第1話
◆
水の滴が水面に落ち広がりを見せる波紋のようにして、意識が鮮明になって来る。
そして力強く目を見開くと、そこは真っ暗闇だった。
どうしたんだ?
何が起きているんだ?
息がうまく出来ない。
そして全身に力が入らない。
何がどうなっているのかは分からないが、なぜか焦っているのは確かだ。
そうだ、今こうして何もしないのは不味い気がする。
早く何とかしないと!
しかし、……何をすればいいんだっけ?
…………。
……。
わからない。
頭に靄がかかったような感じだし、なんだか考える事さえどうでもよくなって来た。
たぶん、やる事はやったさ。
それに体が言うことを聞かないのだからしょうがないんだ。
しかし重い目蓋を閉じようとした時になり、やっと思い出してきた。
確か任務中で、……そう言えば、さっきまで皆と一緒にいたよな?
そうだ、確かにいた!
でもそうしたら、みんなはどこに行ったんだ?
みんなは、俺を置いてどこへ行ったんだ!?
いや、そう言えばあの時、誰かが呼び止めようとしてくれていた。
そうだ、それを無視して一人突っ走ったんだった!
人のせいにしようとしたが、すぐに悪いのは自分自身である事に気づいてしまった。
ははっ、情けない。
普段は飄々と振舞ってる癖に、追い詰められると醜い部分がひょいと顔を出してくる。
弱い、とても弱い。
そして反吐が出るほど汚い。
……救えないな。
全身が赤き熱を帯びている事、そして身体中が各部で悲鳴を上げるような痛みを発信している事に脳が気付き始めた。
そこで重力により下方へ引っぱられ始める。
体が言うことを聞かないのだから、されるがままだ。
その時悪寒が走る。深淵の底から覗き込むような視線、そして男のせせら笑う声が。
どこだ?
誰かいるのか?
そして視線を彷徨わせていると見つけた、対になった真紅の輝きを。
その瞬間、凄まじい威圧感が全身を蝕む。身体の薄皮から次々と削られていく感覚。
そして神経、筋肉、骨ときて、最後に精神までもが削られ始め、また胸元にぶら下がる白銀色の宝石が、その光を世界に放つのを今か今かと待ち続けている中、ここ数日の記憶が走馬灯となり激流のごとく流れ始めていく。
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