PARTⅣの3(36) 巨大ガメツカメ出現
バスの様子を見に行って戻ってきた護衛の天狗の一人が岩彦に、
「大丈夫、無事でした」
と報告した。
とにかくこの場を離れようということになり、樹林の中にいた謡達一行は鬼と天狗達に守られながら歩いてバスのところまで無事に辿り着いた。
酒呑童子は、
「わしらは戻って御殿を修復するのでここで別れるでござる」
と言って鬼達を引き連れて戻って行った。
神戸剣彦は兄の岩彦に、
「ゾンビ達がどうやって岩戸を破ったのか見に行って来る。すぐに追いつくから」
と言って鬼達に同行した。
人間達はバスに乗り込み、発車したバスは天狗達に守られながら来た道を戻りはじめた。ほとんどの者が疲れて眠ってしまった。運転手達には神戸岩彦が元気を送り続けた。
しばらくして神戸剣彦が走っているバスに戻ってきて岩彦に報告した。
「兄者、岩戸には直径三メートルほどの円筒形の大穴が開いていたよ。
あんな分厚い岩盤なのに、まるで粘土に丸い抜き型を押し込んで開けたみたいに、きれいに開けられていたんだ。
どうやって開けたのか、さっぱり見当がつかない」
夜が明けはじめた。バスはすでに高速道路を走っていた。
ほとんどの者はまだ眠っていたが、田川の運転する前のバスでは一徹と高志が目を覚ました。高志の隣ではレイ子が彼の手を握りながら眠っていた。
「田川君、わしはトイレに行きたくなった。ちょっと停めてくれんかね」
と一徹が言うので、田川は次のパーキングエリアに入ってバスを停めた。
一徹はバスを降りてトイレに行った。
時計は午前六時になった。
――ニュースを見てみよう。
田川はナビのテレビを付けた。とんでもない映像が映っていた。
どこかの街にそそり立つ、高層ビルほどの巨大な黄金の甕だった。甕の下の方は金の霞で覆われていた。
ヘリコプターからの映像だった。リポーターがそのヘリからライブ・レポートをしていた。
「本日未明、渋谷区松濤を中心とする一帯が高さ十メートルほどの金の霞ですっぽりと覆われ、
その中で爆発音が響き、更に高層ビルよりもはるかに巨大な黄金の壺が突如出現しました。
ご覧下さい、今みなさんにお見せしているのがそのライブ映像です」
――これって?
映像を見た田川はびっくりして寝ずに周囲を警戒しつづけていた神戸岩彦に、
「ちょっとこのテレビを見て下さい。これってガメツカメじゃ?」
と声をかけた。
「ああ、確かに。それにしても大きすぎる ・・・ 」
さしもの岩彦も映像を見てしばし絶句した。
――こいつはゲームマネーで肥大化した″マザー″のボディなんだ。俺が封印したあのガメツカメでは、もはやない ・・・。
岩彦は気をとりなおして、一徹、大浜、謡、奏、などを起こしてニュースを見るように言った。彼らもテレビを見て絶句した。
ニュースではレポーターが実況中継をし続けていた。
「現在、自衛隊、機動隊、消防隊が出動し、自衛隊が巨大な黄金の壺の周囲を取り囲みつつあります。そちらの映像も入り次第お伝えします。
なお金の霞に覆われた人達の安否は不明で、脱出できた方はまだ一人もいません」
トイレから戻った一徹もニュースを見てびっくりした。
当初の予定では一行はとりあえず東京に向かうつもりだった。しかしこの異常事態の発生に、一徹は提案した。
「みんなを起こしニュースをみてもらったうえで緊急会議を開いて、行き先も含めて、今後のことを話し合った方がいいんじゃないかな?」
山岡はもう一台のバスの運転手の田川のところまで駆けて行ってみなを起こしてニュースを見てもらうように言った。
その間に謡と高志が自分たちのバスに乗っている者達を起こした。
みんなはニュースを見たうえで、まだ人のまばらなパーキングエリアの休憩所に集まって緊急会議を開いた。
天狗達を代表して岩彦も参加した。
謡は一番最初に発言し、昨晩″母″と会ったことと、その時に″母″から言われたことをあらためてみんなに話した。
「私達は一緒に行動した方がいいと思うんです。同居の家族も呼び寄せて。″母″が、
『どうぞ、あなたの仲間達とその同居の家族にも力を貸してもらって、もう一人の座敷わらしを助けてあげて下さい。
それができなかったら、私もあなたもあの子も生きとし生けるすべてのものも含めて宇宙全体が、虚無に呑み込まれて消えるでしょう』
と言っていたからです。
とんでもない使命ですが、″母″がそう言っている以上、このメンバーと家族が一緒にいなければ、可能性は零になってしまいます。
凍えた座敷わらしを助けてあげられなかったら、あたしたちも含めて全てが虚無に呑みこまれて消えてしまうでしょう」
郵便局員の若者が、
「巨大化したガメツカメが東京に現れるようなことが本当に起こってしまった今、″母″の言ったことは全て正しいと思うしかない。
謡さんの言う通り、ぼく達が一緒に行動する以外、生き残れる可能性はないと思う」
と言った。
みんなも頷いた。
「しかし、どうやったら助けられるんでしょうか?」
東京の郊外の日帰り温泉にアルバイトで勤めている主婦が謡に向かって質問した。
「あたしもそれを″母″に質問しました。そしたら、こう言われました。『心の奥から響いてくる声に耳を傾けなさい』って」
ともかくみんなで一緒に行動するのが唯一の道だろうということで全員一致した。
「それなら、KS観光の直営のホテルが富士山麓の本栖湖畔にあるので、とりあえずそこに行きませんか?
五百人は泊まれるので、みなさんの家族を呼んでも十分対応できます。
平日だから、部屋はほとんど全部空いているでしょう。
私も支配人や従業員のみなさんとは顔見知りですし、一徹さんと聖川社長もお知り合い同士ということですから ・・・」
田川がそう提案した。
「あのホテルなら以前に泊まったことある。支配人もその時に会ってるし」
と一徹は頷いた。神戸岩彦も、
「富士山麓の青木が原の樹海の奥にちょっと開けた草原があって、
毎年八月の富士山の火祭りのころ、全国の妖怪の代表がそこに集まって会議と懇親会を開いているんです。
草原の中心にある
何かあったらすぐに仲間を集めることもできます。草原から本栖湖へはすぐに行けます」
と賛成した。
「でも、今はどこの道路も自動車監視カメラがあるっしょ?
″マザー″が電脳空間を好き勝手に支配できるとしたら、どこさ行くかバレてしまうんではないかい?」
北海道で酪農をしている中年の男が言った。
「そりゃそうじゃけんどなー、どこに行ったってわかってしまうんじゃったら、開き直って行くべきところへ堂々と行くしかなかろーが。
わしの好きな
今大事なのは一歩でも前へ進むことじゃと思うけん、たとえ途中で倒れてもわしゃあ
と言ったのは、太平洋の荒海でカツオの一本釣りをしている四国、土佐の初老の漁師だった。
それを聞いた一同は「そうだ、そうだ、その通りだ」とうなずき、結局、田川の案で行こうということに決まった。
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