チェリー・ピンク

俺は強い風が吹いてきた窓をみていた。

と同時に一瞬だけ姿が見えたような気がした蒼空さんの姿をどこか探していた。


1時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。

クラスメイトも各々が自分の座席について、自慢話や悲壮感漂うエピソードを語ったりしている。そのせいで教室はいつもより賑やかだ。


紅乃が、俺の席まで歩いてきた。

「蒼空ちゃん、ちょっとこいつ借りてくね!」

蒼空さんの返答は聞こえないが、どーせ好きにすればとか答えているのだろう。

「じゃあ、借りてくねー。ほら、葵花行くよ。」

「行くってどこに?」

「決まってんじゃん。屋上だよ」


屋上に着いた。紅乃がドアを開けて、誰もいないか確認した。



「用ってなんだよー?ここでよくない?」

「だーめ。黙ってついてくればいいの。」

「わーったよ」


屋上に到着した。

紅乃が屋上のドアを開けて誰もいないか確認した。


ここは屋上だが、背の高いフェンスに囲まれている。

その上、近くに大きな山があり、見晴らしがいいわけでもない。

だからだと思うが、この場所では漫画の世界のような幻想的なことは起きないのだ。


紅乃がフェンスにもたれかかる。

「昨日、私号泣しちゃって全然寝れなかったの(笑)」

「そうなのか。」

「うん。でもね、葵花の声が聞けてよかった。」

「俺の声聞いて泣き始めたくせに?」

「それはー、多分、葵花の声で安心したからじゃない?(照)」

「まぁ、いいよ。で、話ってのはそれじゃないだろ」

「うん。昨日ね、夢に岬橙が出てきたの。」

「本当に!?」

「うん。岬橙大きくなってたよ。葵花と同じくらいの背だったかな。昔は、私の方が高かったのに。抜かされてたよ(笑)」

「岬橙何か言ってた?」

「岬橙は、紅乃も葵花も変わってないなって。紅乃はいつも優しくて面倒見がよくて、、、」

「こんなとこで泣くなよ。」

俺は、持っていたハンカチを紅乃に渡そうとした。

「それと、それと、、、葵花は、今、すっごく、苦しんでるから、、葵花が大変だったら、助けてあげて、、、って、、、」


紅乃は泣き崩れた。

その言葉に俺は心を打たれた。

岬橙には何もかもお見通しだったっていうことだな。

俺は、ポケットからハンカチを出した。

「だから、さっき止めてくれたんだよな。ありがとな。」

泣き崩れている紅乃にハンカチを渡そうとしたが受け取る様子がないので、紅乃の頭に額を当てた。

「実はな、俺も昨日夢で岬橙に会ったんだ。俺は、紅乃を頼むって言われた。でも、俺はお前にしてやれることは何もない。いつも助けてもらってばっかで。だから今くらいは、俺のこと頼ってくれ。」

その後も紅乃は泣いていた。

俺は、紅乃が泣き止むまでずっとそばにいた。




その日、俺は2日ぶりに部活に出た。

少し足が鈍っているかなと思ったが、寧ろ足が軽くなった気がして、いつも以上に調子が良かった。

ミニゲームが始まっても、その調子で得点を量産していると、顧問の先生が息を切らせながら走ってきた。

何やら大会らしい。次の土曜日で、相手は藍相(あいそう)学院というチームだ。藍相は強い方ではない。しかし、夏に行われた都大会の準決勝で0-1で負けている相手だ。

よく見たら、勝ったらその日は一試合しかなく、負けたら敗者復活で二試合目がある。

しかも、その試合は午前中一発目の14:00キックオフとなっている。

先生が途中できたこともあり、練習はそこで終わった。


帰ろうとすると、自転車に乗った紅乃が待ってた。

「葵花、終わるの遅ーい。」

「しょーがねーだろ、片付け大変なんだから。」

「てか、汗臭いし泥めっちゃ付いてる。」

「しょーがないだろ。サッカー部だぞ!!」

「冗談だって(笑)あ、それでさ、葵花って来週の土曜日予定とかある?」

「あー、大会があるんだけど、どうかした?」

「いや、試合があるんだったらいいんだけど。私のカルタの大会があって、ここで勝てたら近江神宮行けるかも知れないからさ。葵花がもし暇だったら見にこさせてやってもいいかなとか思ってね。」

「上から目線だな(笑)」

「紺麓(こんろく)で8:00からだけど、無理だよね?」

「あー。試合があるなー。」

「じゃあ、しょーがないか。せっかくクイーンになる私のカルタを見せてあげようと思ったのに。」

「なんで、さっきから上から目線なんだよ(笑)てか、クイーンになるのかよ」

「当たり前でしょー。高校卒業までにはクイーンになるのが私の夢だから。それで、カルタ会の希望の星とかちやほやされて、銅像にまでなって近江神宮に飾られて……」

「わかった、わかった。早く帰るぞ」

「まだ終わってないー」


この日は家に入るまで紅乃の妄想に付き合わされた。




家に帰って、先生にもらったプリントを見直していると、ある事に気がついた。

「これ、試合終わってからだとギリギリ紅乃の試合見れるかも知れないな。」

カルタは朝から夜までやっている。この日の試合に勝てばギリギリ紅乃の試合が見れる。但し、紅乃が決勝まで残っていればの話だ。

そして、俺も勝たなければならない。


高校生の間にクイーンになる。か

たかが都大会で負けてたらクイーンになんてなれるわけがない。俺は藍相にリベンジして紅乃の試合を見に行く。おもしろい。答えは単純明快だった。


俺が1試合勝ち、紅乃が勝ち続ければ、俺は紅乃の試合が見れる。


久しぶりに紅乃のカルタ見に行くか。


俺は増してやる気が出てきた。

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