第47話 噂話

 その後はおじちゃんと話をしていても、気分は晴れず時間だけが過ぎていった。ふと腕時計をみると19時55分を指し、面会時間終了5分前になっていた。

「おじちゃん、もう時間だからわたし帰るね」

「おぅ、今日も来てくれてありがとうな」

「また明日ね」

 おじちゃんに部屋のドアまで送られて、病室をでた。

 いつも私は面会後にナースステーションに寄って、看護師さんに一声かけてから帰る事にしていたので、出口とは反対に進んだ。

 蛍光灯は点いているものの、夜の病院の廊下は薄暗い。歩を進める先のナースステーションは、まるで高速道路のサービスエリアのようにそこだけ明るい光を発していた。そして、20時になるというのに相変わらず騒がしく、少しずつ近づいていくと話している内容も聞こえてくる。

「あの、岡さんのところの姪っ子さん、薬剤師なのにFPSもVASも知らないの。薬剤師って本当何も知らないのね。それなのに私たちより高い給料もらってておかしくない? そんなんでいいなら私、薬学部に入りなおそうっかなー」

「ちょっと、あんたの頭じゃむりよ」

「でも、でも、薬学部の偏差値一番低いところだと、35でも入れるみたいだから、看護専門学校を首席で入学した私なら楽勝じゃね?」

「首席って、うそばっか」

「ほんとだってー」

「ってか、あんたわざわざ薬学部の事調べたの?」

「うん、さっき暇だったから」

「うわぁ、暇人ー。ってか、マジ仕事しなさいよ」

 ここまで聞いたときに、今日はステーションに寄らずに帰ろうと思った。

 私の大学はその偏差値35の大学で、授業料さえ払えれば入学できるとも言われている。もちろん、薬剤師国家試験合格率は最低で、毎年半分は留年するような落ちこぼればかりの通う大学だった。それでも、私は留年する事もなくストレートで進級し、国家試験も無事受かった。

 私は大学受験も国家試験も勉強をよく頑張ったし、今でも頑張っているつもりなのだけれど、世の中的にはそうでもないらしい。

 ナースステーションの5メートル手前で踵を返し、数歩歩くと誰かの気配に気づいた。そこには、片岡さんが直立不動で私をじっと見ていた。

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