わりとテンプレな少年期編
第1話 新天地
新たな大陸、ホクタロット大陸。
この
南方は比較的穏やかな気候で四季がある。北方は極寒の地。
新たな国家、マーソンフィール王国。
歴史ある由緒正しい王国。
この国の王様は俺の父親と違って良き王として民を統べている。
新たなる都市、グヌーヴァ。
そのマーソンフィール王国の辺境。
少し内陸部にあるどちらかというと寂れた小さな都市。
わずかばかりの農作と、工芸品などの生産で成り立っている。
そのグヌーヴァという街が新たな俺達の生活拠点となった。
船に揺られること数十日。
船内での生活は快適だった。
俺達を逃してくれたのはギルドでの実力者で、穏健派のベルギュム。
俺達が乗ったのは彼の息のかかった船であり、船員たちもいわば彼の支配下にあった。
直接関わりになった船員はほんの数人。それ以外には顔も見られていない。
少数派である俺達と接した船員も『どこぞの没落貴族が借金を踏み倒して逃げてきたんだろう』ぐらいの感じで俺達の相手をしてきた。
トップシークレットではあると推測はできるが詳しい事情は知らされていない。
そんなところだろう。まさか王子とは思うまい。
気づいてもいても決して表には出さない。
言われたことはしっかり守る。徹底した情報管理だ。日頃の教育の賜物だろう。
部屋から出ることを許されなかった俺達は退屈を持て余してた。
暇つぶしと言えば読書。
「こんなものを用意してくれたみたいじゃぞ」
「なに?」
「本じゃ。前の家にはほとんど無かったじゃろう。
長い船旅になる。時間をつぶすのにはもってこいじゃ」
と、俺に与えられたのはファンタジー? が多かった。
子供向けに読みやすく書かれているが内容は幼稚。
王道なお話ばかり。ぶっちゃけテンプレート。
それでも実在の国家や事件、人物をモデルとして書かれた作品は歴史の勉強として読めば、苦にはならなかった。
なんだかんだでテンプレものも面白い。しかも実話であれば興味も湧く。
まあ、活躍してるのが俺のご先祖様だったりして微妙な気分になったりもしたけど。
船が港に付く前に、用意された小舟に乗り移り、人里離れた海岸を目指した。
これは、来たときと逆の手順。
首尾よく上陸した後は手配されていた馬車で、旅をする。
数日後に辿りついたのが辺境の街グヌーヴァ。その外れにある小さな屋敷。
手入れは行き届いているようだが、かなり古い。
まあいいか。山小屋に等しい前の家よりかは立派だ。
煙突もある。暖炉も。ああ、寒いってことね。
さらば常春の日々。
「外に出るときは必ず儂と一緒じゃぞ。
それから、むやみに目立たぬように気を付けるように」
そう言い含められたが、その理由は決して教えてくれない。
俺は裏情報を知ったうえで大人の事情に屈服する少年を演じる。
「見ない顔ですね。最近来たのですか? どちらから?」
なんて買い物してるとよく聞かれる。
ゴーダは、
「いや、ちょっと事情がありましてな」
と言葉を濁す。するとそれ以上は詮索されない。
これだけでも、立派に目立つ行動だと思うんだが、大丈夫なのか?
と少し心配になる。
が、この街が俺達の新しい住まいに選ばれた理由を知って納得する。
どうやら、いろいろな事情で元の住処を離れないといけなくなったものが集まってくる街なのらしい。
理由はみっつ。
元々移住者が興した都市である。歴史も浅く、多種多様な人々が暮らしている。
それから、辺鄙な場所にあるということ。わざわざ訪ねてくるものは工業品を買い付けにくる商人ぐらい。
あと、工業が盛んなだけあって職に就きやすい。
まあ、木を隠すなら森の中とはよく言ったもので。
それに全然排他的じゃないこの街の人々は新参者を暖かく迎えてくれるらしい。
場合によっては匿ってくれることも。
長く続いた移住者の文化と団結が、借金取りやギルドの追跡を阻んでいた。
生活に慣れるまでということで、当面の生活資金は用意してもらっていた。
相手が相手だけに、ゴーダも突っぱねられない。
「しばらくは、二人でのんびり暮らすことにするか。
お互い家事はほとんど素人同然じゃ。
まずは、日々の食事や洗濯などにも慣れんといかん」
「はーい」
と俺は軽く返事をする。料理はともかく洗濯ぐらいはできるだろう。
シンチャのいないことをマイナスに考えないように。
ゴーダと俺との暗黙の了解だ。
不味い料理にも文句は言わない。
それでもやっぱり、武骨な老人と幼い子供。
シンチャの話は話題に上がる。
「ふむ、この煮物は……」
「うん、シンチャが良く作ってくれてたやつ。
どう?」
「まあ、初めてにしては良くできておるよ。
なかなかに美味い」
正直料理センスはゴーダよりも俺の方が上だった。
「じゃが、シンチャの作っていたものに比べると……」
「それを言うなよ、じいちゃん。
シンチャに敵うわけないじゃんか!」
ゴーダはお歳のせいか、昔を思い出して感傷に浸ることが多くなっていた。
「いや、美味いぞ、それは確かじゃ。
ルートは料理もうまくなるかもな。
最近みるみる上達しておる。
儂よりも……数段にな」
ゴーダはお歳のせいか、自分を卑下して少し落ち込むことが多くなっていた。
「じゃあ、毎回ご飯は俺が作ろうか?」
「いや、それはダメじゃ。
不味くても、失敗が多くとも、儂もまだまだ……」
ゴーダは歳のわりには、向上心を持った人だった。
ゴーダと俺とで共同して家事をする生活は数か月続いた。
おじいちゃんはニートです。いや専業主夫です。
しばらくした頃、
「あのなあ、ルート」
「ん?」
俺が、台所で新メニューの開発にいそしんでいた頃だ。
「儂は来週から働きに出ることになった」
「決まったの!
