第70話 薬

 月に一度ノミやダニを駆除、予防するために猫に薬をつけている。

 その薬は固定電話の下の棚に入っている。わたしが薬を出すと猫は逃げる。やはり薬は苦手なようだ。わたしは猫が逃げることがわかっているので、薬を箱から出しすぐにつけられるようにテーブルの上に置く。そして猫が近づいてくるのを待つのだ。わたしが猫を待つのは、追いかけ回しても無駄だからだ。以前猫を捕まえようと追いかけ回し、結局は捕まらずわたしが疲れただけだった。だから猫が油断して近づいてくるのをひたすら待つ。

 しばらくすると、猫はごはん欲しさにわたしにすり寄ってくる。

 今だ!

 わたしは猫をガシッと捕まえる。猫は異変を感じて逃げようとするが、そうはさせない。わたしは、猫になんとか薬をつける。猫はわたしが手を離すと同時に逃げていく。

 そしてここからは、猫へのご褒美だ。いつものカリカリではなく、ウェットフードをあげるのだ。

 わたしが猫のごはんの皿を手に取ると、猫はわたしから逃げ出したことも忘れてすり寄ってくる。ウェットフードを猫に見せると、猫はわたしにぶつかるようにすり寄ってくる。

 もう薬のことは忘れているようだ。さすが食欲魔神。ごはんを出せば、ウチの子(猫)の機嫌はすぐに良くなる。

 わたしにとっては楽だが、ごはんをエサにウチの子が浚われるのでは、と心配する今日この頃である。

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