暗闇の空間 ②

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 ここまで観てくださったあなた方に、こうして久しく喋る機会を与えられた私が次にいうセリフはこうです。

 『さあ、とうとうこの時がやって参りました』

 さあ、とうとうこの時がやって参りました。

 次の章からが、この世界においての分岐点です。そうです。そうなのです。あなた方は観てしまうことになるのです。

 例えそれがどれだけ酷い有様だとしても。

 例えそれがどれだけあり得ない分解だとしても。

 例えそれがどれだけ悲惨で残酷な衝撃だとしても。

 例えそれがどれだけ心外で暗い場面転換だとしても。

 例えそれがどれだけ常軌を逸していたとしても、私を含めた――暗闇の空間にいる者達は、邂逅することになるのです。

 あなた方はそれから選択することも逃げることも出来ません。ただただ、その流れに乗り、邂逅の瞬間に立ち会うしかあなた方の進む道はないのです。

 勿論、傍観者であるこの私も含めて……です。

 思えば長い道のりでした。二人の主人公が交代制で進むかと思えば現実はそうではなく、二回連続で主観になったり、そうかと思えばまた交代制に戻ったり。こんな無茶な形式の『ヒーローがいるのに平和な街』だったのにも関わらず、ここまでこうして話の展開についてきてくれているあなた方には本当に感謝の意を示しましょう。いや……割と本気で頭を下げているんですけどそうも無反応だとこちらとしても困るものが……ああ、そういえばあなた方も私をシルエットとしてでしか確認出来ないんでしたね。それなら何の動作も起こさないことに納得です。ほら、何か驚いてみてください。……何やってるかさっぱりわかりませんねシルエットじゃ……。そ、そうだ、表情の変化だけでは判断がつかないので、私の言葉に驚かれたりしてくださった方は会釈をしてもらっても構いませんか? ……は、ははは……この話は置いておきましょう……ええ、流石に戯言でしたね……ええ本当に……はは……リアクション芸人という種族の人たちの必要性が十分にわかりましたよ……ええ。

 ゴ、ゴホン。

 閑話休題です。話が逸れ過ぎました。

 えー、と……なんでしたっけ? 芸人の話でしたでしょうか? まあ確かに最近のキャラ芸人という人たちは目に余るものがありますが、それにしたってキャラ芸人の人たちも、そのキャラが売れたからといってそのキャラに定着し過ぎなのですよ。大体ですね、次第に変わっていく時代に合わすのも最もな考えなのには間違いないのですが、お笑いで一番面白いのは、やっぱり練りに練られた漫才やコントなどの昔から培ってきた歴史あるネタなんです。年末年始にやるのは新旧の漫才が多いですし、長い間続いているなんとかの神様とかなんとかエアバトルとかその辺の番組も一組のお笑い芸人が大体四、五分はネタを披露します。『短時間で笑える!!』とかそういう宣伝文句は間違っていると思うんですよね。やっぱりそういう番組に出る人達は『短時間で笑わせられる!!』じゃなくて『短時間しか笑わせられない……』芸人だと思うんです。あ、でもやっぱりその中にも四、五分間のネタを悠々と披露する人たちもいる訳ですし、そこら辺も考慮しないといけないのかもしれませんね。

 ……っと。スイマセン。今重要なのは最近のお笑い事情ではないですね。反省します。『キングオブコントの審査方法の良い部分と悪い部分』についてはまたいつか語らせてもらいます。……え? そんな話興味がないですか? あー聞こえません聞こえません聞こえませんとも。

 では、話の本質に戻らせてもらうとしましょう。ですが少し脱線しすぎたという感じもありますので、台詞を引用させてもらいます。自分が言った台詞を自分で引用するなど、私くらいしかやったことがないんじゃないでしょうか。そう思うと誇らしくなりますが、下らないと一蹴されたらそれまでですよね。

 『私を含めた――暗闇の空間にいる者達は、邂逅することになるのです。

 あなた方はそれから選択することも逃げることも出来ません。ただただ、その流れに乗り、邂逅の瞬間に立ち会うしかあなた方の進む道はないのです。

 勿論、傍観者であるこの私も含めて……です。』

  あなた方はそれから選択することも逃げることも出来ません。ただただ、その流れに乗り、邂逅の瞬間に立ち会うしかあなた方の進む道はないのです。

 勿論、傍観者であるこの私も含めて……です。

 今まで根気よく観てきたあなた方ならもうおわかりの筈です。ほら、その証拠に私の頭上にあるモニターの画面がぶれ始めました。ふむ。どうやら、今回の分岐点は『刀銃』の方で起こるようです。あ、『今回の』と表したのは言葉のあやです。これからもう一度起こるかどうかもわかりませんし、私どもにも分岐点が発生するタイミングは掴めていないのです。タイミングさえわかれば私も心の準備が整うのですがね。まあそれは無理な話なのでしょう。実際に、私はこれまで分岐点に四桁以上は邂逅しているのですが、いかんせんその分岐点が無慈悲かつ誰も救われない展開の方が多いので敬遠しているのですよ……っと、すいません。要らない話も含んでしまいました。改めて謝らせてもらいます。すいませんでした。

 なにはともあれ、こんな何もない空間で私の話をぐだぐだ聞いていていも仕方がありません。私だってあなた方のシルエットとモニターくらいしか見えないこんな場所で延々と語っているのも疲れる話なんですよ。それでも、私は喋らなければいけないのです。

 何故なのか。

 その疑問に対する回答は、『余りにも不条理な展開なのが予想される』という情報が、今しがた私の協力者から届いたからです。どうやら、今回の分岐点は私が今まで出会ってきた中でも異常に異質な分岐点だそうです。なので、私はあなた方の心の準備の為をと思い、こうやって中途半端に必要となる最低限の情報をどうでもいい言い回しで語ってる訳なのですが……所々に要らない話が含まれているのはあなた方の勘違いですからそこら辺は忘れて下さい……っと、どうやら私の思いすごしだったようですね。あなた方のシルエットから察するに、あなた方の顔は私の頭上にある映像がぶれるモニターに釘付けのご様子です。わかりました。早速観るとしましょう。

 ヒーローがいるのに平和な街の表。

 ヒーローがいるのに平和な街の裏。

 そして、ヒーローがいるのに平和な街の表の裏。

 とくとご覧あれ。

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