出現させる。真似するように山田も手を前にして、コンソールが表示されるよう念じると、念が通じたのか空中に文字盤が姿を現した。


「俺も使えるんだな」

「この世界にいる人間は皆使えるわよ。それは異世界人も例外ではないの」

「で、このコンソールはどんな役に立つんだ」

「私たち商人が最も活用しているのは硬貨の収納ね。コンソールにさえ入れておけば、いつでも取り出せるし、盗まれる心配もないもの」

「確かに便利だ。他にはないのか?」

「お金持ちなら無限に使い道はあるのだけれど、山田君のような無一文だとね……あとは自分のステータスの確認くらいかしら」

「ステータスの確認?」

「コンソールから確認できるわよ」


 山田はアリアに指示されるがまま、ステータスと記されたページを表示する。そこには大きく三つの項目が並んでいた。


 ステータス確認。自分のスキルや魔法や能力値を確認することができる。鑑定スキルがあれば他人の能力値を確認することも可能。


 ステータス購入。課金することでスキルや魔法の取得、能力値を向上できる。課金額が一定額を超えると、購入できる項目の種類が増える。


 ステータス売却。自分のスキルや魔法、能力値を売ることで、金に変換することが可能。ただし購入したときの半額以下の値段になるので注意が必要。


「ステータス確認、これだな」

「私は見ない方がいいわよね?」

「ん? 別に構わないぞ」

「そう? なら見せてもらうわね」


 山田がステータス確認画面を開くと、そこには能力値が並んでいた。能力値の詳細を調べてみる。


 まず評価という項目が目に付く。能力値を総合的に表現した項目で、GからSまで存在する。この評価を決定する能力値は主に三つのサブ項目から構成されている。


 体力。この値が大きいほど長時間活動でき、スキルの使用に大きな影響を与える。また健康にも大きく影響し、値が低いほど、病気にかかりやすい。


 魔力。魔法を使うのに必要な能力値で、値が大きいほど魔法の威力と使用回数が増す。魔法使いを目指すなら高めておくべき。


 身体能力。その名の通り肉体の頑丈さや屈強さを表現した能力値。戦闘ではもちろんのこと、運動能力に多大な影響を与えるため、肉体労働者にも必要不可欠な項目。


 山田は三つのサブ項目すべてが低く、評価に至っては最低のGと判断されていた。


「評価Gなんているのね……」

「Gは珍しいのか?」

「子供の中にはいるけれど、大人ではほとんどいないわね」

「そうか……」

「け、けれど、大器晩成なだけかも……称号の項目を見てみましょうか」

「そうだな」


 アリアに言われるがまま、山田は称号の項目を確認する。称号は取得できる魔法やスキルの種類に影響を与え、評価の高い称号であれば、幅広い力を使いこなすことができるようになる。


「俺の称号は――ゴミって書いてあるな」

「…………」

「頼むから黙るのはやめてくれ」

「ま、まだ、魔法とスキルがあるわ。ガンバよ、山田君」


 最後の望みとばかりに魔法とスキルの項目をチェックする。


 魔法。魔力を消費し発動する特殊能力。称号と才能に応じて取得できる魔法の価格が変動する。


 スキル。体力を消費して発動する特殊能力。魔法と同様に価格が称号や才能に応じて変化する。


「山田君、魔法は使えないのね」

「予想通りだな」

「けれどスキルは使えるみたいだよ」

「お、本当だ。鑑定スキル?」


 コンソールには鑑定という言葉が記されていた。スキル説明には相手のステータスを知ることができるとある。


「便利なスキルなのかな」

「便利という言葉では済まないわよ。世界で数人しか保持していない、超高級スキルよ」


 才能ない者が鑑定スキルを手に入れるには金貨数億枚は必要になると、アリアは熱く語る。自分の能力を褒められて悪い気はしないため、山田は気恥しそうに、頬をかいた。


「本当、山田君に鑑定スキルがあってよかったわ。さすがに何の取柄もないと、こちらが気まずくなるもの」

「取柄ならスキルなんてものじゃなく、長年働いてきたバンカーとしての経験があるさ」


 山田はそう言い残し、再び客引きのため大通りへと向かった。その足取りはどこか重かった。

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