第13話 陽光
翌朝、朝食を終え、アズマとタツロウは再びミリアの屋敷を訪れた。
「また、ノックすんのかよ」
「故障はしておらんらしいからのう」
アズマは門脇のインターフォンプレートを軽く二~三度叩く。
「はーい、アズマよね?」
プレートからミリアの声が響く。
「うおっ! まじでインターフォンじゃねーか」
「ああ、準備はできておるか?」
「もちろん、すぐ行くから待っててね」
と、通話が切れる。
「これって、この世界のどこの家にも標準装備なのか?」
「実際はそれほどじゃな。
大きな屋敷ではそもそも、門番がいるからの。
小さな家では、そもそも普通のノックが聞こえるじゃろう。
どちらかというと、玄関に設置するよりも、門番と屋敷内との通話用などに使用されているらしい。
わざわざ持ち場を離れて連絡しに行く手間が省けるからのう」
などと、話しているうちに、大きな荷物を抱えたミリアがやってくる。
「アズマ、これお願いね」
とミリアが荷物をアズマに託すと、アズマはそれをアイテムボックスに格納した。
「アズマとの旅はこれがあるから楽ちんよね」
「あれから一人で旅に出たりしたのか?」
アズマが問う。
「まあ、少しくらいはね」
「それからずっと引きこもっておったのじゃろう?」
「ああ、お日様の光、久しぶり」
両手を広げて宙を仰ぐミリアをタツロウが観察する。
もちろん、実年齢の200歳前後には到底見えない。
見ようによっては17~8歳、どう転んでも20代前半である。
金のレースをあしらった白いドレスのようなローブ。
金髪の三つ編みおさげが二本。髪型も若さを演出しているようである。
「思ってたより……、なんというか若々しいな」
タツロウがミリアの顔をまじまじ見ながらつぶやく。
「彼が、タツロウだったっけ?」
「そうじゃ。儂の後継者じゃ。
といっても、まだ聖剣にも認められておらんし、魔法も使えんひよっこ冒険者といったところじゃがな」
「ほーちゃ……聖剣ホシクダキも好き嫌いが激しいもんね。
とりあえず、よろしく。
ミリア・エル・レイアット。人呼んで『極光の魔女』
こうみえても、おそらく世界一の魔法使いだわ。
アズマと違って年とって実力が衰えたりしてないし」
「ああ、タツロウだ。タツロウ・ヨシダ。
じじいに無理やり連れられて旅をしてる」
「変わった名前だけど、アズマと同郷?」
「そうじゃな。ミリアには隠してもしようがない。
同じ世界の同じ国に生まれた。といっても時代は違うが」
『タツロウがやけに素直なのが気になるんだけど』
ほーちゃんが会話に割り込んだ。
ほーちゃんは、同時に何者とも話せるために――もちろん対象を一人に絞ることもできる――、今はアズマとミリアに向けて話しかけていた。
アズマとミリアはほーちゃんの力を介してお互いの念話が通じるのである。
『おそらくあれじゃろう。
タツロウの時代の物語では勇者のパーティはほとんど女子が占めることが多かったらしい。
儂と旅するのを嫌がっておった理由のひとつもそれじゃったからのう』
『あら、あたしの魅力にメロメロってことかしら?』
『そこまでではないじゃろうが、それに近いもんはあるかもしれんな』
『残念ながら、あたしのタイプじゃないけどね』
『言うと思った』
「ともかく。これで一応の戦力は整った。
シンプローブの森の魔物とも戦えるじゃろう」
「やっぱり最初の目的地はそこなのね」
「ああ、一度契約しているから順序は関係ないが、地理的に一番行きやすいからの」
「あ、そうそう。
紹介しておくわ。あたしの精霊ちゃん。
出ておいでみっちゃん!」
ミリアの呼びかけで、彼女の胸に下げたペンダントがまばゆく光ると、小さな光の珠がふわふわと、そこから飛び出した。
光球は、アズマとタツロウの目の前で静止すると、徐々にその輪郭を露わにしていく。
かくして現れたのは、体長10センチほどの見るからに妖精といった少女である。
背中にある透き通った羽がパタパタと羽ばたいている。
「あのー、どうも。
ミツオカですぅ」
「なんじゃ? 妖精? ミリアが新たに契約した精霊か?」
「うーん、新たにというか、元々あたしの力になっててくれたみたいなのね」
「光属性の……精霊?」
「どうやらそうみたい」
「光属性には精霊は居ないって昨日行ってなかったか?」
「いや、そのはずなのじゃが……」
「そこはそれ、あたしは大魔法使いだから。
なんとか、自分の力の源を探って精霊との
「もしかして引きこもっておったのはそれが原因か?」
「まあね。かなり時間かかっちゃったけど」
「なるほど。ではミツオカ殿。
初めまして、儂はアズマじゃ。
今後ともミリアともどもよろしく頼む」
「みっちゃんでいいよぉ。
それに、普段はこうやって出てくること滅多にないからぁ」
「あ、あの、俺、タツロウです!
よろしく……」
「うん、よろしくねぇ。
じゃあ、わたしそろそろ戻るからぁ」
と光の精霊ミツオカは、ペンダントの中に戻って行った。
「驚いたのう。光の精霊とは……。
精霊の常識を覆す存在じゃ。
どうした? タツロウ、呆けた顔をして?」
「い、いやなんでもねえ」
とか誤魔化したが、タツロウとしては、じじいとむさ苦しい冒険に甘んじなければならなかったという残念な境遇が一気に男女比1:1の――タツロウはほーちゃんの存在をまだ知らされていない――わりと嬉しいパーティになったのが嬉しかったのである。
とくに、ミツオカさん――みっちゃん――の可憐さに心を打ち抜かれてかけていた。
「なあ、念のために聞くが、次に会う精霊も女子なのか?」
「基本的には精霊に性別はないからね。
みっちゃんは女の子っぽいけど、あたしがそうデザインしたようなもんだし」
「どういった精霊か教えてやってもよいが、会うまでの楽しみにとっておくのもよかろう」
「じゃあ、期待しねーで待っとくよ」
「それじゃあ、行こうかの。
ぐずぐずしている時間はないのじゃ。
準備ができ次第、王都の方からも偵察隊が出発するからのう」
「あいつらに任せておいてもいいんじゃねーの?