それならそうと言っておいてよ。
じいちゃんの好きなメニューにしといたのに!」
「いや、そう
ゴーダは少し照れ笑い。
「で、どんな仕事?」
クエスト? それとも衛兵? と聞きたい心を押さえて。
それに対して、ゴーダは少しもったいぶって、
「いや、木材を加工する工場でな。
いろんなものを取り扱っておる。
馬車の部品や、工芸品まで幅広く……」
「えっ? ギルドじゃないの?」
小さいけれどこの街にもギルドの出張所はある。
ちなみにギルドといっても、元々住んでいた国、ハルバリデュス王国のギルドとは別組織。
ある程度のつながりはあるようだけれど、登録証やらランキングなどは別系統である。
こちらのギルドにも、ゴーダ――元王国騎士団団長ゴダード――ともちろん俺の捜索依頼は出てはいるとは思う。
だが、幸か不幸かこの数年でゴーダはめっきり老け込んでいた。
当時の面影を失っている。
これならば、本人と面識のあるものではない限り、身バレする危険はないだろう。
それにこの街のギルドは、お尋ねものにも裏で仕事を回してくれると小耳に挟んでいた。
だから、てっきりそういった裏の仕事を探しているのだとばっかり思ってたけど。
「そういうわけじゃからな。
これからは、昼間は留守にするぞ。
それに帰ってくるのも遅くなると思う。
すまんが、夕飯の支度はお前に任せてしまってもよいか?」
「それは大丈夫だけど……、ギルドからお仕事貰うんじゃないの?」
と俺は聞いてみた。だって元騎士だから。枯れても衰えても需要はあると思っていた。
「儂なんかにこなせる依頼はないな。それに……登録もできない」
それが、年齢や体力的なものなのか。それともやっぱり正体が明らかになる危険を冒せないってことか。
「だって、じいちゃんは、剣術だってすごいじゃん。
今でも強いよ」
「まあ……歳には勝てんと言うことじゃ。
それよりも昼間はちゃんと勉強をするのじゃぞ」
その辺はしっかりもののじいさんだ。
教育熱心。と我が身に対してのことながら感心する。
と、いった展開で地味で何の変哲もない生活が始まるかと思っていた。
庭の無い家。
目立ってはダメだからと外に出て剣を振ることはできない。
そもそも無断外出がだめ。
買い物はゴーダがするという。
箱入り息子。いや箱入り孫。
家は狭く天井も低い。
が、子供の俺ならばなんとか剣を振れるぐらいのレベル。
だけど、あの、俺に与えられた剣は隠されてしまっていた。
「ねえ、どこにあるの?」
と何回聞いても、
「ちゃんと大事にしまっておる。その時が来ればまた渡してやるから」
と取り合ってくれない。
木刀も新しいのは作ってくれない。
剣術の練習はできない。
ひたすら退屈な勉強。それと家事。
教科書とにらみ合い、台所を友とする。
転生者として失格なぐらいの地味地味生活。
こっそり魔術書を買いにいこうかな。
いや、小遣い貰ってないな。買うことはできない。
それとも図書館みたいなのがあるのかな。
子供でも入れるのだろうか?
魔術書は置いてあるのだろうか。
ゴーダの居ない昼間に密かに出歩いてみようか。
でもばれたらそうとう怒られるだろうし。前科もちだし。
などと計画しつつも、もんもんと悩み、実行に移せないでいた。
しばらくの間は確かに地味な生活だった。
うっひゃー! でもなく、無難とも言い難い。
明らかに地味。
だけど、すぐに転機が訪れる。
ゴーダが病に倒れてしまったのだった。
俺は一家を支える身となった。
どうやって? もちろん、狩りと薬草採取でしょっ!
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