第13話 助け

目の前に見えていた過去が、急にふっと消えた。前にはヒカルが立っていた。魔王は面白くなさそうに舌打ちをした。

「A-001、おまえは今何をしているか分かっているのか。」

ヒカルは黙っていたが、小さく深呼吸をして意を決したようだった。

「分かっているよ、親父。」

一度恐怖した顔で俯いたものの、ぐっと顔を上げた。

「俺は、山鳥アスカを救おうとしている。」

何度も裏切られたのに、嬉しかった。その言葉だけで失望も怒りも無に帰った。ヒカルはあたしに振り向いて、今まで見せたことのないような悲しい顔をした。あたしもつられて涙が出そうだった。

「今さらかも知れない。何度も裏切ってしまったから。でも見ていられないんだ。身を滅ぼされるよりも、俺のせいで苦しむ山鳥を見ている方が嫌なんだよ。」

魔王はつまらなそうな顔をだんだん不機嫌にさせて、魔黒石が一つ入った水晶を取り出した。

「A-001、分かっているだろ。この水晶を割れば術が解けて、おまえは本当に魔黒石を失うことを。」

魔王は水晶を振り上げて地面に叩きつけようとした。

「やめて!そんなことしたらヒカルは…!」

ヒカルは飛び出そうとするあたしを優しく手で制した。別れ際に見せたのと同じ笑顔は、きらきら光っているようだった。だめだった。そんな顔をされたら、助けたいという気持ちが勝ってしまうのに。あたしはヒカルの前に立って思いっきり叫んだ。

「やめてぇ!!!」

魔王は止まった。その目は殺気立っていて、汗と震えが止まらなかった。でも、逃げなかった。

「騒々しいな、人間。魂も半分ほど削ったし、もう、よいな。」

手足を掴まれるようなネットリとした黒い声だ。

「消えろ。」

ヒカルは慌てて動き出したようだったが、魔王が放った黒い電流の方が先にあたしに到達しそうだった。しかし、

「うぐゎぁぁ!」

食らったのはあたしではなかった。

「……星!!!!」

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