エンキーネを見た限りでは、魔王の力だって知れてるだろ。
ひょっとすれば、騎士団の連中が倒しちまうかもよ」
「それならば、それでよいのじゃが。
あくまでも相手は魔王じゃ。
あまり見くびっておると足元をすくわれかねん。
それに長いこの世界の人類の歴史を見ても、魔王は聖剣を携えた勇者によってのみ討伐されてきたからの。
ところでミリア?」
「なにかしら?」
「おぬしの発散する魔力。
ちと、多くなってないか?」
「ああ、これね。みっちゃんの放出する魔力なのよ」
「ほう、精霊にはそのような力が」
「まああんまり気にしないで」
「うむ、それでは出発するとするか」
3人――とほーちゃん――は、新たな力を得るために出発したのであった。
「さっきから俺ばっかり戦ってねえか?」
タツロウが愚痴る。
「いや、お主のそのスラッシュとかいう技や他の技も。
威力は申し分ないからのう。
それに、一人で倒した方が効率よくレベルが上がるのじゃから、この中で一番成長しなければならぬタツロウが出来る限り魔物を仕留めていくのが合理的じゃ。
なに、疲れたり、窮地であれば助太刀はする」
「とかいって、またギックリ腰で役にたたねえとかやめてくれよ。
まあ、今はじじいがダメでもミリアが居るから心強いが」
「ほほほ。あたしの魔法だとこの辺りの魔物は加減しても一撃で倒しちゃうからね。
もう少し先、森に入ってからぐらいかしら。
にしても、話は聞いてたけど、タツロウの剣技ってすごいわね。
アズマもすごかったけど、なんか根本が違う感じ……」
「光の波動を感じるですぅ」
「あら、みっちゃん」
「わ、わかります?」
タツロウがミツオカさんに駆け寄り、尋ねる。
「光の加護ぉ……。
想いの力ぁ……」
「あれ、また戻っていっちゃった」
「ミリア、どういうことだかわかるじゃろうか?」
「うーんと、よくわかんないけど、タツロウのそのスキルってやつもあたしの光魔法や聖剣と同じく神様からの
信じるものは救われるってことかしら?」
事実タツロウの剣技は明らかに、旅の始め、スライムなんかを相手してた時よりも成長していた。
ひとつは、騎士団との訓練で体力がついたこと。
騎士団との訓練で、さまざまな体勢から繰り出せるようになったこと。
魔物と対していくうちに、慣れもし、また新たなスキル技を試していくことで戦いの幅が広がったということなどがその要因であろう。
「これで聖剣の力を引き出せるのじゃったら、下手に魔法などは習得せんでも剣だけで戦うほうが良いかもしれぬな」
「いや、じじい。俺だって魔法使いたいんだけど。
なんかこう、魔法で牽制してから斬りかかるとか王道じゃん」
「王道かどうかはさておき。まあ一理はあるの。
場合によっては、ミリアと儂で魔法で援護に回るというのも考えておったが、まあ様子を見てから決めようかのう」
「あら、アズマはもう剣は置く感じ?」
「聖剣を譲り渡してしまえば、それほどまでの力は発揮できんからのう」
アズマの葛藤である。
ほーちゃんとともに旅に出て、まだ一度も聖剣の力を発揮してはいないものの。
年寄りの冷や水というような声は封殺して、かつての活躍を再び……と考えない時期もあった。
タツロウが頼りにならないクズニートだと考えていた頃は特にその考えは顕著であったのだ。
だが、タツロウはなんだかんだと文句を言いながらも――ミリアやミツオカさんのような女子メンにいいところを見せたいという不純な動機があったにせよ――、なんだかんだと自分の力で魔物を倒すことや、成長していくことに喜びを見出しているようなのである。
それこそ、タツロウが読んでいたWEB発の小説の主人公が元々ニートだったり引きこもりだったりしたくせに、チートを得たら人間が変わったように活躍しだすように。
もちろん、人の性格はそんなに簡単に変わるものではないだろうが、ここぞという場合に以外はそれなりに活発に生活するのである。
異世界を肯定的に受け入れて楽しむかのように。
もう少し様子を見る必要はあるが、このままタツロウが成長していき、ほーちゃんが納得してくれるのならば。
聖剣の使い手はアズマよりも、若く、
であれば、アズマは用無し――とまでいかなくとも存在意義が薄れる。
勇者時代に上げたレベルのおかげで、老いたとはいえステータスは高く、いろいろな便利スキルも取得しているが、それらだってじきにタツロウも取得するだろう。
そうなったとき、自分に何ができるか? とアズマが考えた時の選択肢のひとつが魔法使いとなって、サポートに回るということなのである。
幸いにして守護精霊である4大精霊とは一度契約済みであり、共に力を合わせて戦った仲間であり、アズマが請えば力になってくれるだろう。
そんなことを考えないでもないアズマであった。
「そろそろ、魔物のレベルも上がってくる。
一層用心して進むぞ」
「はいな」
なおもタツロウの進撃は続く。
迫りくる魔物を一人でばったばったと倒していく。
これは意外と簡単に目的地まで辿り着けるだろう……とその時は誰もが考えていた。
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