第431話 お風呂(仮)

 盗賊を捕まえた翌日、山脈まで一度行ってみようと思って離宮を出る。もうちょっとしたら、ウィカラビアを出立するって領主様が言うから。


 温泉開発はもうちょっと後にするけど、ポイントくらい打っておこうと思ってね。


 ちなみに、ノワールに乗せてもらって街道を行く事にした。そしたら、途中の関所で止められちゃった。


「待て待て待て! 市民証を持たないものは、この先通す事は出来ん!」

「市民証? 何それ?」

「ウィカラビアの国民なら、誰もが持つ身分証だ。持っていないのか?」

「私、ウィカラビアの人間じゃないので」

「ああ、なるほど。なら、この先に通す訳にはいかんな」


 ほほう。街道封鎖という訳ですか。でも、あの人数の盗賊を捕縛した人間に通用すると思ってるのかな。


 まあ、強行突破はしませんが。こうなるのは予測済みだからねー。


 という訳で、一度離宮に戻って、ほうきで再出発です。


「あらサーリ、今日は山脈を見に行くんじゃなかったの?」

「あ、ジジ様。街道が封鎖されていたので、ほうきで行こうかと」

「そう、行ってらっしゃい。気を付けるのよ」

「行ってきまーす」


 街道封鎖とか、さらっと流すジジ様が大好き。そして行ってらっしゃいって行ってくれるのも好き。


 よーし、んじゃ張り切って行ってみようかー。あ、ノワールとブランシュ、マクリアも一緒に行くって。朝の散歩以外だと、久しぶりだね。




 王都から山脈まで、空を行くと約三時間程度。街道を行ったら、馬の足にもよるけど三日くらいかかりそう。街道がまっすぐじゃないからね。


 丘とか森とかを避けて蛇行するから、どうしてもその分余計に距離がかかる。


 山脈は、木々が生い茂っていていい感じ。高さは一番高いところで三千メートルくらいだって。結構あるね。


 温泉が湧くのは、山間の辺り。既に検索先生があたりを付けてマップに反映してくれているので、各箇所にポイントを打っておく。


 これで次から来るのが楽になるわ。ついでにマップを確認すると、おお、魔獣が本当に多いね。


『土地の魔力が強いようです。ここで育てたバニラは、香りが一段と高いものになるでしょう』


 よし、頑張る。でも、実際お世話するのはじいちゃんの土人形だけど。あ、後で借りる約束しなきゃ。


 山脈は自然豊かで色々な景色を楽しめそう。温泉別荘は山間部に作るとして、標高の高い場所にも別荘建てちゃおうかなー。


『その為には、建築資材を集めに行った方が良さそうです』


 あー、温泉別荘たくさん作ったし、船も作ったから資材が足りなくなったのか。んじゃ、また妖霊樹を狩りに行きましょう。


『妖霊樹もいいのですが、この大陸には他にも魔獣扱いの樹木があります。どれも素晴らしい建築資材です』


 ほほう、それはまた。この大陸に初めて作る温泉別荘だからねえ。そりゃあこの大陸産の資材を使った方がいいでしょうよ。


 それはそれとして、今度はどんなデザインにしようかなー?




 別荘は後で建てるとして、とりあえず入浴出来るだけのお風呂場は先に作った。公衆浴場みたいな感じ。


 男女に分かれていて、入り口と脱衣所、洗い場と大きな湯船のみ。シンプル。でも露天だし、周囲の自然景観もいいから、これはこれでよし。


 ついでに、最初に作った九番湯に入っていく。おお、これはこれでなかなか。


『土地の魔力が温泉の湯に溶け込んでますうう。いい感じですねええ』


 検索先生もとろけてる。凄いなこの温泉。ちなみに、効能は普通の温泉のものに加え、魔力回復やら魔力量向上(小)やらあるって。向上って。


 何でも、ここのお湯に浸かり続けていると、本来持っている魔力量の上限が上がるそうな。凄すぎね?


『上がると言っても、全体の百分の一かそれ以下ですからー』


 それって、元々持ってる魔力量が多ければ多い程、上がる量が増えるって事なんだけど。十分凄いですよ?


 じいちゃんが入った日には、どれだけ上がるんだか。これ、じいちゃん以外には内緒だな。




 ポイントを打ったので、今度はポイント間移動で簡単にここに来られる。あ、山脈の周囲の堀だけは、先に作っておこう。変な人達に入られても、困るからね。


 ちょっと幅広に二十メートル、深さも四十メートルにしておこう。で、ここには橋はなし。麓から入る事はないからね。


 んー、ちょっと山裾より向こう側に堀が広がったけど、まーいっかー。この辺り、人は住んでないみたいだから落ちて困る事もないだろうし。


 後は護くん達を警戒モードで配備。入ってきた人間はとーるくんで捕縛。そのままだと死んじゃいかねないから、人間を捕縛したら知らせが来るように設定。


 あ、魔獣は片っ端から狩ってね。狩った魔獣は亜空間収納へ。これで山の掃除も楽ちんだ。たくさんいるようだから、頑張って狩ってくれ。


 さて、そろそろ離宮に戻らないとなー。お昼はこっちで食べたけど、夜はみんな一緒に取る事になってるから。


 ほうきで離宮までひとっ飛び。行きよりも帰りの方が速いのは何故なんだろうね? ノワールとブランシュが嬉しそうだからいいや。マクリアは、付いてくるのが大変みたい。ちょっと不満気味だ。


 戻ったら、何やら声が聞こえる。


「まだ帰りません。帰りたいのなら、あなただけで帰国しなさい」

「お婆さま!」

「先の短い年寄りなのだから、好きに楽しんで何が悪いのやら。それに、滞在するのに国費を使う事もありませんよ。自分の資産を使うのですからね」


 どうやら、ジジ様と銀髪さんが帰る帰らないで言い争っているらしい。領主様の読み通り、ジジ様は帰らずに他の国も見たいんだって。


「船団が他の国も回るのに、どうして私だけ帰国しなくてはならないの?」

「そうは言いますが――」

「ああ、サーリ、お帰りなさい。そうね。船団と一緒に行動してはいけないのなら、サーリに頼んで彼女とのみ行動を共にするわ」

「お婆さま!」


 うーん、これはどうしたものやら。多分銀髪さんが言い負かされるから、それを待った方がいいかも。


 どのみち、ジジ様や侍女様方を船団の普通の船に乗せる訳にもいかないしねー。揺れが酷いらしいし、衛生面でも大変だろうから。

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